眺めているだけでうれしくなるインテリア
フォルクスワーゲン・タイプ1のメカニズムには、定評がある。ポルシェ356/2にも、それに通じる特徴を発見できる。華奢なリアハッチを開くと、フォルクスワーゲン譲りの水平対向4気筒エンジンが姿を現す。恐らく、当時の既存モデルからの流用だろう。
【画像】911 カレラ4 GTSの「偉大な源流」 英国最古の356/2 最新のダカールとGT3 RSも 全122枚
ただし、シングルではなくツイン・キャブレター。タイプ1の最高出力は25psだったが、フェリー・ポルシェ氏は苦労しながら40psを引き出した。それでも、992型ポルシェ911 カレラ4 GTSの、1割にも満たない。
車内は、眺めているだけでうれしくなる。大きなステアリングホイールに、柔らかいベンチシート。予想より勢いをつけないと、ドアはしっかり閉まらない。
シンプルなダッシュボードに、メーターは1枚だけ。992型ではタコメーターがある位置に、大きなスピードメーターが置かれている。修理中だという油圧計用の穴は、ラバー製の蓋がしてある。スイッチが、僅かに並ぶ。
ボディと同じクリーム色に塗装された車内は、いい感じの風合いのレザーとツイードというコーディネート。足元には、3枚のペダルがフロアから伸びる。シートの後ろ側には、素敵なカーペットで覆われた荷室がある。
小さなキーを捻りながら、アクセルペダルを軽く煽る。フラット4が目覚め、徐々に活発になっていく。アイドリング時は静か。シフトレバーの頂部には小さなボールがはめられ、ベンチシートの座面中央は変速のために少しえぐれている。
顕著なオーバーステア傾向のシャシー
一般的に、タイプ1のシフトフィールは良くないと考えられている。1951年に、ドイツ・シュツットガルト製の356を試乗したAUTOCARも、「トランスミッションは静かではなく、変速も簡単ではありません」とレポートしている。
32番目に作られた356/2の1速と2速には、変速時にギアの回転数を調整するシンクロメッシュが備わらない。ギアを抜いたら、クラッチペダルを踏み直し、丁寧にゲートを選ぶ必要がある。それでも、慣れてしまえば問題はない。
自分は1973年式のビートルを所有しているが、遥かに正確にレバーは動く。最後までエンストしなかったし、間違ったギアを選ぶこともなかった。ブレーキペダルのストロークは長いが、しっかり効く。
4000rpmで、40psの最高出力が発揮される。引っ張れば、確かにパワーが控えめに湧いてくる。ある程度の回転数に達すると、それ以上活発になることはない。
4速目はギア比が長く、巡航速度では低めの回転を保てる。最高速度は136km/hがうたわれるが、実際に届くまでに長い時間が必要なことは、承知済み。ウォームギヤが組まれたステアリングラックはスローで、速く走るには勇気が必要でもある。
今回試乗したロンドンの西、バークシャー州の道は、356/2をしっかり味わうには少し狭かったかもしれない。短いホイールベースとリアエンジン、スイングアクスルを組み合わせたシャシーは、顕著なオーバーステア傾向にある。
現代の911へ通じる、いくつかの印象
乗り心地はしなやか。サイドウォールの厚いタイヤを履き、車重は700kg前後だから、そもそも硬くする必要はない。当時の技術者は、誰もハードなサスペンションが必要だとは考えていなかった。
シャシーは僅かに歪み、アシストレスのステアリングはスロー。荷重を移しつつ、356/2が旋回を始めるまでに、少しのタメがある。ホイールベースだけでなく、トレッドも狭く、挙動は僅かにナーバスだ。
それでも、4速のまま想像以上の加速を披露する。最高出力は40psでも、空気抵抗を示すCd値は0.30を切り、滑らかに空気の中を進むためだ。
1951年のル・マン24時間レースでは、46psへ改造された356 SLクーペが、161km/h以上に到達。751-1100ccクラスで優勝を掴んでいるが、それにも納得できる。
運転席からは、現代の911へ通じる印象がいくつかある。上下に薄いフロントガラス越しに見える、左右のフロントフェンダーの峰と、低いボンネットの景色がそうだ。
リアアクスルへの荷重のかかり方は異なるが、エンジンサウンドは後方から響いてくる。巡航速度では、殆ど聞こえなくなるということも同じ。しかし、356/2はこの上なく特別でもある。
見た目は、控えめかもしれない。途中に立ち寄った駐車場で、通りがかりの人が声をかけてきた。「ご自身で仕上げたんですか?」と。英国最古のポルシェですよ、とお答えすると、気持ちいいほど驚いてくれた。
遥かに深遠なところにある本当の価値
マニアからは、揺るがない羨望を集める。レースで優勝したクラシック・フェラーリではないが、推定価値は270万ポンド(約5億1030万円)。「超」の付く希少性と歴史的価値、オリジナル度の高さが、値段を吊り上げる。
「最も独創的な356の1台でしょうね」。DKエンジニアリング社のジェームス・コッティンガム氏が、笑みを浮かべながら話す。「過去のオーナーは、自身のコレクションの価値を高めるため所有していました」
これから決まる次のオーナーも、ポルシェ・コレクションの1台に加えるのだろう。この記事が公開される頃には、広大なガレージへ並んでいるかもしれない。
「すべての素晴らしいクルマと同様に、崇高な雰囲気を漂わせています。購入できる人は限られますが、コレクションを締めくくる重要な1台。ブックエンドと呼ばれるのは、そのためです」
現存する中ではオリジナル度が極めて高く、実用に耐える貴重な例といえる32番目の356/2。あまたあるスポーツカーの起源の中で、最も偉大な源流にある1台だ。見た目も走りも素晴らしいが、秘める本当の価値は、遥かに深遠なところにある。
ポルシェ356/2と911カレラ4 GTS 2台のスペック
ポルシェ911 カレラ4 GTS(英国仕様)
英国価格:11万6690ポンド(約2205万円)
全長:4533mm
全幅:1852mm
全高:1301mm
最高速度:308km/h
0-100km/h加速:3.3秒
燃費:8.8-9.3km/L
CO2排出量:245-259g/km
車両重量:1595kg
パワートレイン:水平対向6気筒2981cc ツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:480ps/6500rpm
最大トルク:57.9kg-m/2300-5000rpm
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック(後輪駆動)
ポルシェ356/2(1948~1951年/欧州仕様)
英国価格:850ポンド(新車時)
全長:3870mm
全幅:1669mm
全高:1300mm
最高速度:136km/h(推定)
0-100km/h加速:−秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:約700kg
パワートレイン:水平対向4気筒1089cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:40ps/4000rpm
最大トルク:7.1kg-m/2800rpm
ギアボックス:4速マニュアル(後輪駆動)
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みんなのコメント
911はポルシェのフラッグシップだけど、その他のモデルとして現代版356を発売してほしいな。