もはやSUVは特殊なジャンルではなくなった。特にコンパクトクラスはハッチバックスタイルが基本となるだけに、最近はむしろSUVが主流なのでは、と思えるほどだ。ここに会した国内外の人気コンパクトSUV5台、駆動はすべてAWD。スタイルも走りも“全部乗せ”のクルマたちの魅力と実力を探ってみよう。REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune)PHOTO●藤井元輔(FUJII Motosuke)※本稿は2017年5月発売の「モーターファン Vol.7」に掲載されたものを転載したものです。クルマの仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
MINIクロスオーバーが二代目となった。初代の発売から約6年ぶりのフルチェンジとなるが、この新型MINIクロスオーバーを含むコンパクトSUVの隆盛を見ると、ちょっと感慨深いものがある。
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初代クロスオーバーが発表されたのは2010年初頭だが、同時期にもう1台のコンパクトSUVが登場している。同年2月にフランスで発表された日産ジュークである。
この2台の登場時点では、世にコンパクトSUVと呼べるクルマはあまり存在せず、明らかにニッチ商品だった。ちなみに、それ以前から存在していたのはトヨタ・イスト、VWクロスポロ、スズキSX4などで、これらがいわば元祖コンパクトSUVである。今にいたる世界的コンパクトSUVブームは、MINIクロスオーバーとジュークのヒットで火がついた。この2台をキッカケに、各社が堰を切ったようにコンパクトSUVを商品化。わずか3~4年で世界主要メーカーのほぼすべてが、この種のモデルを持つようになった。
昨年末にデビューしたトヨタC-HRは、そんなコンパクトSUVとしては最後発中の最後発といっていい。ただ、トヨタは初代イストを02年に出している。VWクロスポロの前身となったポロファンの発売が03年、初代SX4のそれが05年だから、トヨタこそがコンパクトSUVの本当の元祖ともいえなくもない。それなのに……というか、それゆえに後のブームに乗り遅れたのか、今回のC-HRはまさに「満を持すにもほどがある!?」と言いたくなるほどのタイミングである。
そんなトヨタC-HRは、さすがの圧倒的な後発だけに、世界の競合車を研究しつくしたうえに、ひとヒネリを加えたクルマである。
C-HRの土台となったのはトヨタの新世代「TNGA」だ。TNGAプラットフォームにはクラスに応じた複数パターンがあるようで、C-HR(やプリウス)のそれは社内的に「TNGA-C」と呼称されており、基本的にはCセグメント用。つまり、C-HRの骨格はコンパクトSUVとしてはひとクラス上級で、ボディ全長も比較的大きい。そういう贅沢な作りとサイズながら、価格はBセグベースの他社競合車と真っ向勝負。さらにひとヒネリどころか2回転半くらいヒネッたデザインとも相まって、C-HRのショールームアピールはさすがアタマひとつ抜けた感がある。
今回はこのC-HRを含めて、編集部はあえてAWDをそろえた。コンパクトSUVは、SUV本来の性能より「見晴らしがよくて、ちょっとシャレた乗用車」という軽い存在だから、各車とも売れ筋は圧倒的に2WDという。だがこの種のクルマの買い手に多い上級クラスからのダウンサイザー層には「ダウングレードではなく、あえてこれを選んだ」と自己満足するのにAWDは格好の付加価値。また、ダウンサイザーに多い年輩世代にはいまだ「SUVはAWDであってこそ」という思い込みも根強く、このクラスでも、門外漢が思っている以上にAWDのニーズが多い。
5台のAWDはどれもよく似たもので、基本的には電子制御化されたクラッチもしくはカップリングを使ったオンデマンド型。アクセル開度や舵角その他の状況に応じて、グリップ状態でも積極的にトルクを後輪に吸い出す点も全車に共通する。
ただ、このなかでもレネゲードとジュークのAWD機構は、ちょっと変わった工夫を追加しており、その目的が好対照なのが面白い。
レネゲードのそれはオンデマンド型をベースに「ジープ」の名に恥じない悪路走破性を確保するために、任意に直結AWD化できる「AWDロック」モードが付くのが大きな特徴だ。さらに副変速機はないが、ローギヤードの1速に固定した這うような超低速走行ができる「AWDロー」モードもある。また、2WD時には変速機からもプロペラシャフトも切り離して、フリクションロスをさらに低減させる機構もつく。AWDにヒネリを加えるのは「ジープ」のプライドというものだろう。
ジュークのAWDはレネゲードとは対照的に、舗装路での運動性能を意識したタイプだ。電子制御カップリングをセンターではなく、左右後輪それぞれに装備して、左右独立でトルク配分する。たとえば、コーナリング時はリヤの外輪に優先してトルクを流すことで、回頭性を高めるような制御も行うという。
まあ、今回はあくまでオンロード試乗に限ったのでレネゲード自慢の悪路性能を試す機会はなかった。それにしても、最近の電子制御オンデマンドAWDは見事に黒子に徹する。レネゲードの2.4ℓやMINIの2.0ℓディーゼルはこのボディには明らかに過剰なエンジンである。特に今回のMINIはクーパーSDで、同エンジンのFFハッチバックの経験から考えて、かなりのジャジャ馬化が想像できた。
しかし、実際のレネゲードとMINIに、かつてのオンデマンド型のような瞬間的にも路面を引っかくような無粋な所作は皆無。意地悪に振りまわそうとしても、涼しい顔でシレッと御しきるだけだ。ましてC-HRの1.2ℓターボ(のFFは海外向けに存在)やヴェゼルの1.5ℓハイブリッドはもともとFFメインで、それをAWD化しているのだから、事件がなさすぎて拍子ぬけするほどである。
このシレッと感は、「左右トルクベクトル」という武闘派なキャッチフレーズを掲げるジュークでも、基本的には変わりない。山坂道で少しばかり気張ってみたところで、AWDが積極的に曲げているという実感はほとんどない。まあ、意図的に姿勢を崩して強引にアクセルを踏めば「そういえば」と思い当たる瞬間がないわけではないが、それも本当にビミョーなレベルである。ただ、このクルマがチョロQのごとき短くて背高のボディにCセグ・ホットハッチでも十分な高出力1.6ℓターボを積んでいることを考えると、これだけの速さと回頭性を両立しつつ、なんら不安感を抱かせない安心感は素直に大したものだ。冒頭のようにジュークは初代MINIクロスオーバーと同時期に登場した古参モデルだ。内装の質感や剛性感、そして絶対的なスタビリティなどに設計の古さは否めないものの、ボディは小さく、車重は軽い。純粋に運転を楽しむコンパクトスポーツとしては事前の予想以上に「現役感」がまだまだ濃厚である。
トヨタC-HR
コンセプトカーそのままのような斬新なデザインが話題のC-HR。リヤのドアハンドルを隠したりテールゲートを寝かせたりといった2ドアクーペ風のスタイルを採用してパーソナル感を重視している。ガソリンとハイブリッドのふたつのパワートレインが用意されており、ガソリンはすべてAWD、ハイブリッドはすべて2WDとなる。
「G」と「G-T」は本革とファブリックのコンビシートが標準で備わる。前席のスペースは十分だが、後席は座面が低い上に窓が狭いので閉塞感がある。ただし前席下への足入れ性は高い。
ホンダ・ヴェゼル
燃料タンクを前席の下に配置する、ホンダ得意のセンタータンクレイアウトにより、コンパクトながら実用的な居住スペースを確保。それでいてスタイリッシュな外観を持ち、さらにハイブリッドもラインアップという全方位的に満足度は高い。デビュー以来高い人気を維持し、2014年から16年までSUV新車登録台数No.1の栄誉に輝いている。
フロントはシートサイズも大きく、適度な高さの視点は運転もしやすい。後席は足元・頭上ともに十分なスペースで開放感もタップリだ。
コンパクトSUVは、いま最も旬なカテゴリーだ
C-HRとともに、格上のCセグメント骨格を持つのが、BMW X1と共通のプラットフォームを使う新型MINIクロスオーバーである。まあ、MINIはそのぶん価格も圧倒的に高いので、C-HRのような買い得感は薄い。だが、全身にみなぎる剛性感と、内装の凝った意匠によるイイモノ感もまた、今回の5台では圧勝だ。件のAWDシステムに加えて、高い横剛性によるタイトなコーナリングは、いかにもBMWの血統をうかがわせる。
MINIのホイールベースは兄弟車のX1と同寸で、コンパクトSUVでは最長クラスである。いっぽうで全長は正しくコンパクトSUVの短さだが、それはオーバーハングを限界ギリギリまで削り取ることで実現している。よって、室内空間はCセグメントと比較しても遜色なく、各部の質感だけでなく、実用性でも高価格を納得させる部分はある。
レネゲードの骨格設計は今のところ、ほかには同じくSUV系のフィアット500Xが使っているだけで、他社のように「乗用車の○セグメントと共用」という表現はしづらい。レネゲードにはフロアを中心に一般的なBセグメントを超えたオフローダーらしい堅牢感もあり、ロングスパンのリヤストラットサスも地上高の大きいSUVに最適化したチョイスといえないこともない。
レネゲード以外の4台の運転席環境は、良くも悪くも普通のセダンやハッチバックに毛が生えた程度にとどまるが、レネゲードだけは周囲を見下ろすオフローダーの雰囲気が強い。シート高が最も高いだけでなく、同時にダッシュボードやベルトラインも相対的に低めで、見晴らしがよく、車両感覚もつかみやすい。前後左右に、ゆったりと動かすSUVらしいライド感も心地いい。
現在の国内SUV市場は、長らくトップに君臨していたホンダ・ヴェゼルをC-HRが新車効果の勢いで抜き去って……という状況だが、いずれにしても、この2台が国内販売では他を圧倒する双璧である。
TNGAによるC-HRの走りはいかにも最新トレンドのそれ。ボディが路面から浮いたようなフラット姿勢を保ちつつも、サスペンションは意外なほど柔らかに凹凸を吸収して乗り心地よく、ステアリングを切ると水平姿勢のままグイグイと曲がっていく。そうした美点は、軽量エンジン+AWDを持つ今回の1.2ℓターボでより顕著である。
対してヴェゼルはフィット由来のプラットフォームで、C-HR比で何となく車格がひとクラス下の感覚は否めない。ディーラー試乗などのチョイ乗りで2台を比較したら、大半の人が「C-HRのほうが高級なクルマだ」と思うはず。C-HRはヒネリが効いたデザインとともに、その「CセグメントベースのコンパクトSUV」という出自から来る車格感が大きな売りである。
ただ、こうして直接2台をじっくり乗り較べて色々と吟味すると、古いヴェゼルが全方位で負けるばかり……とはいいきれない。
路面からの蹴り上げをより潤いあるタッチでいなすのはC-HRだが、絶対的なフラット感でヴェゼルがC-HRに大きく劣るわけではない。パワートレインもDCT特有のギクシャクが多少あるものの、全体の小気味よさではCVTのC-HRをしのぐ。そして、室内空間や後方視界、そして荷室の使い勝手にいたっては、もうヴェゼルの圧勝である。
第一印象の商品力ではC-HRの後発らしい巧妙さに感心するが、そこから「自分で毎日使うならどっちか?」と頭を冷やすと、最終的にヴェゼルを選ぶ人は少なくないと思う。価格にしても、パワートレインや装備選びでコストを抑える余地が大きいのはヴェゼルだ。
それにしても、こうして5台ならべると、コンパクトSUVは「旬」なんだなと実感するばかりである。
コンパクトSUVは新興ジャンルだから、まだ定義がゆるい。この5台もサイズ以外の共通といえば「タイヤと地上高が大きめで、リヤのゲートがある5ドアハッチバック」という程度しかない。このジャンルは試行錯誤と淘汰の過程でもあり、各社それぞれに趣向を凝らしたアイデアで競っている段階だからこそ、いろいろと面白いものも出てくる。
同時に、コンパクトSUVは日欧はもちろん、米国やアジア、南米と真のグローバル商品だから、各社とも手抜きはなく、気も抜いていない。ジュークやヴェゼルに古参感が漂い始めているのは事実だが、ライフ途中の改良やテコ入れには余念がない。確かに最新のC-HRやMINIクロスオーバーのポテンシャルは高く、次に新しいレネゲードの本格オフロードブランドならではの「イイトコ突いてる感」が印象的だ。だが、一方でヴェゼルの実用性と質感のバランスや、小型軽量なジュークのホットハッチばりの走りを、本気で捨てがたく思ったのもウソではない。
クルマにも旬がある。旬のクルマはやっぱり面白い。
ミニ・クロスオーバー
可愛らしいスタイルで人気のMINI。5ドアを持つクロスオーバーが新型に切り替わった。高められた車高やアンダーガード、フェンダーアーチモール、ルーフレールなどでワイルドな雰囲気を高めているのは先代と同様だ。ボディは先代よりも全長で200mm、全幅で30mm拡大とかなり大型化。その分ユーティリティ性は飛躍的に高まっている。日本仕様の4グレードのうちディーゼルが3グレードを占めるなど、エンジンの主役は完全にディーゼルとなっている。
しっかりとした作りのシートは、プレミアムクラスのものと比べても遜色ない。リヤシートのスペースも十分で、窓も大きく開放感も高い。レザーシートはオプションだ。
ジープ・RENEGADE
ジープのラインナップのなかでも最もコンパクトなレネゲード。それでも7スロットのグリルや角を強調したフォルム、丸2灯ヘッドライトなど、他のSUVとは違う存在感が魅力。路面状況に応じた5つのモードを切り替える(オートモードもあり)ことで車両のセッティングを最適に調整するセレクテレインシステムを装備するなど、本格的なオフロード性能を誇るのはさすがだ。
スクエアなフォルムは、室内のゆとりに直結。肩口や頭上などは、コンパクトクラスとは思えないゆとりがある。
日産ジューク
スタイリッシュなコンパクトSUVの先駆けであるジューク。バンパーに埋め込まれた丸型ライト、ほぼボンネットの上に配される変形スモールライト、リヤに向かって傾斜するルーフなど、個性的なデザインは今なお新鮮だ。スポーツバージョンのNISMOや、自分好みに仕上げられる「パーソナライゼーション」など、さまざまなメニューも用意する。
フロントはともかく、リヤシートのスペースには期待できない。天井が低く前後も短く、またサイドウインドウが倒れ込んでいるので肩口の圧迫感も強いのだ。ただし前席下への足入れ性は良好だ。
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