乗用車との違いは正直、ある。
とある月曜日。借り出したジムニーと地下駐車場で対面する。軽ジムニーの上級グレードXCの5MT車(車両価格:177万6500円)だ。ボディカラーは鮮やかなキネティックイエロー。これは、ジャングルグリーンとともに、ジムニーに設定されたイメージカラーでもある。ちなみに、目立つ「イエロー」と目立たず山林に溶け込む「グリーン」という対照的な組み合わせとして設定されている。
タフネスとかわいさが同居する、ジムニーだけにしかないオリジナルなスタイリング。ジムニーマニア以外の人たちを大いに惹きつけた。さて、デビュー時以来、久々に乗るジムニーにやや緊張しながら乗り込む。フツーの乗用車と比べたときの最初の軽い違和感は、「エンジンスタートスイッチ」だ。ジムニーのキャラクターからすると、メカニカルキーを捻るのが似合うのだが、ジムニーとて現代のクルマなんだと妙に感心してしまう。ちなみに、運転席側オートの左右席パワーウインドウや、電動格納ドアミラーも装備。信号待ちでボケッとしていると、先行車発進お知らせブザーまで鳴るのには恐れ入った。逆に、他車には当たり前についているのに、試乗車のジムニーにはないな、と感じた装備はひとつだけ。バックモニターである。今やたいていのクルマはバックギヤに入れるとナビモニターに後方カメラ映像が映るが、それが付いていなかった。ジムニーのボディは小さく非常に四方が見渡しやすいクルマだから、車庫入れが苦手なアナタも、目視でぜひ頑張ってみてください。
運転席からの、ジムニー全周の視界。とにかくどの方向もスッキリと見えやすく、まったくストレスがない。エンジンを始動して、駐車場を出ようとすると、運転がヘタッピな人みたいに、転舵で大回りし過ぎてしまった! オフロード車のジムニーは、ハンドルの応答感が乗用車とちょっと違う。そして、ジムニーの真横写真を見るとよく分かるけれど、フロントタイヤはやや前方にあり、リヤタイヤは運転手のすぐ後ろにあるのだ。つまり、スポーツカーでもないのに、後輪のすぐ直前に座っている。だから、転舵のタイミングが、フツウのクルマとちょっと違うのだ。ちなみにホイールベースは2250mmと超ショートで、全長が同じスペーシアのホイールベース2460mmと比べても、210mmも短いのである!
スペーシアと比べて210mmも短い超ショートホイールベース。ドライバーが後輪の直前に座っていることが分かるだろう。慣れないついでにもうひとつ。ギヤのストロークがとても大きい。いま何速に入っているかが分からない(最初だけです)。現在MTで乗れるクルマは、MAZDA3やシビックなどスポーティな車種ばかりなので、コクコク決まるショートストロークシフト車が多いから、ちょっとオーバーに言うと、トラックみたい。まあ、ゆっくり落ち着いて操作すれば良いだけだ。都内の市街地を走り始め、シフト操作にも慣れてくる。すると、今後はとても忙しい。ゴーストップを繰り返す都内の市街地では、1速、2速、3速と繋いで、なんとわずか45km/hで4速に入ってしまう! つまり、50km/h以下で走っていても1速~4速まで頻繁に操作が必要なので、正直けっこう面倒くさいのだ。この上にはもう5段ギヤしか残っていないから、5速の受け持ち範囲は相当に広いのだろう。
フロアから長いレバーが生えたコンベンショナルなシフトレバー。ストロークが長く、何速に入っているかが分かりづらいのだが、そのうち慣れる。右奥は、道中に出会った旧型ディフェンダーさん。ジムニーに乗っていると、勝手に親近感が湧いてしまいます。ジムニーでちょっと気になるのは、メーターパネルがかなり反射しやすいこと。常に何かがチラチラと視界に入る。高速道路ではどうか。ジムニーは速く走れなくても良いが、キツい登り坂を力強く登っていく必要があるため、ギヤ比は低くてとてもクロースしている。5速だけはやや離れているとはいえ、60km/hも出てば5速に入ってしまう。というわけで、5速での巡航時回転数は、概ねこんな感じだ。80km/hで3000rpm、90km/hで3400rpm、100kmで3800rpm、110で4200rpm。80km/hですでに3000rpm回ってしまうし、105km/hなら4000rpmに達する。この高回転で巡航することになるから、静かで悠々とクルージング、という感じではない。回転が高いから、燃料もそれなりに消費するはずだ。
2250mmの超ショートホイールベースだけれど、高速道路でイヤなピッチングに悩まされたりするようなことはない。タイヤ外径の大きさが奏功しているかもしれない。高速走路を降りて、箱根のワインディングにステージを移した。すると、意外や意外、運転が楽しい。運転操作に対してクルマが反応を返してくれるし、実感を得ながら運転できるからだろう。プリミティブな軽トラの運転が楽しいのに似て、クルマの特性やポテンシャルに合わせて丁寧に操作し、その反応が得られるというのは、運転の悦びに直結することを実感する。速度云々の問題ではないのだ。
山道のドライビングが楽しい。運転の楽しさは、速さに比例しないことを実感する。ジムニーは、乗り慣れる。
さて、箱根で別件の仕事を終えて、夕方再びジムニーで復路の高速道路へ。すると、ジムニーへの印象に明らかな異変が。帰り道はもうジムニーに乗り慣れている! 楽ちんなのだ。朝、仕事先に向かう往路では、その特性をしっかりキャッチしなければと、エンジン回転数をチェックし、いろんなとことに神経を研ぎ澄ませていた。一方、帰りは身体も気持ちもリラックスしている。先を急ぐこともない。相変わらずジムニーは、快適速度90km/h程度で粛々と走る。当然エンジンは、往路同様、3000rpmも4000rpmも回っている。ところが不思議なことに、往路の時ほど回転数や騒音が気にならなくなった。もうすっかり慣れたし、そんなもんでしょ、という感じ。
ジムニーでの車中泊をYouTubeで見掛けるので本当に出来るのかと思ってやってみた。完全なフラットにはならないけれど、マットを引けば十分寝られる感じはする。身長171cmならアタマや足先がどこにも触れない点はちょっとした驚きだった。その快適さには、ジムニーならではの運転ポジションも影響しているだろう。ジムニーは、普通のハイト系軽自動車のように、低く座って頭上空間がいっぱい余るというパッケージではない。お尻の高さ自体が高く遠くまで見えるから、車幅が狭く小さな車体でも、軽の頼りなさをあまり感じない。背中を起こし気味に、姿勢良く座るから、長く走っても疲れない。視線が高く、前も、横も良く見えて、めちゃ快適なのだ。
アップライトなポジションで視界も良いから、ジムニーはとにかく疲れない。先を急がなければ、どこまでも走って行ける。一般的な乗用軽と比べると、見た目にも頼もしい大径タイヤを転がしているという安心感もあるだろう。圧倒的な悪路踏破能力をもたらす足腰の強さ。ゴツゴツのガレ場でも、どこまでもと行けるのだという安心感。フラットライドや静粛性なら普通の軽乗用車の勝ちかもしれないけれど、この足腰の強さは、精神的な安心感や優越感に繋がる。
どこまでも走っていける足腰の強さと、それを象徴するタフな大径ホイールとタイヤ。ジムニーに乗っているという安心感を、視覚的に得られるポイントだろう。ニッポンの宝のひとつ
ジムニーは、普通の乗用車と比較すれば、スピードが出ないとか、静かじゃないとか、ネガ面はもちろんある。でもそれは、隣に並べて比較すればの話であって、ジムニー一台をいざ手に入れた時に辛さを感じるようなレベルのものでは全然ないし、二、三日乗ればすっかり慣れる。それ以上に、他の多くの軽乗用車では味わえないような、ジムニーだけの一体感、開放感、冒険感、相棒感はハンパなかった。たった1週間だけれどじっくり付き合ってみて、ジムニーに一度慣れてしまうと離れられなくなってしまう人の気持ちが痛いほど良くわかった。スペーシアとN-BOXとタントなら、どれを選んだとしても、大概の満足感は得られるだろう。でも、ジムニーで得られるシアワセは、他のクルマでは、代替が効かない。ジムニーとはまさにクラスレスであり、他のどのクルマとの比較も許さない、孤高の一台。ちょっと大袈裟かもしれないけれど、日本車の、宝のひとつだ。
スズキ ジムニー XC 全長×全幅×全高 3395mm×1475mm×1725mmホイールベース 2250mm最低地上高 205mm最小回転半径 4.8m車両重量 1030kg駆動方式 四輪駆動サスペンション F/R 3リンクリジットアクスル式コイルスプリングタイヤ 175/80R16 エンジン 水冷直列3気筒インタークーラーターボ総排気量 658ccトランスミッション 5速MT最高出力 47kW(64ps)/6000rpm最大トルク 96Nm(9.8kgm)/3500rpm燃費消費率(WLTC) 16.2km/l 価格 1,776,500円
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みんなのコメント
それを違和感と感じてるヤツが
そもそも間違ってるの。
そんなヤツは何乗っても楽しめないよ。