あらゆるタイプのレースにおいて成功できるドライバーについて考えると、いくつかの名前が常に浮かんでくる。1962年・1968年のF1チャンピオン、グラハム・ヒル、そして1978年のF1ワールドチャンピオンであり、インディカーでも4回のチャンピオンを獲得したマリオ・アンドレッティが最も人気のあるふたりだろう。
また、ラリーやスポーツカーやF1、そしてデイトナ500で優勝したビック・エルフォードのようなドライバーも非常に多才だ。しかし多才ということならば、ナンバーワンのドライバーはジャッキー・イクスだ。ベルギー出身のイクスは、F1とル・マン24時間で優勝し、またバサースト1000でも勝利を飾っている……。
2019年のル・マン24時間制したトヨタTS050ハイブリッド、3月7~8日のモースポフェス2020で走行
そして今回のコラムで最も重要なことには、彼はパリ-ダカールラリーでも優勝しているのだ。最近、もうひとりのドライバーが同様のやり方で歴史を刻みたいと決意した。当然のことながら、ダカールラリー初参戦で13位につけたフェルナンド・アロンソのことである。
アロンソのF1における業績は十分に知られている。2度の世界タイトル獲得に、長年の間に達成した数々の勝利だ。彼はまた、ル・マン24時間で2度の優勝を飾り、2018年/2019年シーズンのFIA WECタイトルを獲得している。アロンソはインディ500にも2度挑戦しているが、2019年は予選を通過することができなかった。
だが2020年はダカールラリー参戦を決めたことで、人気ドライバーであるアロンソのプロとしてのキャリアにおける最大の挑戦で始まった。アロンソは耐久レースへの参戦を辞めた後も、トヨタとの協業を拡大していただめ、ダカールラリーでもトヨタと組むことになった。
アロンソは当初、口に出さないまでもダカールラリー参戦を一度きりのものと考えていたようだ。ダカールラリーは楽しみのために参戦するのであって、アロンソは優勝するチャンスがあるとも思っていなかった。
元F1ドライバーのアロンソはダカールで苦戦することになるだろうと考えられていたのだ。しかし実際に起きたのは正反対のことだった。13位というのは非常に特別な結果には見えないかもしれない。だがルーキーにしては良い結果であるし、まずサスペンションが壊れたときと、その後アロンソが横転したときに失ったタイムを考慮すれば、とても素晴らしい順位だろう。実際のところ、この3時間半のロスタイムがなければ、ダカール優勝経験者のジニエル・ド・ビリエールに近いところまでいけたはずなのだ。
アロンソのペースは常にトップ5に比較的近いものだった。また、アマチュアドライバーのマシュー・セラドリがステージ優勝を飾るという稀な結果の出た日であったとはいえ、アロンソはあるステージでは2番手につけていた。
彼がうまくやっていた理由の一部は、もちろん優れたマシンがあったからだ。マニュファクチャラーからの支援を受けているドライバーは多くないので、その点でアロンソには大きなアドバンテージがあった。
また、アロンソのコドライバーは元バイクレーサーでダカール優勝経験者のマルク・コマだった。コマは短期間ダカールのディレクターを務めており、何よりもルートの責任者だった。しかしアロンソはF1出身なのでペースに欠ける可能性があってもおかしくなかった。
だがアロンソのきらびやかな体制に目をくらまされて、彼自身のミスを見逃すべきではないだろう。ダカールラリーでは数度のパンクはあって当然だが、サスペンションの損傷と、砂丘での着地の失敗は、彼の責任によるところがある。
生じた問題は、その問題を起こしたミスより大きなものだったが、ミスは防ぐことができた可能性があった。いずれにせよ、元マクラーレンのドライバーであるアロンソが、ラリーを実際にフィニッシュしたという事実は印象的だ。正直に言えば、私はアロンソがイベント全体をこなせるだろうという確信はなかった。だが初出場でアロンソは才能を証明し、ダカールを完走したのだ。
元々はダカールラリーに特別なイベントとして1回だけ参戦する計画だったにもかかわらず、ステージ優勝にかなり近づくことができたことから、アロンソは心中でダカールラリー挑戦に手ごたえを感じているだろう。
2度のF1世界チャンピオンは、おそらくダカール再挑戦についてすでに考えているだろう。当然ながらアロンソの2度目の参戦は、楽しみながら数日は良いパフォーマンスを見せるなどというものではなく、いっそう高い目標になるはずだ。2021年か先の将来にアロンソがダカールに戻ってくるのなら、トップで争うことが、彼が設定する唯一の目標になるだろう。
多くの人々は、ときに気難しさを見せるアロンソが、素晴らしい扱いをされることを期待して、自分と友人たちが楽しむための気軽な遊び場を見つけようとしていると思っている。その代わりに我々が目にしたのは、学び、改善し、困難を乗り越えて戦うことを求め、自分のマシンを修理しなければならないときには、自らの両手を汚すドライバーの姿だった。
あまり知られていないことだが、アロンソは子供の頃、ドライビングよりもメカニカル面により興味を持っていたのだ。もちろん時とともに物事は変化したが、情熱の一部は今も明らかに残っている。しかし、結局のところこの経験にはそれだけの価値があったのだろうか?
少なくともアロンソは3つの物を、トロフィーの代わりとして家に持ち帰るだろう。それはダカールラリーの完走者メダル、マルク・コマのヘルメット、そしてアロンソの記念館に展示する予定の、自身がドライブしたトヨタ・ハイラックスだ。
勝利ではないかもしれないが、マシンにはトロフィーよりも実際に経済的価値があることを考えると愉快なものだ。そして一応記しておくが、ジャッキー・イクス自身はすでに言うべきことを言っている。
「戻っておいでよ、フェルナンド。君にはダカールラリーで優勝する才能がある」
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