一部改良を受けたBMWの大型SUV「X7」は、サイズを感じさせない走りが魅力だった! 今尾直樹がリポートする。
全モデル、マイルドハイブリッド(MHEV)化
BMWでもっとも大きなSUV、BMWでいうところのSAV(スポーツ・アクティヴィティ・ヴィークル)がX7である。デビューは2018年。3列シートで、6人乗りと7人乗りがあって、ミニバンみたいに使える。7年のモデルライフの中間にあたる2022年にマイナーチェンジを受け、フロントが7シリーズみたいな、マーベルのスーパー・ヒーロー「アイアンマン」の目を思わせる細長いライトが左右、上下にふたつずつ並んで、巨大なキドニー・グリルがデンと構えるにデザインになっている。上のライトはデイタイムラニングライトで、キドニーグリル(フロントグリル)は縁が発光し、暗闇のなかでもBMWであることを主張する。
社内コードG07型X7が後期型に移行して変わったのは外見だけではない。内装ではカーブドディスプレイが採用されており、乗員はデジタルワールドの最先端に浸かることができる。運転支援システムもアップデートされており、縦列駐車もオートマチックで楽々可能だ。
しかして目玉は全モデルがマイルドハイブリッド(MHEV)化された点だ。日本仕様の3.0リッター直6ディーゼルと4.4リッターV8ガソリンのどちらも、エンジンをアシストするモーターを標準で装備する。
試乗車は昨年9月に初度登録されたX7 xDrive 40d エクセレンスという、X7の標準的なモデルである。ディーゼルの40dにはエクセレンスのほかにM Sportもある。エクセレンスは21インチ・ホイールがスタンダードだけれど、「ベルヴェットブルー」のボディ色をまとった広報車はオプションの22インチを装着している。タイヤは前275/40R22、後315/35R22というスーパーカーサイズのピレリ「Pゼロランフラット」で、乗り心地に影響しそうだ。
それにしても、北米市場がメインとおぼしきX7は、ものすごくでっかい。狭いニッポン、どこへ行くにもでっかい。全長×全幅×全高は5170×2000×1835mmもある。堂々たる体躯はキャディラック「エスカレード」より若干小ぶりながら、3105mmもあるホイールベースはエスカレードより45mm長い。えっへん。
最低地上高は221mmもあるから運転席にはよじ登らねばならない。着座位置は高く、見晴らしがすこぶるよい。小型トラック並みの高さである。Aピラーが比較的立っているおかげで室内は広々しているし、視界もきわめて良好だ。8速オートマチックトランスミッションのシフターがレバーから平べったいスイッチに変わっていることも広々感に貢献している。
センターコンソールのシフターの近くの丸いスターターボタンを押す。MHEV化されたX7は無音で静々と走り始める。まるで電気自動車みたいに……。
乗り心地に芯があるZFの8速オートマチック・トランスミッションに組み込まれたモーターがただモノではない。最高出力12ps/2000rpm、最大トルク200Nm/0~300rpmと諸元にある。たとえば、トヨタ・プリウスの2.0リッターハイブリッドのフロントモーターの最大トルクが206Nmだから、それと同等のトルクをMHEV用のモーターが備えている。
しかも、モーターでアシストされる2992ccの直6ディーゼルターボは性能が大幅に引き上げられてもいる。改良前は265ps/4000rpm、620Nm /2000~2500rpmで、改良後は340ps/4400rpmと700Nm/1750~2250rpmを発揮、引き算すれば、75pstと80Nmも強力になっている。モデル名が従来のX7 xDrive 35dから同xDrive 40dへと昇進しているのは理由がある。システム最高出力は352ps、同最大トルクは720Nmと主張されている。
記憶のなかのX7 xDrive 35dより、大きさを感じない。都内の一般道を走っているとボディの大きさが気になる場面もあったけれど、それにしたってアクセルに対するレスポンスがものすごくよい。ひと呼吸置くことなく、瞬時にスッと動く。車重は2570kg(車検証値)もあるのに……。
でもって、乗り心地がすばらしい。前275/40、後315/35の22インチのピレリPゼロのランフラットを履いているというのに、ふわりふわりと雲の上を走っている感がある。セルフレベリング機能付き4輪アダプティブエアサスペンションのおかげにちがいない。22インチのタイヤ&ホイールゆえ、バネ下に重いものがある感は伝わってくる。だけど、最新のX7 xDrive 40dにはそれを上まわる上屋がある。記憶のなかの従来型35dより快適な気がするのは、70kgほど車重が増えたおかげかもしれない。上からの押しが効いている。ふわりふわり、と書いたけれど、トロトロの柔らかさではない。スパっとした歯応えがある。乗り心地に芯がある。ランフラットタイヤがアルデンテの、歯切れのよさを生んでいるのかもしれない。
気持ちのよい抵抗感短時間ながら首都高速も走ってみた。ディーゼルといってもさすが直列6気筒。ガソリンエンジンみたいにスムーズにまわる。だけど、最近のガソリンエンジンみたいなスムーズさではない。ちょいとばかしザラつきがある。ザラつき。という表現だと悪くとられるかもしれないけれど、そうではない。アルミの削り出しの塊同士を、そのまま擦り合わせるような気持ちのよい抵抗感なのだ。
アクセルをちょいとばかし開けるだけで、この巨体が瞬時に反応するのはMHEVのモーターがアシストしているからだろう。東名の料金所からフル加速してみたら、直6ディーゼルはレッドゾーンが始まる5000rpmあたりまで快音を発して伸びやかにまわってみせた。
いわゆるドライブモードをスポーツに切り替えると、足まわりが若干硬めになり、路面によっては、胴上げされているようなニュアンスを感じることもある。コンフォートにすると、同じ胴上げでも、選手たちが監督を放り投げることなく、背中をそっと持ち上げているように感じられる。
こんな巨体が、たやすく加速し、4輪操舵のインテグレイテッドアクティブステアリングの標準装備もあって、ちゃんと曲がり、ちゃんと止まる。巨体ゆえ、制動力の立ち上がりは若干遅めのような気もするけれど、すぐに慣れる。あらためて筆者は思った。BMWは技術レベルがものすごく高い、と。
おそらく、と、これは筆者の想像ながら、グループ内にロールス・ロイスがあることと関係しているのかもしれない。
ロールスはだって、地上最大の乗用車なのだからして。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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