信頼性や耐久性が高い狭角V型4気筒
ランチア・アプリリアの小さな狭角V型4気筒エンジンは、オーバーヘッドカム構造。カムはダブルチェーンで駆動され、その横にロッカーシャフトが並んでいる。
【画像】戦前クラシック唯一の魅力 ランチア・アプリリア 1930年代のモデルたち 全133枚
エンジンブロックとロッカーカバーは、アルミニウム製。ライナーとシリンダーヘッドはスチール製だ。
ツインチョーク・キャブレターへ改造されている例は珍しいが、パワーが増し望ましい走りを披露する。後期型のアプリリア・セカンドシリーズに載る1486ccユニットの方が、トルクが太く扱いやすい。
初期型のエンジンでも、信頼性や耐久性は高い。内部摩耗しても、リビルドに必要な部品は入手可能だ。
高速域でパワーが落ちるようなら、燃料ポンプの劣化が疑われる。リビルドは難しくない。ウォーターポンプの交換には、かなりの費用が求められる。ダイナモが中心に食い込んだラジエターは、内部が詰まりやすいようだ。
ランチアは、1937年には燃料インジェクション技術をアプリリアで実験している。また1940年代には、狭角V型6気筒エンジンも開発を進めていた。
コンパクトなボディサイズで、パワーウエイトレシオは良好。電気系統は、当初の電圧が6Vだったものの、1939年から12Vへ昇圧している。点火プラグがロッカーカバー内で破損し、ミスファイアを生じることがあるようだ。
入手困難な部品が最大の課題
クラシック・ランチアの定番技術といえる、スライディングピラー式のフロント・サスペンションは、1922年のランチア・ラムダで初採用。アプリリアが現役だった頃も、遥かに優れた設計といえた。
バネ下重量が軽く、ソフトなスプリングと油圧ダンパーの組み合わせで、快適な乗り心地を実現。ステアリングの切れ角も深い。安定した制動力にも貢献していた。ダンパーのオイル漏れや、スプリングの破断には注意したい。
対するリア側は、横向きに配置されたリーフスプリング。スプリング自体や、スプリングハンガーのサビへ注意したい。破断すると、クルマが横転することも。
オリジナルのドライブシャフトには、16枚のベアリングが組まれており、1本100ユーロ(約1万5000円)ほど掛かる。英国の場合、特別な整備工具はランチア・モーター・クラブから借りることができる。
ボディはコンパクトながら、大人4名が問題なく座れる広さがある。小柄な体形なら、もう1人乗れるかもしれない。サイドウインドウのワインダーなど、インテリアのディティールにも見惚れてしまう。
クラシックカーとして嗜む上で、最大の課題といえるのが一部の部品が入手困難なこと。基本的な消耗品は滞りなく流通しているものの、部品が欠損したアプリリアのレストアは、簡単ではないと考えたい。
購入時に気をつけたいポイント
ボディとシャシー
大きな開口部を支えるサイドシルは、重要な構造体になっている。酷いサビや修復痕がないか、丁寧に観察したい。ボディの変形にも注意したい。ドアは綺麗に閉まるのが通常。インテリア用もだが、クロームトリムはほぼ入手困難だ。
ボックスセクション・シャシーはエンジンの両側へ伸びており、前後のサスペンションとジャッキポイントが固定されている。これも錆びやすい。
プラットフォーム・シャシーの場合、ハニカム構造部分が錆びる可能性はあるものの、部分的に修復可能。フロアパネルは、ランチア・モーター・クラブから入手できる。
二重構造になったトランクリッドと、荷室フロアや周辺のパネルの状態を確かめる。ラジエターの下にあるフロント・バランスパネルも、二重構造で錆びがち。
エンジン
ランチアが狭角V型4気筒エンジンを開発した理由は、小さなサイズにあった。キャブレターはゼニスが標準だが、ウェーバーへ交換されている場合も多い。基本的にエンジンは堅牢だ。
エンジンルーム内の配置などは、モデルによって異なる。今回の車両では、バルクヘッド側にリアダンパー・コントロールとブレーキ・フルードのリザーバータンクがある。
トランスミッションとブレーキ
4速マニュアルに、変速時のギアの回転数を調整するシンクロメッシュは備わらない。摩耗すると、ストレートカットの1速が抜けやすくなる。クラッチからの異音は、フルード漏れが疑われる。
ブレーキは、長期間乗らないでいると固着してしまう。インボード構造で、メンテナンスのアクセス性は良くない。
サスペンションとホイール
少々複雑な独立懸架式リア・サスペンションは、当時最先端の技術だった。
初期の穴の空いていないホイールは、入手不可能と考えたい。リムが錆びやすい。現存するアプリリアの殆どは、後期型の穴開きホイールを履いている。
インテリアと電気系統
ダッシュボードの、メーター類やスイッチ類は入手困難。すべて正常に動くか確かめたい。電気系統の配線は、劣化していて不思議ではない。
内装に用いられていたクロスは、近年になってオリジナルの配色で入手できる体制が整えられた。英国で販売された初期のアプリリアは、多くがレザー内装だった。
ランチア・アプリリアのまとめ
技術的な特徴や小さなボディサイズ、快適性、動力性能、実用性など、アプリリアには戦前のクラシックとして唯一無二の魅力がある。現代の交通にも問題なく適応でき、リラックスして運転できる。その能力には、驚くことだろう。
新車当時、先進的なアプリリアは非常に高額だった。だが近年は、クラシックカーとしてはそこまで価値が上昇していない。可能な限り良好な例を探し、往年のランチアを嗜んでみてはいかがだろう。
良いトコロ
ランチアの高い技術力が、細部にまで滲み出ている。普段の整備だけでも、楽しく感じられるはず。殆どの消耗部品は入手が可能。イタリアの専門家など、バックアップ体制も整っている。
良くないトコロ
戦前のモデルなため、一部の部品は非常に高価だったり入手できないものもある。
ランチア・アプリリア(1936~1949年/欧州仕様)のスペック
英国価格:350ポンド(1938年時)
生産数:2万64台(ベルリーナ)/7553台(プラットフォーム・シャシー)
全長:3962-4153mm
全幅:1473mm
全高:1460mm
最高速度:128km/h
0-97km/h加速:12.6秒
燃費:9.9-11.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:880-950kg
パワートレイン:V型4気筒1352・1486cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:47ps/4000rpm-48ps/4300rpm
最大トルク:7.8kg-m/2000rpm-10.2kg-m/2500rpm
ギアボックス:4速マニュアル(後輪駆動)
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