2021年12月、トヨタ自動車はバッテリーEV戦略を発表し、2030年までに世界で新型EVを30車発表し、年間350万台の販売を達成すると表明した。それだけ電動化は急務とされている。
しかし、実際のところBEV(バッテリー電気自動車)やハイブリッド車、プラグインハイブリット車を販売する現場はどのような様子なのだろうか。高価なリチウムイオンバッテリーを採用するこれらの環境適合車はどうしても高額になってしまう。
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そこで経済産業省は燃料電池車で最大250万円、プラグインハイブリッド車で最大50万円という補助金を交付することを発表したが、販売現場での印象をディーラーマンに聞いてみた。
文/小林敦志、写真/ベストカー編集部
[gallink]
■FCEVで最大250万円!! 補助金の中身とは?
三菱 エクリプスクロスPHEV。補助金に関する報道が出た翌日には多くのユーザーが三菱系ディーラーを訪れたという
経済産業省は2021年11月26日、令和3年度予算案に“クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金”が盛り込まれたことを発表した。そして、2021年12月20日に令和3年度補正予算が成立した。
これは、クリーンエネルギー車(BEV/バッテリー電気自動車、PHEV/プラグインハイブリッド車、FCEV/燃料電池車)の購入への補助金、充電・水素充てんインフラ整備への補助金を交付するというもの。
クリーンエネルギー車の購入のみを見ていくと、条件をクリアした際の最大上限補助金としては、登録BEV80万円、軽BEV50万円、PHEV50万円、FCEV250万円となっている。
補助金に関する発表が出る前日、2021年11月25日にPHEVをラインナップする三菱エクリプスクロスの一部改良モデルを発売した三菱系ディーラーに補助金に関する報道が出た翌週に訪れ話を聞いた。
「最大上限でPHEVに対し50万円という補助金は破格といっていいでしょう。経済産業省から発表のあった11月26日は金曜日でした。翌日の土曜日、翌々日の日曜日には、補助金のことを報道で知った多数のお客様が店頭にいらっしゃいました。
そして、今後発売予定(話を聞いた時点)のPHEVのみの新型アウトランダーも含めて多くの受注をいただきました」と、お客さんの素早い反応に少々驚いた様子を見せていた。
現場のセールスマンが“破格”という補助金額だが、だからといって「値引き販売はダメ」というわけでもなく、値引き販売も行っていいというのだから、まさに破格の補助金といっていいだろう。
ただし、今回の補助金はあくまで令和3年度の補正予算案に盛り込まれている。そのため前出の三菱系ディーラーセールスマンによると、今回の補助金の予算規模はそれほど多くないのではないか(話を聞いた時点では予算規模は公表されていなかった)とし、
「予算規模がそれほど大きくないなかで台当たりの補助金交付額は多くなっております。状況次第ですが、早めに動かないと早々に予算消化してしまう事態も起きかねません」と話してくれた。
事情通は「すでにBEVとなるi-MiEV、PHEVのアウトランダーなど、電動車を積極的に販売してきた三菱ですが、行政の対応には補助金制度なども含め冷たいものを感じていたと販売現場で聞いております。
政府が“カーボンニュートラル宣言”や、2030年代半ばでのガソリン車の販売禁止、そして世界的な気候変動対策への積極的な取り組みが要求されるなかで、いよいよ重い腰をあげたのかなとも感じますが、これだけで終われば『やってます』アピールだけにも見えてしまいます」とのこと。
■ディーラーでの温度差に浮かび上がるインフラ整備の課題
日産 リーフ。初代リーフからBEVの販売を続けている日産系ディーラーでは反応はいまひとつのようだ
PHEVにて補助金で盛り上がりを見せる三菱系ディーラーだが、長年初代リーフからBEVの販売を続けている日産系ディーラーでは反応はいまひとつ。
「長年BEVを販売してきましたが、いまだにお客様への販売では敷居の高さを感じます。充電インフラが十分整っていないなか、こちらから積極的に売りこむことはできません。あくまで興味を持たれたお客様へ販売するしかありません」とは、日産系ディーラーセールスマン。
日産では2022年に軽規格のBEVを発売予定なのだが、日産系ディーラーセールスマンのなかには、「リーフより売るのは難しい」とする声も聞く。
ましてやアリア(日産のクロスオーバーSUVタイプのBEV)のようにオンライン販売メインで、「ディーラーでも売っていいよ」というノリを軽規格BEVでもトレースすれば、まさしく軽規格BEVに興味のある人にしかアピールすることはできないだろう。
2022年1月27日から段階的に販売開始予定となる(本校執筆時点)、アリアでは、オンライン予約販売が始まったころに、日産系ディーラーを訪れてアリアについて尋ねると、「あのネットで売っているクルマですね」と完全に他人事状態のようであった。
「オンラインで受注は受け付けるけど、納車とその後のメンテナンスはディーラーにお願い」と、面倒なことはディーラーに丸投げというのでは、メーカーの完全子会社的立場のディーラー以外とはいらぬ感情的な軋轢を生むだけ。
すべてのディーラーがメーカーと資本関係があり子会社的立場ではなく、そのなかでオンライン販売を重視したいのなら、納車及びメンテナンス窓口も既存ディーラーとは別に整備すべきとも考える。
欲しい人はオンラインでも買ってくれるだろうが、消費者の多くにはHEV(ハイブリッド車)を除いた電動車はなじみの薄いもの。
最寄りのディーラーでセールスマンの丁寧な対応というものは消費者の安心感を招くので軽視すべきではないとも考える。“欲しい人”が一通り購入してしまえば、その後は“買ってもらう”ための販売促進活動が必要となる。
そこでオンラインより戦力になるのは、やはり地元に根づいたメーカー系ディーラーとなることはくれぐれも忘れないでほしい。
■高額の補助金が見込まれるFCEVだが……
大きな額の補助金が見込まれるトヨタ MIRAIだが、やはりまだインフラ面に不安が残る
最大250万円の補助金が交付されるFCEVでは、経済産業省の資料によると、ZBA-JPD10、つまり初代ミライについて227万円を補助見込み額としている(2代目は140万3000円)。
「メカニズムに興味があるとか、気候変動対策に貢献したいなど、特別な思いがなく、同水準額を新車購入に充てるとすれば、リセールバリューが抜群に良く、値引きもかなり大きいアルファードを買ったほうがいい“買い物”とも考えられます」とは事情通。
とにかく充電インフラすら十分に整備されていないなか、FCEVに充てんする水素を供給する水素ステーションははるかに少ない(韓国よりは圧倒的に多いとはいうが)。ある地域では最も近い水素ステーションまで片道1時間ほどかかるそうで、水素を充填しに行くたび“ちょっとしたドライブ”ともなっているとのこと。
水素ステーションは営業時間が短く、また定休日もあり販売現場では、「とてもではないが、こちらから『買ってくれ』とはいえない」という状況になっているように見える。
このような環境下で高額な大型セダンスタイルのミライに興味を示すのは、地元の有力企業の経営者など、所得に余裕があり、車両を複数所有している人(ほかにガソリン車を持っている人)が目立つとの声も聞く。
なお、韓国のヒュンダイ自動車が日本市場での乗用車販売再参入を行うのではないかとの報道が相次いでいる。情報によると、ヒュンダイ自動車は内燃機関での日本車との真っ向勝負を避け、燃料電池車ネッソをメインとするクリーンエネルギー車で再参入するようである。
そのため、数年前よりネッソのサンプルモデルを日本国内に用意し、メディア関係者などに積極的に試乗してもらうなどしていたようである。ネッソはクロスオーバースタイルのFCEVとなり、それならば若い世代も興味を示すかもしれない。
すでに2020年よりほぼ東京都内のみとはなってしまうが、某カーシェアリングサービス会社に車両供給しており、正式にネッソが再参入の旗頭となればFCEVでも十分商機ありと考えているのかもしれない。
事情通は、「『補助金を交付するから消費者は積極的に買ってくださいね』とするだけでは、行政の対応は手薄といえるでしょう。充電スタンドをガソリンスタンド並みの数にすることと、充電に時間がかかるなど手間を省くべき努力も必要と考えます。手間については技術の進化も必要となりますが、インフラ整備の加速化と拡充はできるはずです。
“いままでの政府対応が怠慢”とまでは言いませんが、残念なことに自動車ユーザーの多くはすでに、『BEVなどクリーンエネルギー車は高くて面倒くさい』とネガティブイメージを持っているので、今後の車両電動化の普及は“マイナスからのスタート”ともいえるでしょう。
『日本の発電は化石燃料によるものが大半なのだから、クリーンエネルギー車に乗っても温室効果ガスの出口が変わるだけ』とも消費者の多くは思っています。
つまり政府の本気度が伝わってこないので、言われるがままクリーンエネルギー車に乗り換えると騙されているようにも感じる人も少なくないと言っても過言ではありません」と語る。
■高級ブランドに偏りがちな輸入車EV
テスラ モデル3。積極的にEVを導入している欧米車となると高級ブランドがほとんどといった現状だ
経済産業省が公表している補助対象見込み車両のリストには、当然日系ブランドより電動車でリードしている欧米系ブランドも入っているが、その顔ぶれを見ると、アウディ、BMW、メルセデスベンツ、ポルシェ、ジャガー、テスラ、ランドローバーなど、いわゆる高級ブランドモデルがほとんどとなっている。
もちろん国内導入されていないだけで、本国などでは電動車をラインナップしているブランドもあるが、EUやイギリスは2035年に原則的に内燃機関車の販売を禁止するとしているが、それでも電動車をより積極的にラインナップしているのは高級ブランド車ばかりといった状態になっている。
アメリカではテスラが富裕層の日常生活の“足”としてよく売れている。結果的には、まず所得に余裕のある富裕層から電動車に乗ってもらうというのが、世界の車両電動化の流れとなっているように見える。
世界一電動車の普及している中国でも、政府が指定する新エネルギー車(新能源車/PHEV、BEV、FCEV)の車名別販売ランキングでは、最近でこそ、“マイクロBEV”とも呼べる安価な中国民族系メーカーのBEVも目立つが、それでも欧米高級ブランドのBEVやPHEVがランキング上位に車名を連ねている。
そもそも、欧州当たりでも本気で10数年後あたりに内燃機関車の新車販売全廃を考えているのかと疑問に思える現状となっているのである。
それでも補助金を手厚くすれば、世界のように“金持ち頼み”ともいえる車両電動化の普及とは異なるアプローチで普及が進むかといえばそういうわけではない。政府の長期的な視野での、自動車だけでなない総合的で確固たるエネルギー転換政策の策定。そして充電インフラ整備の加速化なども必要だろう。
現状では既存の集合住宅に新たに充電施設を設置するには、ほぼ全世帯の同意が必要となる“高い壁”が存在する。これをクリアして充電施設を設置したケースもあるが、これは“奇跡”や“力わざの勝利”ともいわれている。
そのため現状では、今後のラインナップ増もあるがPHEVが日本国内で“折衷案”として、販売面でも注目されていくのではないかともいわれている。前出の三菱系ディーラーセールスマンは、
「エクリプスクロスならば、40から50kmは電気のみで走り続けてくれるので、生活圏内での日常的使用では電気だけで十分走ってくれます。電気を使い果たせば、そのあとは“プリウス的”に使えますので、BEVよりは現実的なクリーンエネルギー車といえるでしょう」と説明してくれた。
自動車業界は100年に1度ともされる変革期にきている。そこには、いままでの内燃機関車ありきの付随するインフラや、車検制度など周辺環境整備も山積みのようにあると思うのだが、行政の対応は相変わらず“民間丸投げ”のように見えてならない。
■日本車・輸入車ともにラインナップ拡充は急務
現在、日本のブランドの中でクリーンエネルギー車と呼べるのは写真の新型アウトランダーなど数えるほどしかない
そして、そもそも論として欧米系ブランドだけでなく、日系ブランドでも魅力的なクリーンエネルギー車のラインナップを増やすことも急務といえるだろう。
9つもブランドがあっても、簡単に数えられるぐらいしかクリーンエネルギー車がないなかで、2035年以降も日系ブランドではラインナップの充実しているHEV(ハイブリッド車)の販売が継続できるのなら、せいぜい内燃機関車からHEVへの乗り換えが進むだけだろう。
EUやイギリスでは2035年にHEVすら販売禁止にするとしている。それなのに、仮に欧州などでHEVすら販売禁止となる電動化が進んだとして、HEVも継続販売可能として「日本も電動化頑張っています」とアナウンスすれば、世界で笑われるだけのようにも見える。
しかし、欧州の車両電動化が進まず、2035年以降も内燃機関車の新車販売が継続されれば話は別。日本政府がそこまで見越しているようには見えない。
消費者はクリーンエネルギー車に後ろ向きでも興味がないわけでもなく、むしろ注目しており、関心は極めて高いようにも見える。しかしHEVを除けば電動車の選択肢は少なく、補助金を使っても高額イメージは拭えないし、政府の対応への懐疑的な見方もあり、“様子見”が続いている。
そのなかで、日本ではクリーンエネルギー車導入のメリットで、“災害時の非常電源に使える”ということを声高に叫んでいる。今回の補助金についても補助金交付に先立ち、「地域で災害などが生じた場合、可能な範囲で給電活動などに協力してもらう可能性がある」としている。
このフレーズを見ると、行政が災害時対応を民間人にも担わせようとしているようにも見え、筆者などはかなり違和感を覚える。
そもそもBEVでは、ガソリン車のような“満タン”という概念はないとも聞いている。蓄電量を空っぽにしてから充電すれば時間もかかるので、出先に充電施設があれば短時間滞在でも充電を行うと言った、“つぎ足し”を心掛けたほうがいいという話もある。
そもそも、いま町なかを走っているガソリン車がいつもガソリン満タンで走っている車両はそう多くないはず。それなのに、“災害時には非常電源として”と期待するなら、BEVはいつでも満充電にしていなければならないとも受け取れる。
諸外国では、化石燃料から電気になることでの燃料コスト減よりも、オイル交換などが不要となるので、維持していくなかでのメンテナンスコスト削減ということもアピールしている。消費者に直接的にメリットとなることを訴求しなければ普及はなかなか進まないだろう。
気候変動対策とか、災害時対応など、夢も希望もないことばかりを普及促進理由にしていては消費者もなかなか触手が動かないだろう。
内燃機関車にない面白さや、維持管理コストの削減など、わかりやすいアプローチをしないと、「補助金出せば国民はこぞってクリーンエネルギー車を買ってくれるので世界に追いつく」とだけ考えているうちは、なかなか世界のトレンドに追いつくことはできないだろう。
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