多様な選択肢が揃っていた1960年代の英国
1960年代末を生きるカーマニアが、ヒルクライム・レースを有利に戦おうと考えた時、トライアンフ・スピットファイアにTVR 1800、オースチン・ヒーレー・スプライト、ジャガー Eタイプ、どのマシンを選ぶべきか大いに悩んだことだろう。
【画像】ツインカムのアルファ 2000 GTVとコルティナ II ロータス 最新ジュリアとエミーラも 全131枚
ポルシェ911という強力で高価なドイツ勢がいたものの、英国には多様な選択肢が揃っていた。その頃、グレートブリテン島の公道を走る輸入車は、全体の10%程度。コース上に限らず、今では羨むような競演をそこかしこで目撃できた。
それでも、徐々に英国勢のアドバンテージは薄れていた。1966年のフォード・コルティナ II ロータスが強い輝きを放っていたが、1963年のアルファ・ロメオ1600ジュリア・スプリントGTが頭角を現していた。
1967年には、1750 GTVへ進化。優勝トロフィーを、イタリア勢が奪う回数は増えていった。とはいえ、労働者階級の駿馬、コルティナ II ロータスが魅力的な存在だったことに変わりない。
価格差は小さくなく、ジュリアを選べる人は限られた。アルファ・ロメオには多様な種類が存在したが、概してコルティナ II ロータスの2倍近い予算が必要だった。その金額に見合う価値があるのか、という疑問も当時から存在してきた。
そんな折り、この2台が1つのクラシックカー・ガレージで販売されているのを発見。半世紀以上が経過した2023年に、再び競わせる機会が叶った。
ジウジアーロが描き出した美貌
アルファ・ロメオのマニア、アルフィスタなら、アイボリーのクルマが1750 GTVではないことへお気づきかもしれない。正しくは、1971年に入れ替わった2000 GTVだ。
確かに排気量は拡大されているものの、プラットフォームは4ドアサルーンのジュリアがベースで、1750 GTVの延長上にある。素性に大きな変化はなく、コルティナ II ロータスの比較相手として間違いではないだろう。
2000 GTVのスタイリングは、1963年の1600ジュリア・スプリントGTに起源がある。カロッツェリアのベルトーネ社に在籍していた、ジョルジェット・ジウジアーロ氏が描き出した美貌には、1960年の2000スプリントの色香が残る。
1966年にスプリントGTV(Vはヴェローチェの略)へ進化し、1967年に1750 GTVへアップデート。直列4気筒エンジンが1570ccから1779ccへ大きくなり、ボンネット前端のギャップ、「ステップフロント」は廃止され、滑らかな顔つきになっている。
インテリアも一新され、ドライバーの正面には大きなスピードメーターとタコメーターが並んだ。シャシーにも改良が加えられ、リアアクスルにアンチロールバーを獲得。ブレーキにはデュアルサーキットが与えられた。
今回ご登場願った2000 GTVはその最終進化版といえ、エンジンはボアアップで1962ccに。最高出力は13ps増しの132psへ向上。最大トルクは18.5kg-mを発揮する。
最高速度は、1750 GTVより高い193km/h。0-97km/h加速は、11.2秒から9.2秒へ2秒も縮めていた。
平凡なモデルの能力を高めたロータス
それ以外の違いは、主に見た目的な部分。わかりやすい変化が、三角形のアルファ・シールドを中央に掲げたフロントグリルに、細いバーが追加されたこと。テールライトも、ひと回り大きい。
ダッシュボードでは、2枚のメイン・メーターの位置が持ち上げられ、確認しやすい。とはいえ、105シリーズの基本的な傑作レシピは13年間守られている。
直列4気筒エンジンの設計は、鬼才ジュゼッペ・ブッソ氏。ツインカム・ヘッドを載せ、ツインキャブレターで燃料が送られ、多様な排気量へ対応した。
トランスミッションは5速マニュアルで、後輪駆動。サスペンションは、ダブルウィッシュボーン式をフロントへ採用し、リアはリジットアクスルながら、トレーリングアームとコイルスプリングが支えた。ブレーキは前後ともディスクだ。
一般道で精彩な走りを披露し、モータースポーツで活躍できるポテンシャルを備えていた。同時期には、対峙できるライバルは殆ど存在しないほどだった。
その数少ない1台が、コルティナ II ロータスだ。先代の初代フォード・ロータス・コルティナの時代から、モータースポーツで活躍するブランドの力を借り、平凡なモデルの能力を高めることへ成功していた。
当時の欧州では、精鋭ドライバーたちがロータス・コルティナを駆り、サーキットで強さを証明。ベースモデルのイメージも大いに高めた。しかし、特に初期型は生産コストがかさみ、耐久性が高いともいえなかった。
後期型では、アルミ製ボディパネルはスチール製へ置換され、耐久性を向上。生産コストも削られたが、秀でたイメージをロータスが主導していたことは明らかだった。
当然の流れといえたロータス仕様
1966年にコルティナは2代目へモデルチェンジするが、ロータス仕様を擁することは当然の流れだった。コルティナ II ロータスは、1966の晩夏から生産がスタートする。
2代目のスタイリングを手掛けたのは、社内デザイナーだったロイ・ヘインズ氏。コルティナ GTのプラットフォームをベースに、2ドアのボディシェルは強化。ストラットトップとリア・シャシーレールも補強された。
フロントのホイールアーチは、ワイドなタイヤを収めるため拡大。それが挟むエンジンルームには、技術者のハリー・マンディ氏とコスワース社による、ツインカム・ヘッドを載せたケント・ユニットが収まった。
1558ccのスチール製ブロックを備え、キャブレターはツイン・ウェーバー。初代ロータス・コルティナからのキャリーオーバーだったが、最高出力は110psへ僅かに上昇していた。
インテリアは、コルティナ 1600E譲りのステアリングホイールと、専用のタコメーターが組まれること以外、コルティナ GTと目立った違いはない。レッドゾーンは6500rpmから。スピードメーターは、時速140マイル(約225km/h)まで振られた。
フォードは、コルティナ II ロータスに複数のボディカラーを設定。ドラグーン・レッドやシーフォーム・ブルー、スプルース・グリーンなどで、オーナーの個性を表現できた。ロータスから、あえて距離を置くことが狙われていた。
この続きは、アルファ・ロメオ2000 GTV x フォード・コルティナ II ロータス(2)にて。
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