2030年代に純エンジンの新車販売が終わることが声高に叫ばれている今日この頃。100年の変革期を迎え、時代はEVやFCVへとシフトしていくのは致し方ない。
しかし、これまでクルマ好きの心を捉え続けてきた名エンジンの数々の歴史が途絶えてしまうかと思うと、どうにもやるせない想いに駆られてしまう。
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そう、純エンジンの名機がここで途絶えてしまうのだ。由々しきことではないか!
そこで、改めて、日本メーカーが技術的に世界に誇れる量産エンジンを、5位から順に5タイプをランキングしてみることにした。なお、基本的には生産台数が限られたワンオフといえるスーパースポーツ用エンジンなどは、選択対象から外していることをご了解いただきたい。
文/岩尾信哉
写真/トヨタ、日産、マツダ、スバル
【画像ギャラリー】技術の結晶!! 日本が誇る珠玉のピュアエンジン
■第5位:トヨタ珠玉のV8/2UR-GSE型5L、V8
レクサスRC FやLC500に採用されている2UR-GSE型5L、V8DOHCエンジン
■エンジン形式:V型8気筒DOHC
■型式:2UR-GSE
■排気量:4968cc
■最高出力:477ps/7100rpm
■最大トルク:540Nm(55.1kgm)/4800rpm
2017年登場のレクサスLC500に搭載される5L、V8エンジンは477ps/55.1kgmを発生。国宝級の大排気量エンジン車だ
2017年にレクサスLC500の登場時に、10速ATとともに採用された5L、V8が2UR-GSE型だ。現在レクサスRC-F(581ps/535Nm)にも搭載されているこのユニットは、仕様違いの兄弟ユニットであるハイブリッド用ユニットとして用意された2UR-FSE型(LSからセンチュリーに移植されて生き残っている)とは異なるスポーツエンジンといってよい。
ちなみに、過去には同じくレクサスのGS-Fに搭載されたが、今振り返ればトヨタ最期のオジサン好みの“羊の皮を被った狼”だったかもしれない。GSE型はFSE型と比較すると、吸排気系に手を加えることでスポーツ性を高める工夫が施され、477ps/540Nmという強大なパワーとトルクを得ている。
高級ブランドやスポーツカーメーカー、日産では大型SUVのパトロールなどに採用されてはいても(ランクル300はどうなるのだろう?)、世界一レベルの量産車メーカーが二酸化炭素排出量削減の声が大きくなった現在、V8をラインナップに存続させるだけでもたいしたものだ。
マルチシリンダー独特のスムーズさとパワーの盛り上がりは、ハイブリッドのLC500hのモーターのそっけなさ(スムーズさとも言えるのだが)とはひと味もふた味も違うフィーリングは抗しがたい魅力に溢れている。さほどひとの感覚とは繊細なものであることを、このV8は教えてくれる。
■第4位:熟成を重ねた約30年の歴史ついに終焉/EJ20型、EJ25型フラット4
1989年登場の初代レガシィツーリングワゴンに搭載されてから約30年間、幾度となく改良を繰り返したスバルのEJ20型2Lフラット4ターボエンジン。最高出力は308ps/43.0kgm
■エンジン形式:水平対向4気筒DOHCターボ
■型式:EJ20
■排気量:1994cc
■最高出力:308ps/6400rpm
■最大トルク:422Nm(43.0kgm)/4400rpm
2019年10月24日に発表された555台限定のWRX STI EJ20ファイナルエディション。車両本体価格は485万1000円。同年11月11日に優先購入権の応募が締め切られたが、応募総数は555台の約23.4倍となる約1万3000件
すでに語り尽くされた観のあるEJ20型水平対向4気筒の仕様の詳細については、ここではひとまずおいておくとして、バリエーションを拡大しつつ1989年から30年超にわたって採用され続けるとともに、長く愛されてきた事実が揺らぐことはない。
特にスポーツエンジンとして進化し続けたEJ20型ターボについては、現行WRX STIの最終仕様として2019年11月に555台限定として販売された「EJ20 Final Edition」を具体なスペック例として挙げておきたい。
2019年にアメリカ限定で販売されたWRX STIのコンプリートカー S209。265/35R19の極太タイヤを履き、オーバーフェンダーによってボディを拡幅。ビルシュタインと共同開発した専用サスペンションやSTI製フレキシブルタワーバーでボディ剛性を強化した
S209の搭載エンジンは海外向けのEJ25型2.5Lフラット4ターボ。タービンや排気系の変更、専用ECUの採用などにより345.7ps/45.6kgmを発生
■エンジン形式:水平対向4気筒DOHCターボ
■型式:EJ25
■排気量:2457cc
■最高出力:345.7ps/6400rpm
■最大トルク:476Nm(45.6kgm)/3600rpm
その後も、北米市場では主力ユニットであるEJ25ターボをSTI仕様として手を加え、北米市場向けに仕立てられた「S209」が2019年1月発表された(2019年10月発売)。S209も限定209台の販売となった。さらに豪州では「WRX STI EJ25 Final Edition」が発売されている(75台限定)。
フラット4独特の野太い排気音とともにEJ20ターボは、WRX STIを豪快無比なパワーを与えつつ、ラリー・フィールドやニュルブルクリンクなどで鍛えられた剛性感触れる堅牢なシャシーと合わせて、突出した存在にしたといえる。
ということで、2021年9月上旬に新型WRX(北米仕様)が発表予定となっているから、STIなどを含めてどうなるのか注目したい。
■第3位:高効率化目指した可変圧縮比エンジン/日産VCターボ
2021年2月に欧州で発表された新型キャッシュカイ。全長4425×全幅1838×全高1635mm、ホイールベース2666mmのCセグメントSUV
キャッシュカイe-POWERに搭載されるVCターボ。日産が世界で初めて実用化した可変圧縮比エンジン。最高出力は268ps/380Nm
■エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
■型式:KR20DDET
■排気量:1970~1997cc
■最高出力:268ps/5600rpm
■最大トルク:380Nm/1600~4400rpm
日本市場に導入されていないのが残念至極、「技術の日産」のフレーズがしっくりくるのが、日産が開発を進めて量産化に漕ぎ着けた可変圧縮比(Variable Compression Ratio)エンジン、それが「VCターボ」だ。
先の上海モーターショーではエクストレイルに採用予定の「e-POWER」システムに、発電用としてVCターボが用意されることが公表され、すでに欧州市場向けに設定されたキャシュカイと同様に採用予定とされる。
キャシュカイのパワーユニットから類推すると、用意されるパワーユニットはKR15DDET型と呼ばれる1.5L直列3気筒の可変圧縮比ターボ。
パワーとトルクは204ps/5400rpm、305Nm(31.1kgm)/2800~4440rpmとなる。2LバージョンのKR20DDET型直4(エンジン単体の発表は2016年)は、すでに北米市場で販売されているセダンの日産アルティマやクロスオーバーSUVのインフィニティQX55(2020年11月発表、2021年2月発売)に採用されている。
2L、直4VCターボエンジンのパワーは自然吸気の3.5L、V6並みとされ、そのうえで燃費向上などの高効率化を狙っている。
可変圧縮比機構はピストン/コネクティングロッド、特殊なモーターでリンク機構を制御するVCRアクチュエーターなどを備え、圧縮比を8:1~14:1に変化させることができる。
現時点で2L版が日本市場に導入されるかどうかは微妙だが、ぜひその実力をエンジン単体で確認したいものだ。
■第2位:勝利のために生まれた名機/RB26DETT
現在、異常ともいえる高騰を続けるR32、R34GT-Rの中古車相場は、まさに今のうちに乗っておきたいという熱烈なファンの表れだろう
R32GT-Rに搭載されている専用設計の2.6L直列6気筒ツインターボRB26DETT。市販モデルは280ps/40.0kgmというスペックだがレースでは600ps以上を発生する実力を持っていた
■型式:RB26DETT
■排気量:2568cc
■エンジン形式:直列6気筒DOHCツインターボ
■最高出力:280ps/6800rpm
■最大トルク:40.0kgm/4400rpm
日本の数あるエンジンの中で、モータースポーツでの勝利を目指して専用開発され、基本的に量産車のワンモデルにのみ設定されたという経緯をもつのは、日産の直列6気筒の伝統を受けついだRB26DETT型ぐらいだろう(同じく日産のS20型直列6気筒はスカイラインGT-RとフェアレデイZ432に設定)。
BNR32型、BCNR33型、BNR34型と、3~5代の各GT-Rのパワーユニットとして受け継がれたこのエンジンは、1990年代を中心とした日本のモータースポーツにおいて、開発当初はグループAレースである全日本ツーリングカー選手権を制するために生み出された。
1990年、全日本ツーリングカー選手権のグループAに参戦したR32GT-Rは当時、国内外のツーリングカーレースで世界最強と言われていたライバルのフォードシエラRS500をなんとレースの1/4を終えた時点ですべて周回遅れにし、圧勝でレースを終えた。全日本ツーリング選手権が終わるまで、無敗の29連勝という新たな伝説を刻んだ
当時の日本メーカーのパワー自主規制の上限値である280ps/40.0kgmを発揮したRB26DETT型直列6気筒ツインターボの排気量は2568ccとされたのも、当時のグループAレギュレーションに対応したもの。
量産仕様ではセラミック製タービンを備えるターボチャージャーを2基装着。強度を増して耐久性を強化した鋳鉄製シリンダーブロックやナトリウム封入ステムバルブを採用するなど、当時の最新スペックが与えられた。
直列6気筒ならではのバランスのよさとパワフルさを併せ持つこのエンジンのフィーリングは独特といえ、いまや歴代スカイラインGT-Rとともに「伝説」といえる存在となった。
RB26DETTエンジンはR32、R33、R34GT-R、初代ステージア260RSに搭載された
■第1位:「エンジンのホンダ」の面目躍如/VTECユニット
2020年10月にマイナーチェンジしたFK8型シビックタイプR後期型。フロントグリル開口部拡大とラジエター細部の改良によってエンジン冷却性能が向上
FK8型シビックタイプRに搭載されるK20C型2L、直4VTECターボの最高出力は320ps/40.8kgm
■エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
■型式:K20C
■排気量:1995cc
■最高出力:320ps/6500pm
■最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2500~4500rpm
ここで大いに褒めたいのはVTEC搭載のスポーツエンジンたちである。時代に合わせてエンジンの排気量が変化するとともに、燃費向上にも対応してきたVTECの歴史の中でひときわ輝きを見せてきたのが、ホンダの代名詞というべき「タイプR」とともに歩んできたVTECエンジンということになる。
1997年、6代目ミラクルシビックに追加されたシビックタイプR。NSX、インテグラに次いで投入されたタイプR第3弾。車重はたったの1040kg
B16B型1.6L、直4VTECエンジンは高回転対応バルブシステムの開発、吸排気抵抗の低減などにより185ps/16.3kgmを発生。リッターあたり116ps、圧縮比10.8というハイパフォーマンスを実現した
1989年登場の1.6L、B16A直4の“リッター100馬力”の印象は強烈で、低速/高速カムの切り替え時にまさにカムに乗るという表現がふさわしい「豹変」ぶりは接した経験のある者でしか味わえない魅力だった。
その後の1997年に登場したシビックタイプRに搭載されたB16B型98spec.Rでは180psを獲得。これに先んじて1995年に発表されたインテグラタイプR用に開発された1.8L、直4のB18C 95spec.R(200ps)では、熟練工によるシリンダー研磨や手曲げで仕立てられた排気マニフォールドなどといった、いまや伝説レベルの細部にわたる仕立てにより、ホンダ・ファンの心を揺さぶったものだ。
写真は1998年1月にマイナーチェンジした98スペックR。ホイールは15インチから16インチ(4穴→5穴)にサイズアップ、タイヤは195から215のワイドタイヤに変更された
2L、直4VTECのB18C 98スペックR(200ps/19.0kgm)はステンレス製の4in1等長エキゾーストマニホールドを装着し、中速域のトルクアップを実現
その後、VTECを備えるスポーツエンジンとしての系譜は2LのK20型エンジンへと受けつがれ、現在もVTECターボとして生き続けており、先頃発表された新型シビックでもタイプRを2022年に発売予定とされている。
と、ここまで解説しておいて恐縮だが、VTECユニットの完成形として、最強の名機として挙げたいのは、1999年に発売されたオープン2シータースポーツであるS2000に搭載された2L、直4のF20C型エンジンとしたい。
途中、2.2Lに排気量が拡大されて実用性が高まった反面、暴力的とさえいえた回転フィールがぬるくなったと一部には揶揄されたほどだった。少なくとも個人的に事前の心構えが足らず(苦笑)、街中でマニュアルシフトが間に合わないと慌てさせられた数少ないモデルだ。
21世紀の「S」シリーズとして世に送り出されたS2000。2005年11月以前に販売された前期型はリッター125psを発生するF20C型2L、直4VTECエンジンを搭載する
■エンジン形式:直列4気筒DOHC
■型式:F20C
■排気量:1997cc
■最高出力:250ps/8300pm
■最大トルク:218Nm(22.2kgm)/7500rpm
VTECがもたらす強力なパワーとレスポンスの良さは受けつがれ続け、すでに先代となったシビックタイプR用のK20C型VTECターボでは、リッター当たり160psまで辿り着いたホンダの技術(と執念?)には敬意を表するしかない。
さて、気になるのは新型シビックタイプRの存在。すでにホンダが2022年の発売と明らかにしているが、おそらくK20Cを進化させた、最後の純ガソリンターボになると予想される。期待して待っていよう。
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