2022年1月25日、BMWグループ(英国)のプレスサイトにて、クラシックミニのリチャージ・プロジェクトが発表された。公式発表によると、エンジンを電気モーターに載せ替えし、EV化するプロジェクトとのこと。さらに英国にあるミニ伝統のオックスフォード工場の専門チームが手がけるという。
そこで、本稿ではこのプロジェクトの概要を解説していく。さらになぜこのプロジェクトが始動したのか、日本にも導入があるのかなどについて考察していく。
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文/島崎七生人、写真/BMW
クラシックミニをEVにチェンジ!! “MINIリチャージ・プロジェクト”とは?
クラシックミニのEV化を手がけるイギリス・オックスフォードの工場
ミニといっても最新のBMW MINIではなく、classic Miniの話である。2022年1月、MINI UKのプレスサイトに、なかなか興味深い1本のニュースリリースが載った。“Recharged and electrifying : the classic Mini launches into the future”とタイトルされたそのニュースの内容は、何とclassic MiniをサクッとEVにしてしまう……というもの。
しかもどこかのプライベートなチューナー、ショップの手によるものではなく、イギリス・オックスフォードの工場(ご存知のとおりそこはclassic Mini時代からの工場で、BMWがそのまま受け継いでR50 MINIの生産拠点にした)で専門チームが直々に手がけ、送り出すという。レッキとしたメーカー純正のclassic “EV” Miniが生まれるという訳だ。
この“MINIリチャージ・プロジェクト”は、エンジンを電気モーターに載せ替え、“アップサイクル”しようという考えがベース。オリジナルのclassic Miniは1959年の誕生だが、省燃費で4人の乗員と荷物を可能なだけ小さな占有面積で運ぶというアイデアを基本にし、かつ運転して楽しいところが何よりも魅力のクルマだった。
“もしも今、再びアレック・イシゴニスがclassic Miniの設計ができたとしたら、この象徴的なスモールカーに電気モーターを搭載させただろう”とはニュースリリースのなかにあった文面だが、あくまでヘリテージを尊重し、ブランドを未来に繋げるという思いが、このプロジェクトの根幹にある。
ちなみに置換されるパワーユニットは90kWの出力をもつ電気モーターで、0→100km/h加速はおよそ9秒、航続可能距離は約160km。いっぽうで降ろされた元のガソリンエンジンは個々に保管され、将来的に再び可逆的にオリジナルの状態に戻せるようにと考えられている点もユニークなポイントだ。
classic Miniの特徴であるセンターメーターもそのまま残されるが、オフィシャルフォトを見る限り、中身は現代的な液晶のインストルメント・クラスターに置き換えられているが、クラシックな“SMITHS”の盤面を再現した描写になっていたりと粋な計らいも見てとれる。
なぜこのプロジェクトが始動したのか? 日本導入はあるのか
ところでこのMINIリチャージ・プロジェクトは、イギリス・ロンドン市内中心部に乗り入れる一定の排出ガス規制を満たしていない車両に対して通行量の支払い義務を課す“超低排出ゾーン(ULEZ)”の適用が始まったことと関係している。
2021年10月にはその指定エリアも拡大、対象エリアはそれまでの18倍に。ロンドン市では2021年3月から大型車に対してのロンドン全域の低排出ゾーンの指定も実施、2021年の道路輸送に伴い排出される窒素酸化物の30%削減を期待、2030年までに炭素純排出ゼロの達成するという目標の重要な第一歩となるともしていた。
“エレクトリックclassic Miniであれば、渋滞料金を支払うことなくオックスフォードストリートやロンドンのピカデリーサーカスで運転できる”とニュースリリース中でも触れており、MINI UKからこのニュースがリリースされたことの主旨が理解できる。
このMINIリチャージ・プロジェクトは、注意深くリリースを読むと車名の部分の表記が大文字になっており、取り扱い上は現行MINIと同格ということになる。とはいえ、ならば日本での展開はあるのか? といえば、残念ながら現状での可能性は低そうだ。
BMW広報でも「そうしたリリースがUKから出されているのは承知しています」と、距離感のある返答があった程度。思えばBMW MINIならともかく、classic Miniとなると、現状のMINIのディーラーでは受け入れ体勢はまったく整っていないだろうし、たまたま日本はイギリスと同じ右ハンドルながら、認証の問題もあるはずだ。
とはいえBMW MINIでいえば、2011年に当時のMINIをEVに改造した“MINI E”の実証実験が行なわれたことがあった。また日本以外の市場では、すでに“MINI Electric(MINI Cooper S E)”が投入されており、つい先ごろ発表された改良版では、JWC(ジョンクーパーワークス)専用色だったグリーンを纏った3ドアハッチバックの“Resolute Edition”を登場させるなどしている。
現状、日本市場で導入済みなのはMINIクロスオーバーPHEVで、このモデルは電気のみで53kmの走行が可能だ。ピュアEVの導入は現状では正確な情報が見えていないが、BMWモデルでは直近でi4が加わり、iX、iX3、i3と車種も拡充していることから、段階的にMINIのEVモデルの導入は実現されるのだろう。
クラシックミニ愛するオーナーには嬉しいプロジェクト!
エンジンを電気モーターに載せ替えるMINIリチャージ・プロジェクト。降ろされた元のガソリンエンジンは個々に保管され、将来的にオリジナルの状態に復元することが可能
classic Miniをベースにした“MINIリチャージ・プロジェクト”に話を戻すと、改めてこの取り組みは、classic Miniを愛好するエンスージャストにとっても歓迎されるプランなのではないだろうか。
ひと口にエンスージャストといっても価値観は人それぞれかもしれないが、手段はどうであれ、愛する自分のclassic Miniに乗り続けられる(しかも元のエンジン車にも戻せる)というのであればそれに越したことはないからだ。
何を隠そう筆者も自分でclassic Miniを所有した経験が何度かあり、その生まれ変わりのBMW MINIにも最初のR50時代に1度、乗った。なので“ミニ愛好家”の気持ちなら少なからずわかる。
これはclassic Miniの原稿、記事をお引き受けする度に書いていることのひとつだが、classic Miniはやはり歴史に残る(ずっと残したい)唯一無二の存在ながら、実際に乗っていると、あの特徴的なラバーコーンのヒョコヒョコした乗り心地がアバタに思えることもある。が、ひとたび手放すとその味が自分の身体に染みついていることを実感し、また乗りたくなる。
詳しいことは失念してしまったが、そういえばかつて乗っていた頃にも、どこかのメーカーのパワーステアリングを装着可能にしたキットなどがあったような憶えがある。関連して、パワーパックをまるごとコンバートしてclassic Miniに永続的に乗り続けられたら……そんな妄想を抱いたこともあった。そんな想いからすれば、MINIリチャージ・プロジェクトは、まさに夢のような取り組みである。
classic Miniは最後は日本のファンの熱望もあってなかなか生産終了にならなかった経緯があったくらいだから、イギリスだけでなく、日本でも電気モーターで走れるclassic Miniに乗りたい! と強くラブコールを送ってはどうだろう。それにはclassic Miniを1台用意しておく必要はあるが……。
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