今でこそ三菱自動車(以下、三菱)は“SUV”と“電動化技術”に突き進んだメーカーとしてのポジションを築いているが、今から約半世紀前、画期的な乗用車を世に送り出し、後の三菱の隆盛に大いに貢献した。それが「ギャラン」である。
ギャラン登場以前にあった「コルト」の名前を冠し、「コルト・ギャラン」として登場したのは1969年だった。鋭角的でグラスエリアを大きくとったエクステリア・デザインはどの日本車よりも垢抜けており、今でも新鮮だ。
初代コルトギャランのエクステリア・デザインは、ジョルジェット・ジウジアーロが提案したもの。SOHCの「サターン・エンジン」は1.3リッターと1.5リッターがあり、前者は「AI」、後者は「AII」とネーミングされた。
三菱は乗用車メーカーのなかでトヨタや日産自動車などメジャー・グループから技術面などで遅れてしまっていたが、満を持して投入したコルト・ギャランはパワートレーンからサスペンションまですべてを一新し、デザインの斬新さはエクステリアのみならず、インテリアにも及び、明るい車内に相応しいソフトパッドを多用したダッシュボードや、ウレタンを上手に使い分けたシートなど、触れるものすべてが新しかった。
セダンのほか、ステーションワゴンやハードトップクーペも選べた。当時、国内ラリーにはワークスチームも参戦しており、三菱は木全巌選手や若手の篠塚健次郎選手が大活躍していた時代だった。三菱のワークスチームは、コルト・ギャランを手に入れ、一気にラリーのトップコンテンダーとなり、やがて海外ラリーに進出する基盤を作った。
実際、私もラリーで入賞出来るようになったのはコルト・ギャランのハンドルを握ってからだった。最初は友人のクルマを運転し、速さとコントロール性に魅力を感じ、翌シーズンは「AIIGS」を手に入れ、早速、三菱のディーラーにあったスポーツコーナー(当時多くのディーラーに設置されていた)でラリー用スポーツキットを選び、組み込んだのは言うまでもない。
コルトギャランベースのスポーティなハードトップクーペ「ギャランGTO」は、1970年に登場した。ギャランGTOのインテリアは、ベースになったコルトギャランに対し、スポーティな専用装備を多数装着していた。軽いエキゾーストノートのサターン・エンジンは、SU型ツインキャブでレスポンスも良く、かつロングストロークのため、中速トルクもあってラリーでは圧倒的に使いやすかった。
コルト・ギャランのサスペンションは、従来のコルトからフロントはストラットに進化したが、リアはオーソドックスなリーフリジットで、ノーマルでも硬い乗り心地は、ラリーサスに換装した結果、ピョンピョン飛び跳ねるようになった。砂利道ではリアだけが簡単に横滑りして不利だったが、それ以外のダートではコントロールしやすく、900kgを切る軽い重量と相まって、思い通りに走ってくれた。
一方のラリーの雄、「510ブルーバード」はリアのグリップが高く、限界点もあがっていたので、ギャランとは違ったドライビング・スタイルが必要だった。友人のクルマと乗りくらべ、その違いを知ったことは後にとっても役立つことになった。
AIIGSは1972年半ばに、1.6リッター直列4気筒エンジン搭載の「16L GS」になる。初代のシンプルさは薄れたものの、時代の要求に従って、そして競合車のスポーツモデルの主流が1.6リッターだったことから排気量をアップした。やはり100ccの違いは大きく、もはやラリーではAIIGSでは太刀打ちできなくなっていた。
ギャランGTOの弟分として1971年に追加されたのが「ギャランクーペFTO」だ。コルトのネーミングは初代しか使われなかったが、そのあいだ、1970年には流麗な2ドア・ハードトップモデルを、そしてファストバックの「GTO」も立て続けに投入し、三菱の自動車業界におけるポジションも急角度で上昇した。
ちなみに三菱のラリー活動は1973年に登場した「ランサー」に引き継がれ、ラリーフィールドでギャランの名をタップリ聞くのは6代目に設定された「VR4」まで待たなければならないが、今でも初代ランサーよりギャランAIIや16Lのハンドリングと軽快さを懐かしむドライバーは多い。
短命におわった2代目と大成功した3代目1973年に登場した2代目ギャランはキープコンセプトながらランサーの登場で従来よりもサイズアップされた。基本構造もホイールベースも初代と共通ながらこれまでのスポーツ路線から一気にコンフォート路線へ変更し、乗り心地もソフトになった。
ただし、ポジションの曖昧さも災いしたうえ、折からの排出ガス規制、そしてオイルショックで販売は不調だったゆえ、登場から4年を待たずにその使命を終えた。
1973年登場の2代目ギャラン。2代目からコルトの名称は外れた。ヘッドレスト一体型のフロントシートは、ランバーサポートの調整機能付きだった。3代目は1976年に登場。名称は「ギャラン・シグマ」になる。初代ギャランの軽快なイメージを残しつつポジションを明確にした意欲的なデザインで、上級モデルを強く意識させた。インテリアも初代の革新性を彷彿とさせる斬新なメーターパネルに象徴された明るい室内が印象深い。
1976年登場のギャランには、「シグマ」というサブネームが新たについた。エクステリアは、三菱の社内チームがデザインした。エンジンは従来のサターン・シリーズとサイレントシャフト付きの1.8リッターと2リッターの「アストロン・エンジン」を搭載し、高級車に不可欠な振動対策を入念におこなった。今もイエローがかったメーターパネルと斬新なキャビン、滑らかにまわるエンジン、そして乗り心地の記憶が蘇り、ギャランが次のステージに入ったのを思い出した。
初代コルト・ギャランのスポーツ性を知る者にとっては、大きく豪華になったギャラン・シグマは感慨深いものがあったが、時代の趨勢である。なお、GTOの後継モデルである「ギャラン・ラムダ」もこの3代目から登場する。
ギャラン・シグマは景気の回復と上昇志向の波に乗り、歴代ギャランのなかではもっとも成功したモデルになった。トヨタ、日産に次ぐ国内第3位のメーカーに、三菱を押しあげる原動力となった。
3代目ギャラン・シグマは、歴代ギャランのなかでもっとも多い販売台数を記録した。さらに豪華になったインテリア。ステーションワゴンモデルは1977年に登場。4代目&5代目はより豪華に、そしてパワフルに1980年に登場した4代目のギャラン・シグマは、成功した3代目のデザインを踏襲したうえで、よりスッキリしたエクステリアと豪華になったインテリアを持ったが、当時、電子技術を取り入れるのに熱心だった三菱らしく、トリップコンピュターなどに斬新なアイデアが取り入れられていた。
1980年登場の4代目ギャラン・シグマ。ガソリン・ターボモデルも設定された。イメージ・キャラクターは俳優の高倉健。また乗り心地や静粛性も大きく向上し、モデル途中にはガソリン車にターボモデルを設定。三菱の“フル・ターボ・ランナップ”戦略の、萌芽となったモデルでもあった。
しかし、ギャラン・シグマが搭載した初期のターボ・エンジンは、完成度もそれほど高くなかった。パワーとトルクには瞠目するものがあったがラリー車に仕上げたそれは、ドライバーのコントロールが難しく、拡大されたボディサイズもあって、目立った活躍はできなかった覚えがある。
この4代目ギャラン・シグマがギャランとしては、最後のFR(後輪駆動)になり、5代目からFWD(前輪駆動)の時代に入る。
1983年登場の5代目ギャラン・シグマ。4ドアは、セダンとハードトップモデルのいずれかを選べた。なお、2ドア・ハードトップモデルは設定されなかった。1983年に登場した5代目、ギャラン・シグマは丸みを帯びたデザインで、かつよりラグジュアリーになった。また、搭載するエンジンは、技術志向の強い三菱らしく、可変バルブタイミング/リフト機構を持った「シリウスダッシュ3×2」だった。
このエンジン、SOHC12バルブ・インタークーラーターボから当時としては驚くべき最高出力200ps/最大トルク28.5kgmを絞り出した。FWDとしては画期的な速さを誇り、私も雑誌の加速テストでこれに乗ったとき、加速時にフロント荷重が少なくなるFWDの癖を見越し、アクセル・コントロールを使い分け、良いタイムを出そうと心掛けていたのが懐かしい。当時、雑誌テストで賑わっていた谷田部の自動車試験場、「JARI」でのひとコマである。
当時の国産FWDモデルとしては異例の最高出力200psを誇るエンジンを搭載する機種も設定された。オートエアコンや電子制御サスペンションなど、当時としては画期的な装備も多数搭載された(一部グレード)。5代目ギャランには、のちに3.0リッターV型6気筒エンジン搭載モデルもくわわった。フロントヘビーでアンダーステアが強かったため、サーキットのようなコースでは限界があったものの、直線はとにかく速かった。のちに、2.0リッターV型6気筒エンジン搭載モデルもラインアップにくわえられたが(のちに3.0リッターV型6気筒エンジン搭載モデルも登場)フロントヘビーのハンドリングには終始苦労させられた。
5代目ギャラン・シグマで培ったハイパワー・エンジン+FWDの経験はその後、1987年に登場した6代目ギャラン、また、1990~1991日本カーオブザイヤーを獲得した「ディアマンテ」に大いに活かされたのであった。
文・日下部 保雄
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