1968年、『ニュージェネレーション』のタイトルに乗って登場したのが、メルセデス・ベンツの初代コンパクトシリーズ、Eクラスの元祖「W114/115」である。1968年に発表されたので、/8(ストローク8)と呼ばれた。
W114は2.3L、2.5L、2.8Lの6気筒ガソリンエンジンを搭載したモデルで、W115は2.0L、2.2L、2.3Lの4気筒ガソリンエンジンを搭載したモデルと2.4Lの4気筒ディーゼルエンジン&3.0Lの5気筒ディーゼルエンジンを搭載したモデルだ。
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メルセデス・ベンツのニュージェネレーションモデルが1968年1月9日~10日にジンデルフィンゲンで発表:左壇上の開発責任者であるハンスシェレンベルク博士が発表している。写真は右から220D(W115)、280S(W108)、250(W114)。先代のW110(通称:羽根ベン)までは、強いて言えばSクラスに相当する上級クラスを元にして、単に4気筒用にショートノーズ化しただけの造りで、主にタクシー需要を満たすだけに過ぎなかった。しかし、このW114/115では一挙に「オーナードライバー向き」と銘打ち、コンパクトでスタイリッシュな専用ボディを与えられて登場したのだった。結果、最終的な販売台数はW110の3倍に相当する191万9056台に上がった。
特徴は、何と言っても縦目のヘッドライト(!)とスマートになったグリルとのモダンなコンビネーションは、引き締まったボディサイズや最新のテクノロジーが投入され、メルセデス・ベンツならではの高級感を一層際立たせて見せた。
コンパクト・メルセデス「W114」通称 “縦目のベンツ”。内装のセンスもまさにパーソナルカーの趣きで、待ち憧れていた世界中のファンに好意を持って迎えられた。そして、日本では国産2Lクラスと大して変わらないと言うコンパクトさが、メルセデス・ベンツを身近な存在にした。当時のダイムラー・ベンツ社は、「メルセデス・ベンツのエントリーモデル」と表現し、「オーナーカーに相応しいエンジニアリングの数々を、満を持して投入した」と胸を張った。
メルセデス・ベンツ 「W114」フロントのオーバーハングが短く、リアオーバーハングが長い端正なセダンのデザインはフランス人のポール ブラック氏によるもの。グレードは4気筒の200から6気筒の280まで用意され、さらにハードトップ・クーペの250CEや280CEも加わった。このEの接尾辞はドイツ語でEINSPRIZUNGの頭文字で、燃料噴射の意味。280E/280CEでは初のDOHC燃料ポート噴射式エンジンを搭載し、このクーペの放つ趣味性の高さも、その存在を身近に感じさせている。筆者の知人の自動車メディアの代表は、250CE(マニュアルトランスミッション!)をイタリアで購入、輸入してクラシックメルセデスを堪能している。彼に付属のジャッキはビルシュタイン製だと教えてくれた時には驚いたものだ。
1946年以来、200万台目になったのがW115の220Dで、1968年5月9日にメルセデス・ベンツのジンデルフィンゲン工場をロールアウトした。果たして触れてみると、親しみやすさが設計の目的に置かれていることが明白に感じ取れる。何故なら、筆者が1972年にウエスタン自動車に入社して、初めて乗ったメルセデス・ベンツはこのW114の300D(画期的な5気筒ディーゼルエンジン搭載でボディカラーはイエロー)であった。もっぱら、筆者の役目は当時のダイムラー・ベンツ社の有名なトレーナーが来日する度にホテルと会社の送迎担当でよく洗車もした。しかも、役員のメルセデス・ベンツの車両が250CE(シルバー)で、当時のパーキングタワーの出し入れもしたものだ。
日本版メルセデス・ベンツカタログ。W114の230/250(左)と280/280CE(1976年ウエスタン自動車制作)。ボディはコンパクトでもシートは身体を充分に包んでくれるサイズが確保され、ファミリーカーとしても乗員を温かく歓迎する雰囲気のキャビンで安心感があった。機構上、もっとも大きな変更はパワーアシスト付きのステアリングを採用し駐車場も楽に操作できる様になったことだ。コンパクトで視界も広いので女性にも付き合い易いメルセデス・ベンツが誕生したと言える。
ステアリングは大径で扱い易いだけでなく、しっかりとした重みもあり、安心感のある握り心地が特徴であった。リアにセミトレーリングアーム式を採用したことも注目に値し、旧式のスウィングアクスルに比較して明らかにキャンバーの変化が少なくなり、ワインディングロードでのハンドリングはメルセデス・ベンツ特有のニュートラルに近い好ましい弱アンダーステア特性を示した。
メルセデス・ベンツ W114クーペ。当時はクーペも「W114」である。よりスタイリッシュに見えるのはセダンよりも寝かされたフロントウィンドウと45mm天井が低いためである。高性能な280CEでは、さすがにスタビライザーを強化するなど、ツインカムエンジンの速さに対応する仕様であったが、セダンでは自然なロールを示すセッティングで、走りのクォリティは相当なものだった。
ドライバーにとっての最高のプレゼントは、より配慮の行き届いた運転席のレイアウトである。メルセデス・ベンツのインターミディエイトがこんなにもダイナミックなムードを押し出してきたのはこれが初めてのことだった。それまでの「Sクラスの小型版を造っておけば誰も文句はなかろう」と言わんばかりの傲慢さがなくなった。しかし、もっとも評価すべきは、このモデルから明らかにこれまでとは違う、実力の高いセーフティパッドの材質を随所に配し、吟味されたダッシュボードの材質を採用するなどして、実際に抜群の衝撃吸収能力を発揮したことだ。永年安全性を唱えてきたメルセデス・ベンツが遂に本領を発揮しはじめたと言える。
W114の開発では厳しい走行テストが繰り返された(左上)足回りはフロントがダブルウィシュボーン、リアはメルセデス・ベンツのダイアゴナル・スウィングアクスル。ギリシャのタクシードライバーであるサキニディスさん(右下)ところで、ギリシャのタクシードライバーであるサキニディスさんの1976年製240Dは、エンジンを11回も載せ替えつつ、1台の車体で累計460万Kmを走破した記録がある。いかにコンパクトのシャーシ及びボディが強靭であるかを証明するものだ(2004年にはメルセデス・ベンツミュージアムに展示)。
筆者が1972年に入社して初めて乗った店用車であったメルセデス・ベンツ300Dは、ボディカラーは目立つイエローであったが、コンパクト・メルセデスの派手さを控えたソリッドなクルマ造りとその質実剛健さには特に好印象を持った。
このコンパクトなW114/115は外装では高品質感を、内装には安全性を感じさせてくれるモデルである。
サクセスストーリー:まごうことなきメルセデス・ベンツのアッパーミッドレンジシリーズのクーペ。左から114シリーズのクーペ「ストロークエイト」、123シリーズのクーペ、124シリーズのクーペ。TEXT:妻谷裕二 PHOTO:メルセデス・ベンツAG、ウエスタン自動車、妻谷コレクション。
【筆者の紹介】妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。
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