F1並の性能を採用した新世代ハイパーカー
2024年12月11日、アストンマーティンは「ヴァルハラ」の全貌を発表しました。ブレーキ・バイ・ワイヤとカーボンセラミックブレーキを組み合わせることで、軽量・強力でしかも公道での繊細なコントロールを可能にしました。そして可動式のエアロパーツを装備し、走行状況に応じてダウンフォースと空気抵抗を最適化するアクティブエアロダイナミクスの採用により、高速走行時の安定性とコーナリング性能を向上させています。多くの新しい装備がヴァルハラには搭載されましたが、今回はブレーキとシャシーについて詳しく解説します。
「初」モノづくし! アストンマーティン「ヴァルハラ」がついにデビュー…0-100キロ加速はなんと2.5秒、999台限定です
フレームはF1由来のカーボンファイバーから成形されている
アストンマーティン「ヴァルハラ」の中核をなすのは、重量増を最小限に抑えながら最大限の剛性を実現する特注のカーボンファイバー製フレームで、ロアセクションの重量はわずか74.2kgに抑えられている。モータースポーツの頂点を極めるF1の高度な専門知識と技術力を駆使して設計とエンジニアリングを行い、ヴァルハラの構造は最先端のコンポジットテクノロジーの産物となっている。ヴァルハラの核となるカーボンモノコックは、1655kgという軽量な乾燥重量を達成し、1000kgあたり652psのパワーウェイトレシオを実現する。
ヴァルハラのカーボン構造は独自の技術によって生み出された。構造の上部と下部は、樹脂トランスファー成形法(RTM)とF1由来のオートクレーブ技術を組み合わせてカーボンファイバーから成形されている。 その結果、ドライバーと乗員のエルゴノミクスを損なうことなく、クラス最高の構造特性と卓越した安全性を実現する、非常に高い剛性と強度を備えた軽量なパッセンジャーセルが誕生した。
アルミ製サブフレームは、タブのフロントとリアに取り付けられている。フロントエンドには、インボードマウントのスプリングとダンパーを備えたF1スタイルのプッシュロッド・フロントサスペンションが採用されている。ダンパーをインボード化することで、ホイールアーチ内のエアフローが改善され、ホイール上部のフロントフェンダーに設けられた意図的な空気排出口と相まって、ホイールアーチ内の空気圧を下げ、空気抵抗を低減している。
ホイールアーチからのエアフローの改善は、ドアの回転ベーンによって意図的にリアオイルクーラーに質の良い空気を送り込めるようになっている。デザインとパッケージングの観点からは、Aピラー前方のボディ面が低くなり、フロントアクスルの電気モーターとフロント・ラジエターシステムのためのスペースが広くなっている。
リアは、非常に効果的な5リンク・サスペンションシステムを中心に構築されている。ビルシュタインの精密で超反応性のDTXアダプティブダンパーを特注で進化させたものがフロントとリアに装着されている。
サーキット走行では十分な減速力や制動性能を確保
ヴァルハラはさまざまなダイナミック・ドライビングモードで卓越したパフォーマンスを発揮するようにチューニングされ、「スポーツ」と「スポーツ+」は、洗練されたボディコントロール、ダイナミックな俊敏性、路面追従性の最適なバランスを提供し、「レース」モードでは、サーキットで最大限のパフォーマンスを発揮するために、ヴァルハラのアクティブなエアロダイナミックダウンフォースを活用するためのサポートとコントロール性が大幅に強化されている。
ブレーキシステムもまた、この2つの両極端な性能を真に発揮するために磨きがかけられている。公道走行ではプログレッシブな制動力を発揮し、サーキット走行では十分な減速力や制動性能を確保する。
これらの特性は、新しいインテグレーテッド・パワー・ブレーキシステムの入念なチューニングによって達成された。これにより、控えめなブレーキング入力でも、高速域から最大限の制動力を求める場合でも、正確で直感的な信号入力が可能となり、しっかりとした信頼感のあるペダルフィールが得られる。
フロントには410mm、リアには390mmのカーボン・セラミックブレーキ(CCB)ディスクを装備し、ヴァルハラのブレーキシステムは洗練されたブレーキ・バイ・ワイヤ・テクノロジーによって制御されている。サーキットでの過酷な使用にも耐えうるよう設計され、公道走行での微妙な要求にも対応できるよう改良されたヴァルハラのブレーキは、パワーと精度が見事に調和している。
カーボンファイバーで強化されたセラミック素材のコアを、さらにセラミック摩擦層で覆ったCCBブレーキは、従来の鋳鉄製ディスクに比べて重量が大幅に低減し、優れた耐熱性と耐久性を実現している。
ブレーキシステムはヴァルハラ専用に設計
フロント6ピストン、リア4ピストンのベンチレーテッド・モノブロックキャリパーは、専用ダクトから直接マスエアフローを供給し、途切れることのない冷却を行う。ブレーキシステムはヴァルハラ専用に設計され、ブレンボのカーボン・セラミックブレーキ(CCB)技術を組み込んでいる。
このシステムは、アストンマーティンのスポーツカーで使用されたものとしては最大規模のフロントとリアのブレーキアッセンブリーを備えている。ブレーキ冷却性能を最適化するために、計算流体力学(CFD)解析、有限要素解析(FEA)、さまざまな世界的サーキットや風洞環境での厳密な物理テストなど、広範なシミュレーションと物理的開発が実施された。キャリパーは、冷却システムとシームレスに統合されるように設計されており、通気孔付きピストンを組み込むことで、ブレーキパッドとキャリパー内部の両方のエアフローと冷却効率を高めている。
また、インテグレーテッド・パワー・ブレーキの導入により、反応時間が短縮され、コントロール性が大幅に向上した。
「レース」モードでは、ヴァルハラの通常のブレーキシステムに加え、アクティブ・エアロダイナミクスがフロントとリアのアクティブ・エアロダイナミクス・サーフェスを調整し、エアブレーキを発生させる。エアブレーキはパラシュートのような役割を果たし、激しいブレーキング時に空気抵抗を大幅に増加させる。エアロダイナミック・ダウンフォースを利用して重量移動の力に対抗することで、ハードブレーキング時の安定性が向上する。空気抵抗の増加は、制動距離の短縮と制動時間の短縮にも役立つ。
ヴァルハラの主要な特徴のひとつは回生ブレーキ
アストンマーティン ヴァルハラの主要な特徴のひとつは回生ブレーキである。これにより、電動ドライブトレインでの航続距離が増加し、従来なら失われるエネルギーを再利用できるようになる。この機能はフロントアクスルのEモーターを活用して、ブレーキ時のエネルギーをHVバッテリーに蓄えることで実現される。 回生エネルギー変換の大部分は、ドライバーがブレーキを踏んだ際に行われる。
このとき、必要な減速力はフロントのEモーターと従来のブレーキの間で能動的に配分される。これは、車両がインテグレーテッド・パワー・ブレーキシステムを搭載しているため可能となり、ドライバーと実際のブレーキ機構を切り離すブレーキ・バイ・ワイヤシステムは、IVC(統合ビークルコントロール)システムに統合されている。これにより、フルABSブレーキング時にも積極的に利用できるという革新的なアプローチが実現され、サーキット走行時には顕著なメリットが得られる。
さらに、この回生ブレーキはトルクベクタリングシステムと連携しており、フロントアクスルの各ホイールに対して個別に回生トルクを分配することができる。これは技術的な大きな進歩であり、パフォーマンスと効率の向上を両立している。
AMWノミカタ
今回のヴァルハラのシャシーとブレーキはさまざまな特徴を備えているが、とくに興味の沸く部分はインボードマウントのスプリングとダンパーを備えたプッシュロッド式フロントサスペンションの採用なのではないだろうか。
かつて「One-77」や「ヴィクター」でも採用されたこのシステムの構造的なメリットは部品が外に出ていないため空気抵抗が低減できることの他にも、車体内部ダンパーがあるため調整や交換が容易であることも挙げられる。
構造が複雑で設計や製造に高い技術力が必要なため主にはフォーミュラーカーのような軽量を追求するマシンに搭載されるが、このサスペンションを999台の限定生産とはいえ市販車に搭載してくるあたりは、他車との差別化を含めアストンマーティンのドライビングマシンとしてテクノロジーの進化を極限まで追求しようとする姿勢がうかがえる。
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