マセラティの新型SUV「グレカーレ」の国際試乗会(イタリア)に、松本葉が参加した。実車と対面した印象は?
「思ったよりコンパクト」
紆余曲折の産物──新型マセラティ・グレカーレ誕生は必然か? 偶然か?
おそらくかつては自動車修理工場か倉庫だったのではなかろうか。
今回、マセラティが生み出したグレカーレの試乗会基地に選ばれたのは、レストアされたレンタルイベント会場。ミラノの中心部にあるスペースだ。通りからはまったくそうとは見えないが、門をくぐるとモダンな空間が広がる。ここに置かれたニューカマーを囲んでまずエンジニアとデザイナーによるブリーフィング、それから試乗というのがこの日のプログラム。
グレカーレは欧州、北米はもちろん、メキシコや中国も含めてさまざまな国で販売されるため試乗会には多くのジャーナリストが日程をずらして招待されものの、ウクライナの影響で乱れたフライトの余波によってこの日の参加者はわずか3人。マセラティ側の関係者の方がずっと多い、そんな異例のイベントとなった。
地中海に吹く北東の風を意味するグレカーレと対面した最初の印象は「思ったよりコンパクト」、この一言に尽きる。全長4846mm、全幅1948mmと数値的には決して小さくないにもかかわらず、存在感はあっても威圧感は与えない。これはサーフェスの作り込みに拠るところもあるのではないかと思う。
SUVと聞いてマッチョを想像したが、実際は適度なふくよかさに包まれている。デザイナーはホイールアーチ上の膨らみをポイントと語ったが、それもあくまで緩やかだ。
ただしフロント、リア共にオーバーハングの短さは印象的。こちらがスポーティな走りをイメージさせるとすれば、長くとられたホイールベースからは居住スペースの広さが想像できる。
申し遅れたが、グレードはマセラティ車両ではお馴染みのネーミング、「GT」、「モデナ」、「トロフェオ」の3つ。モデナとトロフェオに関してはリアのトレッドが34mm広げられてスポーティネスを強調したというものの、ガチガチの印象は受けない。いずれもエレガントである。
MC20を彷彿とさせる
イタリアではニューカマー、特に自国のそれが発表されると“ディスる”コメントが多く見られる。今回もまたグレカーレの姿が公開された日、他社のSUVとの、特にフロント部分の類似を指摘する書き込みが相次いだ。
あるサイトで、すでに対面したと思われるジャーナリストが「見てから言え!」と喝を入れていたが、確かに。実車を目にして最初に浮かんだのは(他社のSUVではなく)「MC20」。奇妙な言い方をすると、あのスーパースポーツカーの前後を両手で持ってぎゅっと押すとグレカーレになる感じ。特にフロントが出来上がりそうだ。
前述のデザイナーの説明によるとMC20からマセラティのデザイン言語は変化し、「ヴェルティカル」がキーワードとされた。水平方向から縦方向への移行という意味だ。
実際、例えば「レヴァンテ」では横方向だったフロントライトが、MC20では縦置き変型長四角。グレカーレもほぼおなじ。ライトと共にフロントセクションを形成するのはぐっと下に構えられた大きなグリル。太めの縦格子で構成されており大きなトライデントが目を引く。全体的には唯一、押し出しの強さを感じる箇所だ。
フロントはクルマの顔、とても重要ながら、個人的にはサイドとリアに好感を持った。特にジウジアーロが手がけた「3200GT」の、ブーメラン型と呼ばれるカタチを継承したテールランプの与えられたリアは、とてもクリーンである。
インテリアは「ラグジュアリーとスポーティネス」「使い心地のよさ」をテーマに据えて開発されたそうで、「とにかく乗って座って触って使ってみて欲しい」とは開発者の弁。
彼の言葉に従って詳細は試乗してから綴るが、主要部分だけ先に記すと、メーターパネルのほかに、ナビやオーディオ類を担当する12.3インチのセンターパネルと、エアコン操作などを担う8.8インチのディスプレイがあって、このふたつの間にシフトスイッチが並ぶ。
伝統の時計は受け継がれたものの液晶で、アナログが線と針で時間を示す伝統的なタイプと線の代わりに4つの数字を用いたのの2種類。数字だけのデジタル式にすることも可能で、この3種類の時計機能にくわえて、羅針盤、ペダル類の操作状況、ストップウォッチとGメーター(トロフェオのみ)としても機能する。音声認識機能のバーチャルアシスタントにもなってくれるそうだ。合言葉は「ヘイ マセラティ!」。こう呼びかけてから「今、何時?」と聞くと答えてくれるらしい。時計に時間を聞くというのも奇妙なものだが。
興味深いパワーユニット
制御システムの違いによりGTは300ps、モデナは330psとパワーに違いはあるものの、双方とも2.0リッター直列4気筒SOHCガソリンターボ・エンジンに48Vマイルド・ハイブリッド・システムが組み合わされる。
直4エンジンはFCAグループ自慢のマルチエア・ファミリーの一員だが、マセラティ車両採用にあたって細かな見直しがなされ、新設計と胸を張れるくらい改良されたという。
一方、「ギブリ」やレヴァンテにも採用されているマイルド・ハイブリッド・システムを構成する主要コンポーネンツは、ベルトドブリン・スタータージェネレーター(BSG)、48Vバッテリー、eブースター、DC/DCコンバーターの4つ。
この中で馴染みが薄いのはマセラティ社ホームメイドと言われるeブースターではないか。これはエンジンに取り付けられた空気を圧縮する装置、電動モーターで駆動するのだそうだ。空気を圧縮する点ではターボとおなじであるが、いわゆるターボラグを埋めるのがeブースター。ターボがかかると(すぐさま消えるというより)フェードアウトするごとく役目を終えるという。
ちなみにプラグイン・ハイブリッドを採用しなかった最大の理由は、車重を重視したため、とのことだった。
グレードのトップに君臨するトロフェオに搭載するのは3リッターV型6気筒DOHCガソリンツインターボ・エンジン。MC20の“ネットゥーノ”をブラッシュアップした高性能ユニットで、F1からフィードバックした燃焼システムなどベース部分はおなじであるものの、スーパースポーツカーでは重心を下げるためにオイル潤滑機能にドライサンプが用いられたのに対して、SUVのグレカーレではウェットサンプが採用された。パワーはなんと530ps。100km/hへの到達タイムは3.8秒。GTは5.6秒、モデナは5.3秒だから、ずっと俊足ということになる。最高速度も285km/hとGTおよびモデナの240km/hを上まわる。
いずれも変速機はZF製8速AT、駆動方式はフルタイム4WD、サスペンションについてもフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンク形式とこの点もすべてのグレードでおなじながら、トロフェオは電子制御ダンパーと空気バネを組み合わせたエアサスペンションが標準で装備される。GTではオプション、モデナでは電制ダンパーは標準ながら空気バネはオプションだそうだ。
プラットフォームはかのジョルジョ。アルファ・ロメオ「ジュリア」用に巨額の費用を投じて開発されたもので、軽量で高剛性、完成度の高さが評判を呼んだ。今回はさらに改良を重ね、例えばホイールベースは83mm延長されたという。これは居住性に配慮してのこと。延長分の3分の2ほどを後席スペースに、残りをトランクに充てることでクラス一のスペースを達成したそうだ。トロフェオのトランク容量は570リッター、バッテリーを積むハイブリッド・バージョンのトランク容量は535リッター。かつてGTはふたつつのゴルフバッグがトランクにおさまることを条件としたが、これに沿えば軽くクリアということになる。ホイールベースの延長はおそらくEVモデルの存在も考えてのことだったのだと思う。来年には「フォルゴーレ」というサブネームを与えられたフル電動・グレカーレがデビューするそうだ。105kWhバッテリーと400V高電圧システムが採用される模様。
ちなみにジョルジョという名前は当時FCAグループを率いたSマルキオンネが思いつきでつけたそうだ(命名会議でとなりに座った部下の名前とか)。MC20のエンジン、ネットゥーノ(英語のネプチューン)はトライデントの持ち主、海神の名を用いたもの。伝統から”拾う”のも、思いつきでつけるのも、どちらもいかにもイタリアっぽいという話はさておき、ジョルジョが生み出されたのは、モデナ近郊にあるマセラティ・イノヴェーション・ラボ。新技術はすべてここで生み出されることから(みんなが知っている)秘密基地と呼ばれる大掛かりな研究所である。グレカーレもここで開発された。
生産はカッシーノ工場。欧州一サステナブルが自慢のファクトリーで、グレカーレとは従兄弟くらいの関係にあたるアルファ・ロメオのジュリアとSUVの「ステルヴィオ」も生産されている。
さて、ブリーフィングはここで終了。いよいよ試乗と立ち上がったとき、広報の女性に声を掛けられた。
「今日は参加人数が少ないので、テストドライバーと一緒に走ることもできますが、興味ありますか? 」
こんな嬉しい提案があるだろうか。ふたつ返事どころか、3回も4回も「是非!」と言ったように思う。こうして私はマセラティ社のテストドライバー、アンドレアと出かけることになった。めちゃくちゃ楽しみ。では行ってきます。
文・松本葉
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