みなさんは免許を取られてどのくらい経つでしょうか?わたしはかれこれ20年経ちます。長いような、短いような…。あの頃とは何が変わったのだろうかと思うと、何も変わっていないようでもあり、歳だけは重ねている風もあり…。おごらず、初心を忘れることなく安全運転に努めていきたい、これからも。ただただこれに尽きるように思います。
さて、そんな私がもし、初心者の人にクルマを薦めるなら、そんなクルマをおススメするか?時々こんなテキスト書き留めてきた気はしますが、ここでは初めてかもしれません。よく、はじめはぶつけるし、壊れても惜しくない安いクルマ、という人がいます。それは確かに。初心者の頃はぶつけやすいです。私も幾度もぶつけました。一度なんか、欄干が見えずにバックしてかなり派手にぶつけたりしたこともあります。クルマをぶつけるとへこみますよね。クルマもへこみますが、運転している本人はもっと精神的にダメージを受けますね。そういうことが起こりがちだから、ぶつけても惜しくないクルマを薦めるわけです。
「川崎33」のナンバーを引き継いだ、左ハンドル仕様の1998年式ルノー ラグナ
その考えは、私はちょっと違う。どんなありきたりの大衆車、ぼろぼろのおさがりのクルマでもぶつけていいクルマはありません。そしてどんなクルマでもその精神的ダメージはあるのです。むしろ、ぶつけてへこむ。そういう経験も、語弊を恐れずに言えば、ある程度必要はないでしょうか。人身事故は困ります。でもそうでない範囲で、もっと注意しないとな、とか大事なクルマを傷にしちゃってごめんよ。そんな「気持ちの動き」を体験しておくことはとても大事なことだと思うのです。そういうことが安全運転の元、クルマを思う気持ちのベースではないでしょうか。衝突回避ブレーキ付きのクルマを買うことが安全意識の高さではない。あれは便利な装備、画期的でついていたら便利ですが、ベースの意識の点では「運転者の気持ちや心がクルマに寄り添っているか」が大事だと思うのです。
であれば、私は3点ほど最初のクルマを選ぶときの条件を挙げたいと思います。まず1つ目は「アガリのクルマを買いましょう」です。最初のクルマなのにアガリ?大体そんなクルマ解からないよ!というかもしれません。でも一人や二人、クルマの話をしてれば幸せそうな人いませんか?そういう人に聞いてみましょう。きっと教えてくれるはずです。
では、なぜ最初にあがりのクルマを選ぶべきか?アガリのクルマ、CLの読者的にわかりやすいたとえでいえば、メルセデス・ベンツW124のように、ミディアムクラス/Eクラスのようなクルマと言えばなるほどと思う方も多いかもしれません。ちゃんとしてるんです。クルマとしての作りが。しっかりと走る、止まる、曲がる。そして、乗員が快適に過ごすことができる。「道具としてまっとうだ」ということです。そして最初にそういうクルマに乗ると、クルマ選びの基準形成の過程でそういう泣く子も黙る完成度が大いに影響してくるはずなのです。
最初のクルマ選びは一度きりです。また初心者の段階でこそ、ボディの取り回しの良さやクルマの全体的な安心感を痛感することでしょう。ですから多くのクルマ好きをもってして「アガリのクルマ」と言われるクルマを選ぶ価値は大いにあるのです。
2つ目は「できるだけシンプルなクルマを選びましょう」ということです。最近であればナビやエアコンのないクルマはないかもしれません。しかしとにかくいろいろなギミックのないクルマの方がいいのではないでしょうか。クルマに慣れ親しむという命題が、おそらく初心者のクルマ選びでは往々にして含まれることでしょう。ですので、とにかくシンプルなクルマの方がいいです。
走る、止まる、曲がる以外の者はできるだけ省かれたものがいいでしょう。本当はマニュアルに限る、と申し上げたいほどです。あれも走る曲がる止まるを最もダイレクトに感じ、わがままにそこだけに没頭していられる仕組みです。面倒くさいというのは作られた幻想です。むしろわがままにギヤをチョイスできるので、マニュアルの方が気楽だったりするほどです。まあさすがにこの点は必須にはしません。フェラーリにも2ペダル(オートマ)しかない車種もある時代、これを強要するのはいささか頑固ジジイな発言に我ながら思えるからです。
でも、フォルクスワーゲン・ゴルフ、フィアット・パンダ、シトロエン2CVなんかこういうのの極致ではないでしょうか。何もない、でも走っているという歓びに満ち溢れている。カローラもハイブリッドではなく、一番シンプルなビジネスグレードのマニュアルなんか乗ると、今でも心が洗われるようですよ。案外濃密な自動車趣味がシンプルなクルマにはあったりします。
そして最後、これが一番大事です。「好きなクルマに乗る」です。これは最上位概念。上の二つの真逆のクルマであってもこれは優先させてほしいところです。いろいろと二台目、三台目のクルマ選びは、あれこれ考えます。用途で自らのチョイスを縛り始めるわけです。もっと自由に、好きな色、好きな形、好きな車種。どんなに多くの人から「やめておけ」と制止されても、時には、何かの啓示のようなものを感じ、選ばないではいられないようなクルマがあるかもしれません。もしそんな「啓示のようなもの」があったら、是非それに従ってみてください。そして深く考えずに、気持ちの赴くままに選ぶと、それも皆さんの主体的に選んだ選択、そしてかけがえのない自動車の体験になるのです。
山中湖ギャラリーアバルト博物館(現在は一般公開していませんが)の元館長で、かつては伊勢丹モータースで数々のクルマを日本に紹介、初めてランボルギーニ・ミウラを販売した経験などもお持ちの山口寿一さんの言葉にはいつも勉強させていただいています。いつも「好いクルマに乗って、佳い友との出会いを!」とクルマ好きの若者に説いておられます。
「よい(佳い)」の字に注目ですね。これが逆でもダメなんだと思うのです。本当にクルマは友を連れてきてくれます。いろんな出会いをもたらしてくれるのです。だからこそ「とりあえず・・・でいい」というチョイスは、それがたとえ幸運にもポルシェやフェラーリだという人であっても、ダメです。オープンカーに乗りたいけど金がない、でもどうしても欲しくてくたくたのロードスター買った。新車じゃないと不安だから、軽自動車のコペン買った。自分を信じて、ご縁を感じる一台を買ってみてください。自分で選んだクルマは必ず道を拓いてくれるはずですから。クルマ以外の人間関係も案外クルマが縁でということも少なくないものです。
ここまで申し上げたうえであえて改めると、「初心者が選ぶならどんなクルマ、車種はどうでもいいです」です。好きなクルマ、つい足の止まったクルマを買ってみてください。そんなクルマとスタートさせる人生だか、グランドツーリングだかであれば、きっと素敵な出会いが待っている違いないんですから。謀った通りにはいかないものですが、案外思いがけないこともある。人生はそんなものではありませんか?
[ライター/画像 中込健太郎]
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