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目指すはWRC「グループA」 ゴルフ・ラリー(Mk2) x デルタ・インテグラーレ 初代から5代目 比較試乗(2)

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目指すはWRC「グループA」 ゴルフ・ラリー(Mk2) x デルタ・インテグラーレ 初代から5代目 比較試乗(2)

グループAのホモロゲーション仕様

50万台に迫る大ヒットを生んだ、初代フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI。当時のクルマ好きは、スポーティなハッチバックを求めていた。

【画像】小さなファミリーカーを指す代名詞 VWゴルフ 初代から5代目 最新の8代目も 全137枚

1983年に発売された2代目ゴルフ GTIの売れ行きは、クラフトワークのド直球テクノのように、先が読める展開に近かった。同時に、フォルクスワーゲンがさらなる高性能を目指したとしても、まったく不思議ではなかった。

そんなタイミングでラリー界に巻き起こったのが、自由度だけでなく危険性も高かったグループBカテゴリーの廃止。その最終年となった1986年に、ゴルフ GTI Mk2はグループAカテゴリーへ参戦し、勝利していた。

翌年以降、多くのメーカーがグループAへなだれ込んでくることは明らかだった。ゴルフの性能向上は、モータースポーツ的にも喫緊の課題になった。

果たして、2代目をベースにしたゴルフ G60ラリーは、1989年にリリースされる。新たな世界ラリー選手権(WRC)へ向けた、ホモロゲーション取得を前提とした仕様だ。

直列4気筒エンジンはGTI仕様がベースだったが、国際自動車連盟の規則へ準じ、排気量は1781ccから1763ccへ僅かに縮小。フォルクスワーゲンが開発したスーパーチャージャーをドッキングし、最高出力は162psへ引き上げられた。

このブロワーはクランクシャフトによって駆動され、ターボの弱点といえたブーストラグは皆無。最大トルクは22.9kg-mへ上昇し、その9割は2500rpmから5600rpmという広範囲で生み出された。

ランチアS4のドライブトレインを転用

エネルギッシュなエンジンを受け止めたのが、シンクロ4と呼ばれた四輪駆動システム。通常は前輪へトルクが伝えられるが、トラクションが落ちるとビスカスカップリングが機能し、後輪側へも割り振られた。

これにより、0-96km/h加速は7.6秒を実現。最高速度は209km/hへ上昇した。

さらにゴルフ G60ラリーでは、フェンダーをブリスター状に拡幅。前後に大きなスポイラーが追加され、ヘッドライトは丸ではなく、フォルクスワーゲン・ジェッタ風の長方形へ変更された。通常のゴルフとの、明確な差別化が図られていた。

装備も充実し、レザー内装にパワーステアリング、集中ドアロック、スモークウインドウ、電動サンルーフが標準。そのかわり、英国価格は1万8325ポンドで、ゴルフ GTI Mk2より7326ポンドも高かったが。

これと並行し、イタリアで能力を磨いていたのがランチア・デルタ。発売は1979年に遡るが、四輪駆動のデルタ HFインテグラーレは1987年に登場。当時の英国価格は1万5920ポンドで、前輪駆動のHFターボより約6000ポンド高かった。

デルタ HFインテグラーレも、ゴルフ G60ラリーと同様にラリーのホモロゲーション・モデル。グループBで大暴れした、ランチアS4のドライブトレインが転用されていた。

状況に応じてトルクを必要なタイヤへ分配可能で、センターデフが前後を、トルセンLSDがリア左右の駆動力を変化させた。前後のトルク割合いは、HFインテグラーレ 8Vで平常時が56:44。改良のたびに、リアへの分配率は増えていった。

筋肉増強剤が打たれたようなスタイリング

今回ご登場願った、レッドのデルタ HFインテグラーレも8Vで、かなり珍しい。後期の16Vではエンジンヘッドが16バルブになり、ボンネットが僅かに膨らんでいる。

技術者のアウレリオ・ランプレディ氏が設計した、フィアット由来のツインカム・ユニットへ、大きなターボとインタークーラーを合体。最高出力187psと、最大トルク30.9kg-mを獲得している。

大径ブレーキを収めるため、アルミホイールはインチアップ。サスペンション・スプリングとダンパーも専用アイテムが組まれ、意欲的な走りへ備えた。

デルタ HFインテグラーレ 8Vで特に際立つのは、筋肉増強剤が打たれたようなスタイリング。ジョルジェット・ジウジアーロ氏による均整の取れたボディへ、大きく膨らんだブリスターフェンダーが与えられている。

フロントにはスポイラーが追加され、丸目4灯のヘッドライトを包むグリルはブラックアウト。後に16Vを経てエボルツィオーネへ進化し、容姿の凄みは増していくが、筆者は8Vの少し落ち着いた雰囲気が好きだ。

それでも、ゴルフ G60ラリーの方がもっと控え目。現在のオーナーはジェームス・スティーブンス氏で、2013年に購入し、丁寧なレストアを施したという。

英国へ正規に輸入されたのは、71台だけ。右ハンドル仕様の設定はなかった。希少なゴルフなだけに、時間とお金をかける価値はあったといえる。

目立った違いのないG60ラリーのインテリア

少し小さめのタイヤを、外側へ張り出したホイールアーチが覆う。長方形のヘッドライトと相まって、普通ではない雰囲気を滲ませるが、ドアを開くと上級グレードのゴルフ Mk2と印象が重なる。違いといえば、ハーフレザーのスポーツシートくらいだ。

メーターパネルは幅が広く、スピードとタコのメーターが並ぶが、スポーツカーっぽくはない。発進させると、1980年代のフォルクスワーゲン特有の緻密さが、操縦系から感じ取れる。5速マニュアルのシフトレバーは、ストロークが長めだけれど。

速度が上昇すると、ステアリングホイールへ伝わる感覚はゴルフ GTIより僅かに薄い。パワーステアリングの影響だろう。しかし、レシオは適度にクイックで、反応はダイレクト。狭いテストコースを、軽快に巡れる。

6000rpmまで引っ張ると、8バルブの割に洗練された質感だとわかる。スーパーチャージャーの悲鳴も、殆ど聞こえない。

フロントタイヤは粘り強く路面を掴み、リアタイヤが軽快な回頭性をアシスト。シンクロ4システムは、操縦性を重視した設定にある。

加減速時のピッチや、旋回時のロールは大きめ。姿勢制御に落ち着きはあるものの、ホモロゲーション・モデルの割に、サスペンションは柔らかい。

異なるエンジンの印象 ドラマチックな加速

デルタ HFインテグラーレ 8Vへ乗り換える。イエローが差し色のメーターパネルと、リムの太いステアリングホイールに気持ちが高ぶる。運転姿勢は、腕を伸ばし、膝を曲げたイタリアン・スタイル。内装には、1980年代のモダニズムが香る。

シートのサポート性は、ゴルフ G60ラリーの方が優れる。エンジンはリビルドを受けたばかりで、まだ250kmしか走っていない。それでもパワーを解き放って欲しいと、静かに訴えているように感じる。

ステアリングは遥かにクイック。腕の延長のように、シャシーと意思疎通ができる。路面のニュアンスが、脳へ伝わる。ボディの動きは引き締まり、グリップ力は勝り、ゴルフ G60ラリーより高速に公道を駆け回れることは間違いない。

エンジンの印象は、さらに異なる。アイドリング時から好戦的で、ツインカムのメカノイズが重なる。回転上昇と同時に、ターボチャージャーの高音もクレッシェンドしていく。

3500rpmから5000rpmのパワー感は、背中を押されるように豪快。速度上昇が、これほどドラマチックに感じられるモデルは多くない。

この2台に優劣を付けるのは難しい。ゴルフ G60ラリーは、ラリー・ホモロゲーションだと感じさせないほど、日常のオールラウンダー。動力性能に優れ、シャシーは一般道との相性が良く、洗練度も高い。

他方、デルタ HFインテグラーレは、WRCで多くの勝利を収めた理由を普段使いでも感じ取れる。筆者なら、しばらく悩んで、こちらへ1ポイントを与えるだろう。

協力:タンク・バラット社

ゴルフ G60ラリー(Mk2)とデルタ HFインテグラーレ 2台のスペック

フォルクスワーゲン・ゴルフ G60ラリー(Mk2/1989~1992年/欧州仕様)

英国価格:1万8235ポンド(新車時)/3万5000ポンド(約665万円/現在)以下
生産数:5000台
最高速度:209km/h
0-96km/h加速:7.6秒
燃費:10.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1195kg
パワートレイン:直列4気筒1763cc スーパーチャージャーSOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:162ps/5600rpm
最大トルク:22.9kg-m/4000rpm
トランスミッション:5速マニュアル(四輪駆動)

ランチア・デルタ HFインテグラーレ 8V(1987~1989年/欧州仕様)

英国価格:1万5920ポンド(新車時)/4万5000ポンド(約855万円/現在)以下
生産数:9841台
最高速度:215km/h
0-96km/h加速:6.6秒
燃費:10.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1215kg
パワートレイン:直列4気筒1995cc ターボチャージャーDOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:187ps/5300rpm
最大トルク:30.9kg-m/3500rpm
トランスミッション:5速マニュアル(四輪駆動)

文:AUTOCAR JAPAN AUTOCAR JAPAN
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