2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。ヨーロッパラウンドを終え、F1はシーズン後半のフライアウェイでの戦いに突入した。まずはアゼルバイジャンとシンガポールという市街地サーキットでの2連戦で、ハースはアゼルバイジャンでケビン・マグヌッセンに代わってオリバー・ベアマンを起用した。すでに来年の契約を結んでいるベアマンは一足早くハースでのデビューを迎えたが、その戦いぶりを小松代表は高く評価している。アゼルバイジャンGP&シンガポールGPの週末を小松代表が振り返ります。
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ヒュルケンベルグ9位「レッドブルを抑え切ったことに満足」ハース、RBとの差を3点に縮める/F1第18戦
2024年F1第17戦アゼルバイジャンGP
#50 オリバー・ベアマン 予選11番手/決勝10位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選13番手/決勝11位
第18戦シンガポールGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選14番手/決勝19位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選6番手/決勝9位
前回のコラムでも書いた通り、アゼルバイジャンGPではケビンの代役としてリザーブドライバーのオリーを起用しました。すでに来年オリーを起用することを決めているのでどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみにしていたのですが、感想としてはまさに“期待通り”でした。
もちろんオリーを下げる意味ではありません。僕はオリーに対して「これくらいやれるだろうな」という期待を持っていたのですが、3日間を通して本当にその通りのパフォーマンスを発揮してくれたので驚くこともなく、やっぱり契約してよかったなという思いです。
ただもちろんどこかでミスが出るのも事実で、それが今回で言うとFP3でのクラッシュで、そこからどう立ち直るかというのがオリーにとっての新しいチャレンジでした。クラッシュしたのでFP3では1周も走れずに予選を迎えることになりましたが、うまくリセットして乗れていました。
FP3後にオリーと話したのですが、彼は自分がどういうミスをしたのかきちんとわかっているので(トラックコンディションが悪いなかで、ブレーキングを遅らせすぎたことによるクラッシュでした)、僕が伝えたのは「もうクラッシュのことは考えずに、金曜のいいイメージのまま予選を走れるようにリセットしよう」ということだけでした。ちゃんとリセットして予選に臨むことができると証明できた点もすごくよかったです。
レースでは終盤のカルロス・サインツ(フェラーリ)とセルジオ・ペレス(レッドブル)のクラッシュの際にニコを抜いて、オリーは10位に入賞しました。もしあのアクシデントがなければオリーはポイント圏外でレースを終えていたことになりますが、たとえそうだったとしても彼への評価は変わりません。
バクー市街地サーキットはニコの得意とするタイプのコースではないのですが、その一方でオリーは昨年バクーで行われたFIA F2の予選でポールポジションを獲得し、スプリントレースもフィーチャーレースも勝っています。つまりバクーは相対的にオリーをよく見せるコースです。ただその点を差し引いても、今回のオリーはすごいなと思いました。急にF1に出場することになっても問題なく乗ることができて、3日間毎日走行があるのも初めてなのでこれまでとはマインドセットが違うことも理解して、それを実際に行動に移すこともできていたので、19歳の若さでこういうことができるというのはやはり評価すべきポイントです。
一方ニコはニコで、あのクラッシュ後に順位を落としたことで自分自身に腹を立てていました。僕も思うところはありましたけど、彼が自分自身に対して怒っているのがわかったので、土曜のオリーの状況と同様に僕が何かを言うことはありませんでした。これはそれぞれ自分のなかで消化しないといけないことで、ニコは日曜のデブリーフィングの時もまだ自分に対してかなり怒っていましたけど、ちゃんとチームに謝っていました。彼もオリーも自分のミスや悪かったことに対して言い訳をしないので、この点は伸びる人間の長所だと思います。
先に書いた通り、悪かったことについては本人が嫌というほどわかっているので、僕はこの件でニコに対して何も言わないという対応を取りました。それは彼にとっても助けになったようです。リフレッシュして次に進めるように気持ちを持っていくなかで助かったと言われて、僕も嬉しかったです。僕とニコは性格的には全然違いますが、気持ちを切り替えるスピードが似ていて、お互いにひどい状況から抜け出して次に進む時のコミュニケーションもストレスなくとれました。
だからニコはシンガポールで会った時にきちんとリセットされていて、週末への準備が整っていることが一目見て伝わってきました。金曜のFP2終了後はカーフューが始まる直前の深夜1時半くらいまでクルマをどうしようかと話し合っていました。本来は僕もこんな時間まで残っている必要はないのですが、クルマをもっといいものにしようとちょうど悩んでいたところだったんです。悩むところやその度合いがニコと似ていたようで、彼も遅くまで残っていました。こういうことの積み重ねが予選6番手という結果に繋がったんでしょうね。残りの6戦もこうしていい感じにやりきれるはずです。
この2連戦でよかったことは、FP1でクルマに満足できなくてもFP2で改善できたことです。アゼルバイジャンもシンガポールも市街地コースなので、FP1は路面のコンディションも悪いしドライバーはクルマのバランスにも納得していませんでした。そこからFP2に向けてクルマを改善するにあたって、路面の改善幅が大きいことや、シンガポールの場合はFP1とFP2、あるいはFP3と予選で路面温度が大きく変わることなども考慮してクルマを合わせていきます。どんなにFP1の結果が悪くてもそこからいろいろなことを見極めて仕事をするのですが、やっとそういう当たり前のことを当たり前にできるようになってきたなと実感しました。
今まではFP1の結果を踏まえてクルマを変えても、FP2で走ってみるとコースのコンディションが変わったせいでクルマをもう一度変えなければいけないということもあったのですが、この2連戦ではそういうこともありませんでした。FP1から予選まで段階を踏んで徐々によくなっていって、Q3でピークを迎えられたというのが週末を通してよかったことです。そのおかげでレースでもポイントを獲得し、コンストラクターズ選手権6位のRBとの差も3ポイントまで縮まりました。
ここまで18戦を終えて(スプリントレースを入れると正確には18戦以上ありますが)、半分の9戦で入賞できているというのは素晴らしいことです。特にイタリア、アゼルバイジャン、シンガポールとここ3戦は連続してポイントを獲れましたが、ハースの3戦連続入賞というのは2018年が最後だったかと思います。うちは浮き沈みが激しいので、こうして安定してポイントを獲り続けられるのも嬉しいですね。これもチームの成長の証だと思いますし、今回の連戦のようにFP1からクルマを改善できたことはチームの自信になります。様々なコンディションで戦ってきて、シーズン後半に入って競争力が下がっていないというのも初めてのことなので、チームとして前向きに進んでいると評価しています。
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