ちょっと古いクルマ(1990年代後半~2012年頃まで新車販売)の後部座席は、シートベルトを全部引っ張り出すとロックする機構が、セダン、ミニバン、SUVなどの国産乗用車を中心に全車標準装備されている。この機構がついたシートベルトのことを「チャイルドシートロック機構付きシートベルト」(E-ALR)という。E-ALRとはALR(Automatic Locking Retractor=自動ロック式巻取装置)機能がついたELRシートベルトのことで、チャイルドシートを固定するための機能である。
「え? チャイルドシート?? うちには関係ない」と思う人もいるかもしれないが、この機能はチャイルドシートを使用する、しないに関わらず、1990年代後半から2012年頃までに新車販売されたすべてのクルマに標準装備されているので注意が必要だ。
今も1000万台が保有されている!! 【注意】ちょい古の後席シートベルトで窒息事故が発生!! 解除方法は??
文、写真/加藤久美子、AdobeStock(アイキャッチ写真はkamonrat)
■2012年6月末までのクルマに注意
自分のクルマの後席ベルトがE-ALR式かどうかは、シートベルト本体(ウェビング)のタグで確認できるが、古いクルマではこのタグが付いていなかったり、タグが擦り切れたりで判別ができない場合もある。
一番簡単な見分け方は、ベルトをゆっくりと全部引き出して戻すときに(ギリギリという音がする場合もある)ロックするかどうかでわかる。急いで素早く引き出すとその時点で衝撃を感知してロックしてしまうのでゆっくり引き出してみて欲しい。
例を挙げると2012年6月いっぱいで生産終了となった4代目ホンダ・レジェンド(KB1/2型)の後部座席にはE-ALRがついており、取扱説明書には以下のような警告も記されている。
■使い方知らないと危険! 現在も1000万台以上が保有されている!
マイナーチェンジやフルモデルチェンジのタイミングにもよるが、E-ALRがついた後席シートベルトを装備しているのは、遅くとも2012年6月末までに出荷(生産)されたクルマとなる。
というのも、2012年7月1日以降に出荷(販売)される新車から、後部座席にISO-FIX金具(ISO-FIXチャイルドシートを固定するための金具)の全車標準装備が義務付けられるようになったからだ。なお、発売時期によっては後部座席にE-ALRとISO-FIXが両方ついている場合もある。上記のレジェンドなどもそのパターンだ。
欧州車にはE-ALRのような機構は一部車種を除いて存在しないが、アメリカでは1996年以降、ほとんどの車種にE-ALRが義務付けられており現在でも標準装備されている車種が少なくない。アメリカ車に乗っている人は後席のベルトを確認してみて欲しい。
ところで日本にE-ALR機能が付いたシートベルトを搭載しているクルマは、現在何台くらい保有されているのだろうか。国交省の資料をもとに計算してみると、2021年度末(2022年3月末)の時点でE-ALR搭載の可能性が高い車両が少なくとも1000万台以上はあることがわかった(※トヨタ車では1995年12月発売のスターレットが最初に搭載し、2009年4月発売のウィッシュ以降廃止されている)。
筆者が独自に計算してみたのだが、1997年4月から2012年3月末までに初度登録されて2022年3月末時点で保有されている車両は、
・普通乗用車 約709万台
・小型乗用車 約753万台
となり、合計で1460万台を超える。中には2007~2008年以降のマイナーチェンジ、フルモデルチェンジのタイミングでE-ALRを廃止している車両もあるが、前述したホンダ・レジェンドのように2012年6月出荷分までISO-FIXとE-ALRの両方装備している車両もある。少なくとも1000万台前後は、まだ後席にE-ALRベルトを装備した車両が存在していると思われる。
こんなにたくさんのE-ALR搭載車が保有されていても、E-ALRの目的やロックさせない装着方法、ロックした場合の解除方法などを知っている人は少ない印象だ。
後席でシートベルトを装着する際に引っ張り出してロックさせ、「後席のシートベルトってなんでこんなに窮屈なの? 動くたびに締め上げられて苦しい!」という理由で後席ベルトを装着したがらない人も少なくないだろう。
後席ベルトに不慣れな高齢者や体が大きな方々は、ベルトを長めに引っ張り出してしまってロックさせる人が多い。
体を動かすたびにどんどん締め付けることになるが、ベルトを外して、いったん完全に巻き取ってしまえばロックは解除される(ロック解除までのベルトの長さも車種によって異なる)。大人の場合はこれで解決するはずだ。
■実際に危なかった事例を紹介。窒息死の例もあり
しかし、怖いのは子どもがベルトを引っ張り出して体に巻き付けて遊んでいるうちにロックさせたような場合である。
以下は2008年、息子が7歳の時に2代目日産ティアナ(J32型)の後部座席で撮影した写真である。このようにシートベルトをしたまま横になるとベルトが引き出されてロックする(写真はロックする直前)。
著者提供写真。後席ベルトをしたまま寝転んでいる子どものイメージ
ロックさせてこの状態から起き上がろうとすると、そのたびにベルトが戻りながらロックを続けるのでグイグイ体に食い込んで来る。首に巻き付けて遊んだりしていたら命に関わる。
恐ろしいことに、チャイルドシート世代の子どもがいる家庭でさえも、この機構のことはあまり認知されていないのが現状だ。せっかくロック機構がついているのに、まったく使うことなく(存在すら知らない)ロッキングクリップなどで固定しているチャイルドシートが2000年代初頭にはかなりあった。ロッキングクリップすら使わずに装着し、ちょっと揺らすとグラグラするチャイルドシートも多数あったのだ。
もっと怖いのは、後席に座る子どもがシートベルトで遊んでいるうちに首やおなかに絡まってグイグイ締め付けるというパターンだ。チャイルドシートを固定するためのロック機構なので、締め付ける力は非常に強力だ。
幼い子どもがクルマの後部座席で(チャイルドシートもせず)遊んでいてベルトをロックさせてしまい、窒息死した事故も過去には複数件、発生している。
少し古い資料ではあるが2008年には独立行政法人 国民生活センターが以下のようなリリースを出して注意喚起をしている。いくつか事例を紹介しておこう。
【事例1】2007 年6月/神奈川県/10歳男児
高速道路を走行中、シートベルトをしたままシートベルトを伸ばして身体に巻きつけて遊んでいたところE-ALRが作動してロック。子どもの腹部にベルトが食い込んで腹痛を訴えたので救急車を呼んだ。偶然通りかかった高速パトロール隊がシートベルトを切断し脱出。
●保護者「まったく想像外の出来事でどのようにしたらあのような状況になるのかわからない」
【事例2】2006年12月/愛知県/小学4年生
後部座席に着席していた小学4年生の子どもが、シートベルトを3重に首に巻いて遊んでいたところ、ベルトがロック。引っ張ると余計にしまり警察と救急車を呼んだ。結局救急隊員にベルトを切ってはずしてもらった。
●保護者「急ブレーキをかけていないのにロックがかかるベルトは不良品ではないのか」
【事例3】2001年7月/愛知県/小学2年生男児
小学2年生の息子を後部座席に座らせ、シートベルトをするように指示した。子どもが「痛い」と言い出したので調べるとベルトが締めあがっていた。どうやってもはずせずベルトをはさみで切った。お腹に 2 ミリ幅の青アザができていた。
●保護者「販社に申し出たが親の不注意だと言われた」
【事例4】1999年6月/京都府/9歳男児
9歳の息子が後部座席でシートベルトを首に巻きつけて遊んでいたとき、巻き戻しでロック状態になり窒息しそうになった。父親がシートベルトをつかみ母親がはさみで切った。
●保護者「メーカーは機能は正常で誤使用による事故だという。解除機能がなく、収納時は表示が裏になり見えない」
このほか、走行中の車内で両親が前席に座り、一人で後席に座っていた小学生がベルトを首に巻き付けて窒息死した事例や駐車場の車内に残された4歳の幼児が同様に命を落とした事例もあった。
事例1~4の保護者のコメントを読むと、これらの子どもの保護者全員がチャイルドシート固定機構付きシートベルトの意味や目的を全く理解していないことがわかる。
とはいえ、実際にクルマを購入する際、ディーラーの営業マンがE-ALRやチャイルドシートの固定について注意喚起をするとはあまり思えないし、ユーザーの多くがE-ALRの危険性について知る機会がなかったのも確かだろうから、保護者の無知を責めるのは酷だろう。同情の余地は十分にある。筆者の周囲でも10人くらいのママ友に聞いたうち、2人が「うちも経験あり!」と答えてくれた。2組とも119に通報し、ベルトを切断してもらったそうだ。
平成17年式スバルレガシィB4 ロックした時の解除方法についても明記している
■自分のクルマにE-ALRシートベルトがついていたら何に気を付ける?
後部座席のシートベルトがE-ALR式でチャイルドシート固定機構がついているかどうか。それは、前述のようにシートベルト本体のタグなどを見れば確認できる。もちろん取扱説明書にも記述があるはずだ。
実際にベルトをゆっくり引っ張り出して全部出したところから巻き取っていくときにロックするようであれば、それはE-ALRのシートベルトであるということだ。
子どもがいる家庭なら、ベルトで遊ぶことは絶対にやめさせなくてはならない。そもそもチャイルドシートを使っていればベルトで遊ぶこともないだろう。だが、例えばクルマが止まっているとき、車中泊でフルフラットにしているときなど、子どもが後席で遊んでいるようなシーンでは要注意だ。
子どもにとってシートベルトは引っ張れば出てくる、手を離すと瞬時に引っ込む…面白い遊び道具かもしれないが、首やおなかに巻き付けて遊んでいるとロックして外れなくなり、最悪の場合、死に至るケースもある。車内放置の危険は熱中症だけではないことを肝に銘じておこう。
なお、ロックした場合でも一度全部のベルトを巻き取り装置に戻すとロックは解除されるが、体にぐるぐる巻きつけている状態だとベルトがロックしたまま戻せなくなる場合もある。その場合はベルトをハサミかベルトカッターなどで切るしかない。一刻を争う事態なら躊躇している時間はない。
ベルトを切断して交換する場合の費用は、ベルト(ウェビング)部分だけならば2万円前後(工賃別)が相場となるが、古いクルマは新品純正部品の入手ができないことも多い。その場合は中古品または社外品を使うことになるだろう。
また高齢者がE-ALRのベルトを使う場合はロックさせないようドライバーが手を添えて、ガチャっと差し込むところまで手伝ってあげるのがベスト。安全のために使うシートベルトが誤使用によって凶器となることもある。
我が家のクルマだけではなく、格安レンタカーや代車の場合も後席がE-ALRのケースもあるので、どうかお気を付けて。
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