2020年、2021年と2年連続で乗用車ブランド通称名別順位トップ5に入ったアルファード。エントリーグレードでも約400万円のクルマが、長期間にわたって高い販売台数を維持する姿は、これまでほとんど前例がない。
2年連続で年間9万台を超える販売実績を残せる理由は何なのだろうか。1月に登場した弟分のノア・ヴォクシーフルモデルチェンジが与える影響なども考えながら、アルファード人気の現状を探っていきたい。
実は今が買い時!? 最後のオデッセイ 中古車の狙い目と最新動向
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA
[gallink]
今売れるのは「オールマイティ」なクルマではない
登場から7年経ってもなお高い販売台数をキープするアルファード
2020年の乗用車ブランド通称名別順位は、1位からヤリス、ライズ、カローラ、フィット、アルファードの順だった。2021年は少し変化し、ヤリス、ルーミー、カローラ、アルファード、ノートとなっている。
このなかで2021年に、単一車種で上位5車種に入るのはルーミーとアルファードだ。この2車種に共通するのは、圧倒的な室内空間にほかならない。普段使いするには広すぎる車内が、今のユーザーには強く刺さっている。
運転のしやすさや使い勝手の良さが際立つ「オールマイティ」なクルマよりも、大きさ・広さ・カッコよさなどに、スキルを全振りしたクルマのほうが人気車になる傾向だ。こうした潮流は、ここ数年強くなっている。
クルマの完成度の高さに加えて、圧倒的な存在感と威風堂々たる佇まいが、購入意欲を強く刺激したのだろう。アルファードが守り続けてきた「気高さ」を、時代が眺望していることを、現在の販売数が物語る。
経済の循環を作り出し、売れ続けるアルファード
今、消費者は「資産価値の高いもの」「資産価値を長く維持できるもの」にお金を使う。クルマの購入に関しても数年後のリセールバリューが、販売のカギとなっているのだ。
アルファードを購入するユーザーの多くが、大幅下落しない資産価値の高さや安定感に目を付けている。3年後に残価率50%以上を誇るアルファード。これはトヨタラインアップのなかでも抜群に高い。ミニバンという商品の特性を考えると、この数字には異常さすら感じる。
売る側は高残価を理由に、ローンで支払いやすい金額を提示する。もちろん、数年後にはしっかりと約束を果たして、高い金額で買い取るのだ。そして高年式で良質なアルファードの中古車を、また販売することができる。
販売店は「販売・買取り・中古車の流通」までを考えた、販売店の利益サイクルを構築でき、売れば売るほど、一般的なクルマの2倍~3倍の利益が生まれていく。アルファードは、ユーザーニーズをしっかりと拾いながら、販売店の経営をも楽にする、魔法のアイテムのようだ。
金(ゴールド)や不動産のような、変化しにくい資産価値が売りとなったアルファード。クルマとしての商品自身が、一種の経済圏を作り出し、売買の循環を生み出せるのは、非常にまれなケースだろう。
ランクルやジムニーは世界規模でこの循環を発生させているが、どちらも本格クロカンで、歴史の長いクルマである。最近生まれたミニバンで、こうした好循環を生み出しているアルファードは、特別な存在だ。単なる一過性の人気ではない、「仕組み」を作り出したところに、アルファードが売れる理由があるのだと思う。
ノア・ヴォクシーがアルファード化?トヨタミニバン販売の今後はこうなる!
2022年1月13日に発表発売となった新型ノア・ヴォクシー。1月中旬の時点ですでに受注3万台を突破する好調な立ち上がり
2022年1月に、アルファードの弟分ともいえる「ノア・ヴォクシー」がフルモデルチェンジした。ノア・ヴォクシーの登場は、アルファードの販売状況に大きな影響を与えるだろう。
これまで完全なるアルファードの下位互換であったノア・ヴォクシーだが、モデルチェンジで大きく姿を変えた。ボディサイズはすべて3ナンバー化され、エクステリアの迫力が高まる。同時に室内空間の質も抜群に高まった印象だ。風貌や質感は「少し小さなアルファード」を名乗っても問題ないと思う。加えて、最新の機能・装備を与えられたノア・ヴォクシーは、アルファードを食う勢いになっている。
これまでノア・ヴォクシーを検討するユーザーに対し、トヨタ販売店はアルファードを強く勧めてきた。アルファードが高い残価率を誇るため、残価設定ローンで月々の支払額だけを比較すると、ノア・ヴォクシーとアルファードでは大差が無くなってしまう。
「月の負担が同じであれば、車格が上のアルファードを選びませんか。機能・装備もアルファードが上ですし」といううたい文句で、アルファードが売れていったのも事実。しかし、新型ノア・ヴォクシーが車格と機能性を高めたため、販売店では、こうした決まり文句が使いにくくなった感じは否めない。
ユーザー全体のアルファードに対する需要が、ノア・ヴォクシーの登場で大きく下がることはないと思う。しかし、アルファードが食っていたノア・ヴォクシー目的のユーザーは、元の鞘に収まることが予想される。
2020年、2021年のようなアルファードの売れ方は、2022年までは続かないとみていい。ただし、圧倒的な人気は不動だ。少々勢いは落ちても、突如ランク外などということはないだろう。
これまでリセールが低いカテゴリーの代表格であったミニバンでありながら、一種の資産と言わしめる存在となったアルファード。築かれたネームバリューは、今後の販売にも良い影響を与え続ける。
そろそろモデルチェンジが予想されているアルファードだが、モデル末期には似つかわしくない売れ行きを、今後も維持していくのではなかろうか。
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