2022年11月28日、待望のフルモデルチェンジとなった、日産のミドルクラスミニバン「セレナ」。これまで、1999年に登場した2代目のキャッチコピー「モノより思い出。」を大切にしてきたセレナは、今作でも「モノより思い出。」を見事に体現させてきた。
初代セレナから新型セレナまでを振り返りつつ、「モノより思い出。」を貫くセレナの凄さについて、考えてみよう。
愛され続けて20年「モノより思い出」を体現し続けてきたセレナの凄さとは?
文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:NISSAN、ベストカーWEB編集部
いつの時代も「家族の思い出作り」を支援してきたセレナ
1991年に登場した、初代セレナ。ポップなデザインと小さなボンネットを備える「ミニバン」ではあったが、助手席の下にエンジンを搭載するキャブオーバータイプとして登場。当初は商用車版もラインアップされてはいたが、オーテックが手がける特別仕様車「ハイウェイスター」が設定されるなど、乗用車感覚の強いミニバンだった。
オーテックが手がけた初代セレナの「キタキツネ」。この時代はグリルガードがRVモデルの象徴でもあった
その後、1999年に登場した2代目では、FFフラットフロア化と、クラスとしては初めて両側スライドドアを採用、ライバルのステップワゴンに真っ向勝負を挑んだ。いまもセレナが大切にしているコンセプト、「モノより思い出。」というキャッチコピーのもと、クルマとしての機能や良さを前面に押し出すのではなく、家族が楽しく過ごせるイメージに溢れるモデルだった。
2005年に登場した3代目では、クラストップレベルの室内空間とクリーンでシンプルなデザイン、マルチシートアレンジ、実用域での燃費性能にこだわったメカニズムなどが特徴的で、2010年に登場した4代目では、ワンタッチオートスライドドア、スマートシンプルハイブリッド、アイドリングストップ、エマージェンシーブレーキの搭載など現代的な装備と環境性能の高さがウリだった。この4代目は、登場翌年となる2011年に、ミニバン販売台数No.1を記録している。
先代である5代目は2016年に登場。ハンズフリーオートスライドドア、デュアルバックドア、2018年のマイナーチェンジから導入したe-POWERなどに加えて、高速道路や自動車専用道路の同一車線上での運転操作を支援する「プロパイロット」を、日産のどの車種よりも早く搭載。ほかにも、USB充電ソケットは6個も用意されていたり、給油時に手が汚れるのを嫌う女性のために給油口をキャップレスにしたりと、細やかな気配りで、家族の思い出作りを支援してきた。
プロパイロット2.0の搭載よりも驚いた、純ガソリンモデルの用意
新型セレナのトピックは、最上位グレード「e-POWER LUXION(ルキシオン)」に標準装備となる「プロパイロット2.0」と、第2世代e-POWERの搭載、新開発のシートと高剛性サスペンションによる「クルマ酔い軽減技術」の採用などだ。
プロパイロット2.0は、高速道路のナビ連動ルート走行と同一車線でのハンズオフ機能、つまりハンドルから手を放した運転が可能となる機能で、日産車として3モデル目の採用(スカイラインとアリアに続く3モデル目だが、スカイラインはプロパイロット2.0搭載グレードが生産終了となったため、現時点はこのセレナe-POWER LUXIONとアリアのみ。LUXION以外のグレードは、通常のプロパイロット(プロパイロット1.0)となる)。もちろんミニバンでは世界初搭載だ(トヨタ「ノア/ヴォクシー」のハンズオフ走行は、渋滞時のみ)。
第2世代e-POWERについては、すでにノートやエクストレイルで採用されているものだが、発電用エンジンに先代よりも出力を16%アップして低騒音を狙った新開発の1.4L 直3ガソリンエンジンを採用。組み合わせるEM57モーターも出力を20%アップさせたことで、先代よりも静かでなめらかな走りが可能に。静粛性の向上は、クルマ酔いの軽減にもつながっている(騒音下での会話には集中力が必要であり、クルマ酔いにつながることがある)。クルマ酔い軽減対策はほかにも、e-Pedal stepの特性を見直したり、サスペンション特性を見直すことで、頭の振られを抑制したりしている。
ただ、新型セレナで、もっとも驚いたのは、純ガソリンモデルも用意されたことだ。キックスやノート、エクストレイルがe-POWER専用モデルだったことから、セレナでもそれを貫いてくると思われたが、まさかの純ガソリンモデル登場となった。国内販売を支えるノートが全車e-POWERとなったときに本当にそれでよいのかと大いに心配させられたが、国内販売のもう一つの柱であるセレナでは、純ガソリンモデルが残されることとなり、正直ほっとした。
2.0LガソリンモデルのセレナX・XV。ノア/ヴォクシーやステップワゴンでは消滅した、5ナンバーサイズだ
幅広い家族にセレナで楽しい思い出をつくってほしい
新型セレナのライバルである、トヨタ「ノア/ヴォクシー」、そしてホンダ「ステップワゴン」にも、純ガソリンモデルはあり、純ガソリンモデルがあることは、セレナだけの魅力ではないのだが、セレナにも安価なガソリンモデルが残されたことは、大いに意味がある。
先に触れたように、セレナは歴代に渡って、「モノより思い出。」を大切にしてきた。今回の新型セレナで、クルマ酔い軽減に力を入れたのは、限られた家族時間を惜しみなく楽しむためだそう。もちろん、LUXIONのようなミドルクラスミニバンというクラスを超えた価格(LUXIONは479万8200円)のモデルもあるのだが、比較的安く購入できる純ガソリンモデル(ガソリンXで、276万8700円)も用意することで、幅広い家族にセレナで家族時間を楽しんでほしい、ということなのだろう。
そのビジョンはデザインにも表れている。ノアやヴォクシーは大開口グリルの堂々とした存在感のあるフェイスが特徴だが、これは「ファミリーカーでもカッコいいクルマに乗る」というステータス性にもつながっている。それに比べて新型セレナは、男性的でも女性的でもなく中性的な雰囲気で、先進性や洗練されたイメージが強い。先進的なイメージで所有欲は満たしつつも、優先すべきなのは家族、というメッセージが伝わってくるようなデザインなのだ。
ライバルのヴォクシーは「オラオラ顔」が人気だ
◆ ◆ ◆
先代セレナにいち早くプロパイロットを搭載したのは、リーズナブルなクルマに搭載することで、先進運転支援システムを幅広い人に体験してもらうため。e-POWERも、ノートが最初だったが、その次に搭載されたのはセレナだ。先進技術を幅広い人たちに届け続け、「モノより思い出。」を体現するセレナ。次はどんな「経験」を庶民に提供してくれるのか、非常に楽しみだ。
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