レッドブルのマックス・フェルスタッペンはここまでに、アラン・プロストと同じ199回のF1レースに出走。3回ワールドチャンピオンに輝き、通算61勝を挙げた。勝利数に関しては既に歴代3位、今季もランキング首位に立っており、4度目のチャンピオン獲得に向けて順調に歩みを進めているように見える。
ではフェルスタッペンは、歴代のチャンピオンと比べて、どのようなポジションに立っているのだろうか?
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フェルスタッペンの勝率は、現在31%。この数字は、F1草創期の伝説的なチャンピオンであるファン-マヌエル・ファンジオやアルベルト・アスカリ、そしてジム・クラークらに次ぐもの。ルイス・ハミルトンやミハエル・シューマッハーとほぼ同じ数字だ。1980年代から1990年代に活躍したプロストやアイルトン・セナはいずれも25%強であるため、フェルスタッペンは現時点ではこれを上回っているということになる。それだけでも、フェルスタッペンはF1の歴史上最高のドライバーのひとりと言って差し支えないだろう。
ただ統計だけを見ると、落とし穴もたくさんある。時代によってマシンの信頼性も違うし、シーズンに組み込まれたレース数も異なる。データは、大まかなガイドにしかなり得ないと言える。
モータースポーツの世界は、この70年の間に大きく変化している。時代をまたいで比較するのは難しい。そのためまずは、各時代を象徴するドライバーたちとの比較から始めてみよう。
時代を象徴するドライバーとは、ファンジオやスターリング・モス、クラーク、ジャッキー・スチュワート、ニキ・ラウダ、プロスト、セナ、シューマッハー、ハミルトンなどだろう。またこれらのドライバーと肩を並べる才能を持っていたとされるアスカリ、ジル・ビルヌーブ、ナイジェル・マンセル、フェルナンド・アロンソなどもいる。
フェルスタッペンは、チャンピオン獲得数では既にトップ10入りを果たしている。ただまだ現役であるため、この数を今後も伸ばす可能性は残っている。今季チャンピオンを獲得すれば通算4回目となり、一気に通算4位に浮上することになる。この4回という記録は、プロストやセバスチャン・ベッテルと並ぶ数である。それを超えるとなると、7回のシューマッハーとハミルトン、そして5回のファンジオしかいない。
フェルスタッペンの予選でのパフォーマンスに関しては、疑う余地はないだろう。そして雨での実力も印象的だ。既に雨のレースでの勝利数は、シューマッハーやハミルトン、そしてセナをも上回っている。また、2019年と2020年には、最強のマシンを持っていなかったにもかかわらず勝利を記録……マシンを最大限に活かすことができる能力を持っていることも証明済みだ。
さらにフェルスタッペンは、2018年限りでダニエル・リカルドがレッドブルを離れて以来、チームメイトを圧倒し続けてきた。
2017年、フェルスタッペンはリカルドの後塵を拝していた。しかし2018年になると徐々にパフォーマンスを上げ、シーズン末までにはリカルドに対して優位なポジションに立つようになった。
同じ頃、F1デビュー当初は問題にもなったブレーキング中の”疑わしい”動きも確実に減った。ただそしてそれ以降、チームメイトとなったドライバーたちは、フェルスタッペンに近い成績を残すことができなかった。
ただそういう部分では、厳しい試練に直面することがなかったという言い方もできるかもしれない。過去には、ラウダvsプロスト、プロストvsセナ、アロンソvsハミルトンなどといった、激しいチームメイト同士のバトルがあった。しかしフェルスタッペンは、そういう難局に巻き込まれるようなことはなかったわけだ。彼の容赦ないレースペースと、タイヤをマネジメントしながら好ペースで周回する能力は、セルジオ・ペレスを破綻させることになった。
フェルスタッペンは2023年シーズン、23戦19勝という驚異的な成績を残した。これは、明らかに偉大なドライバーの条件を満たす成績だと言えよう。最高のマシンを持っていても、レースに勝つのは簡単ではない。しかし彼は、いとも簡単にやってのけてしまうように見えたのだ。
また2024年シーズンには、マシンの相対的な強さを考えると勝つのは難しいと思われるレースでも勝利を手にした。エミリア・ロマーニャGPやカナダGP、そしてスペインGPなどがそれに当たる。これは、2017年や2019年のハミルトンを彷彿とさせるものだ。
では一方でフェルスタッペンに”弱点”といえるようなモノはあるのだろうか?
これまでのところ、フェルスタッペンはレッドブルでしかレースに勝っていない。これは些細なことかもしれないが、偉大なドライバーたちと比較するならば、そんな些細なことも重視すべきだ。
通算勝利数上位10人のうち、フェルスタッペンとジム・クラーク以外は、少なくともふたつ以上のチームまたはコンストラクターでの勝利を経験している。フェルスタッペンにはそれだけの能力があるのは間違いないだろうが、それでもまだ達成していないことであるのも事実だ。
今年のハンガリーGPでは、フェルスタッペンの無線での激しい口調が話題となった。これを考えると、今のフェルスタッペンは、トップチームで優れたパフォーマンスを発揮することはできても、最強ではないチームを強豪チームに育て上げることは想像しにくい。
それ以上に弱点と言えそうなのが、時折限界を超えてしまうということにある。オーストリアでのランド・ノリス、ハンガリーでのハミルトンとの接触は、まさにそれを表したモノだろう。
フェルスタッペンは、常に妥協を許さない姿勢を貫いている。それを強みとみなす人もいるだろう。そういう姿勢でなければ、勝てていなかったレースがあるかもしれない。しかし勝ち方は、勝利そのものと同じくらい重要であるように思う。
2021年のフェルスタッペンは、ハミルトンと激しくタイトルを争った。そのシーズンのことを思い返せば、イモラ、バルセロナ、モンツァ(2回)、インテルラゴス、ジェッダで疑わしい動きがあった。シルバーストンでもふたりは接触し、フェルスタッペンがリタイアに追い込まれた……この一件はハミルトンに責任があるとされたが、当時のフェルスタッペンはハミルトンよりも速いマシンに乗っていたはずで、全体像に目を向ければ、避けられていた接触かもしれない。それについては、別の記事が必要になるだろう。
2022年と2023年は、グリッドペナルティを受けて後方からのスタートとなったレースでも、接触を起こすことはなかった。そのため、多くの人が「フェルスタッペンは成熟した」と考えた。しかし実際には、限界を超えてしまいそうな兆候はあった。
2022年のイギリスGPでのミック・シューマッハー(当時ハース)に対するフェルスタッペンの動きは、かなりギリギリのものだった。もしハースに乗っていたのが、ミックではなくミハエル・シューマッハーだったら、おそらくクラッシュしていただろう。また同シーズン終盤戦、ブラジルでのハミルトンに対する楽観的な動きもあった。
フェルスタッペン本人と彼のファンは、上記のことは気にしないし、弱点ではないと主張するかもしれない。しかしインシデントが起き、ポイントを失うこととなれば、気にすることになるだろう。
セナは、その攻撃的な性格により、レースで勝つこともあったが、負けることもあった。それと同じように、フェルスタッペンも貴重なポイントを失うことがある。例えば今季のオーストリアGPでは、ノリスと接触したことで5位に終わった。
ハンガリーではハミルトンと接触して宙に舞ったフェルスタッペン。なんとか5位でフィニッシュすることができたが、この接触のダメージがさらに大きかったら、もっと悪い結果になっていた可能性がある。
フェルスタッペンは、1990年日本GPのセナ(フェラーリのプロストをスタート直後に撃墜)、1997年ヨーロッパGPのシューマッハー(ウイリアムズのジャック・ビルヌーブに体当たりし、自身がリタイア)のような、大きな”汚点”となるような事故は起こしていない。2021年最終戦アブダビGPでハミルトンを撃墜するという選択肢もあったが、フェルスタッペンはそうはしなかった。その2021年を除けば、いずれも圧勝でのタイトル決定であり、僅差の戦いを勝ち切る能力があるかどうかはまだ未知数だ。
ただフェルスタッペンはまだ若いため、成長する余地は十分にある。そういう意味では、まだ歴代ドライバーとの比較を行なうには十分ではないかもしれない。
それでも、現時点でもフェルスタッペンは歴代10~15位くらいにつけている。26歳にしては信じられないようなポジションだと言うことができる。ここから自身の評価をどれだけ上げていけるかは、まさに彼次第であろう。
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