日産の代表的なスポーツモデルであるGT-RとフェアレディZ。どちらも1969年に初代が誕生し、途中、何度か生産停止になったものの、現在まで50年間もの長きにわたって存在してきた。
しかし現在、その販売台数はどちらも雀の涙ほどしかない(2018年の年間販売台数はGT-Rは累計603台、フェアレディZは591台)。
王者アルファード/ヴェルファイア ついに中古が狙い目になってきた!!
たいして売れもしないクルマを、なぜ日産はいまだに作り続けるのか。元新車開発エンジニアの立場から、その理由を紐解いてみようと思う。
文:吉川賢一
■GT-Rを作り続ける事情
R35型のGT-Rが登場したのは2007年12月。すでに発売開始から11年が経っている。毎年少しずつリファインがなされており、内外装デザインやエンジン、ミッション、足回りなど、その時々の需要に合わせて開発が継続されてきている。
日産GT-R。2007年のデビュー当初は最高出力353kW (480PS) 、最大トルク588Nm (60.0kgm)だったが年々進化を続け、現在(2016年仕様変更以降)は最高出力 441kW (600PS) 、最大トル652Nm (66.5kgm)に達している(NISMO)。なお価格もトップグレードのNISMOだと1870万2000円と、わりと目玉が飛び出るレベル
R35プロジェクトの立ち上げ当時、(現在ベストカー本誌でも連載を続けている)水野和敏氏の陣頭指揮によって、日産社内でも抜きんでたエンジニアが招集された。
日々叱咤激励され、「自ら考えて動ける曲者集団」に鍛え上げられたメンバーは、そこらのサラリーマンエンジニアとは一線を画す別世界のエンジニア集団だった。
筆者の先輩もそのチームへ呼ばれていったが、「必要ない」と判断されると、即日チームをクビになって戻ってくるくらいに厳しいものだった。
今ではそこにいた精鋭たちは散り散りになってしまったようだが、「クルマを作るにはヒトを育ててから」という当時の水野氏の言葉のどおり、当時のGT-R開発メンバーは各々が自信にあふれて見えたのを、今でも鮮明に覚えている。
「GT-R」を作り続ける理由は「走りで他社車に勝ち、日産のブランドイメージを引き上げていく」ことにある。
レースシーンで常に進化をし続け、お客様に「日産の技術力の高さ」を伝えるイメージリーダーとして、世界の名だたる強豪と肩を並べて、スーパースポーツカーとして認知され続けることだ。
その結果、NISSANというブランドを世界中に認知してもらい、「GT-Rを作っているメーカーのクルマなら安心だ」という信頼を勝ち取る戦略なのだ。これが、たとえ売れなくてもGT-Rを作り続ける理由だと考えられる。
■フェアレディZを作り続ける決意
2018年5月、フェアレディZ「Heritage edition(ヘリテージエディション)」が発売された。現行Z34型が発売開始されたのは2008年12月なので、こちらもすでに10年を超えている。2012年にマイナーチェンジが行われ、バンパーのデザイン変更やサスペンションのリファイン、そして2014年に行われた「NISMO」のマイナーチェンジを最後に、今のデザインに落ち着いた。
2018年3月に、長年の販売を記念して追加設定された「ヘリテージエディション」。価格は408万240円(6MT)と非常にリーズナブル
「3万ドル以下で誰でも買えるスポーツモデル」を実現し続けるフェアレディZには、新型復活(フルモデルチェンジ)を望む声が大きいという。スープラが500万円を大きく超えるプライスであればなおさら、「3万ドル以下」というコンセプトは生きてくる。古くからのファン、そしてこれから顧客になってくれそうな若い世代に認知してもらう、今回のヘリテージエディションは、こういった役割を担っていると考えられる。
「フェアレディZ」を作り続ける理由は、頑張れば手の届くスポーツモデルを売っているメーカーであると認知してもらうことだと考えられる。
「速さ」のために新技術をふんだんにつぎ込めるGT-Rとは「育ち」が違い、フェアレディZはコストへの制約が特に厳しい。
そのためZの開発は、GT-Rのような特別編成チームではなく、他のFR車を開発するライン設計によって開発されてきた。高い目標性能(ポルシェが多い)に対し、限られた開発予算の中で最大限の性能を絞り出すのは、並大抵のことではない。フェアレディZは販売台数が少ないものの、Zを待ち望むファンのため、そしてなにより自分たちのプライドにかけて、作り続けているのだと考えられる。
■日産が二台を作り続けること
GT-Rはレースで勝ち企業イメージを上げる役目であり、フェアレディZは普通のサラリーマンでも頑張れば買えるスポーツモデルとしての役目を担っている。
2台のコンセプトが異なるため、日産はどちらも諦めたくないのであろう。
ただしどちらも、50年の長きにわたって使い古され、ファンも大きく入れ替わっているのは間違いない。「令和」の時代となる今こそ、それぞれの再構築を期待したい。
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