2代目モデルでハリアーは終わる予定であったというのは有名な話。あまりの人気から急遽国内専売モデルとして続投が決められ、現在に至るのだ。
そしてハリアーの後釜モデル(厳密にはハリアーとクルーガーの後継車候補)として投入されたのがヴァンガードであった。3列シートもラインアップするなど、今思えばコスパもサイズもお見事! でも残念ながら1代限りで終了となってしまったのだ。ディーラーマン的にはどう評価していたのか!?
ハリアーは2代目で終わるはずだった……代替車種ヴァンガードっていったい何だったの?
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA
■リーマンショックなど経済困窮時代に誕生! 落としどころが見事だったヴァンガード
2007年に登場したトヨタ ヴァンガード。ハリアーの後継モデルとして3代目RAV4のプラットフォームを使って作られた
ハリアーやRAV4という、トヨタSUVの2台巨頭から、2000年初頭に派生モデルが続々と生み出された。ハリアーはレクサス RXへ、RAV4も北米市場を中心に活躍していたクルマであり、両者をベースにした国内向けのSUVを、トヨタは作りたかったのかもしれない。
初代ハリアーのプラットフォームを使って作られたのがクルーガー(現北米ハイランダー)であり、3代目RAV4のプラットフォームを使って作られたのがヴァンガードだ。
どちらかというと、ヴァンガードよりもクルーガーの方がハリアーの血が濃いのだが、逆の認識をされてしまうことも多い両車。クルーガーがビスタ店(現ネッツ店)とカローラ店、ヴァンガードがトヨペット店とカローラ店で扱われていたことも、この錯誤を助長する。
ヴァンガードの全長は4,570mmと、この手のミドルサイズSUV群と比べると、全長が100mm以上短い。当時、3列シートSUVとして人気のあった三菱アウトランダーでも全長は4,640mm確保されている。全長4,570mmに3列シートを配列するレイアウトは、かなり奇抜なものだった。
エマージェンシー用に割り切った3列シートや、見た目の装飾だけでなく質や機能にこだわり抜いたヴァンガードは、高級車をブレイクスルーし、新たな価値を創造している。それでも心臓部にはV6・3.5Lエンジンを搭載するなど、上位車格であることにはこだわり抜いた。
サブプライムローン問題やリーマンショックなど、世界金融危機に日本も大きく振り回された時代。回復が見通せない経済状況の中、高級車が今後どのようにして生き残っていくべきか、トヨタが示した答えが、ヴァンガードなのである。
■一時SUVで1位に! ハイブリッドがあれば生き残った可能性も
ほかのミドルサイズSUVと比べて短い全長で、狭いながらも3列目シートを装備していたトヨタ ヴァンガード
ヴァンガードは、販売面で大健闘したクルマだ。初期受注は月販目標の3倍以上に到達し、好調にスタートを切る。2008年には並行して販売されていたハリアーの3.5Lモデルがドロップアウトしたため、3.5Lのヴァンガードに注目が集まり、翌2009年にはSUV販売台数1位を記録する月も出てくる。
好調な販売を維持していたが、時代はミニバン全盛期。SUV市場の盛り上がりは現在ほど大きくなく、販売規模も小さいため予算も大きくは割けなかった。
また、環境問題にクルマがいかに対応するのかが議論されていた時代でもある。近しい存在であったクルーガーやハリアーに用意されていたハイブリッドモデルが、ヴァンガードには用意されなかった。
高級車としての位置づけだが、性能面でのチグハグな印象が出てきて、ヴァンガードの販売は低迷していってしまう。
■販売チャネル跨ぎで中途半端に……もう少し高級路線にしたら運命は違った!?
2003年登場の2代目トヨタ ハリアー。本来ならばこの代を最後に廃止が予定されていた
ヴァンガードは、カローラ店とトヨペット店の2チャネルを跨いでしまったため、クルマの方向性を出しにくくなった。
トヨペット店とカローラ店では、購入車両価格帯が被るところもあるが、全体として見ればカローラ店は安価、トヨペット店は上級というイメージが強く、購入ユーザー層もこのイメージを引き継ぐ。
発売当初、ヴァンガードの最上級グレード350S“Gパッケージ”は334万9500円、ハリアーのAIRは343万円とヴァンガードの上を行く。微妙な差だが、価格=車格として考えるとハリアーが上位に座ってしまうのだ。
ハリアーの跡継ぎを作るのであれば、ハリアーを超えなければならない。しかし、チャネル跨ぎを行ったことにより、ヴァンガードを「高級」に振り切れなかったのも事実としてあろう。
当時はトヨタ店にいて、ヴァンガードについては蚊帳の外にいた筆者。フラットな目線で見ていても、トヨペット店の高級SUVはハリアーであり、ヴァンガードにはカローラ店のイメージが強かった。ハリアーを専売していたトヨペット店でも、同じような感覚を持っていたはずだ。
クルマとしては十分な質感と性能を持ち、販売も安定していた。ただヴァンガードは、一つのブランドを作り上げるというところまでには届いていない。日本の高級車には、単純な質の良さに加えて、ある程度の歴史を醸成している必要がある。
ヴァンガードは、時代と戦略に惑わされてしまった。道に迷った「迷車」となり、1代で幕を閉じてしまったのだろう。
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みんなのコメント
内装ももう少し差別化されていれば売れていたかも。