フォルクスワーゲンのSUVラインナップに追加された2台のコンパクトなFFクロスオーバーモデル。車格的には似たようでありながら、実は対照的とも言えるほどの違いがあるのだ。
真新しいことを避けた、SUVクーペのTロック
トゥアレグとティグアンに加えて、フォルクスワーゲン(以下、VW)が直近のSUVラインナップで強化したのはコンパクト寄りの、TロックとTクロスの2台だ。Tを頭に頂くネーミングは共通で、4.1~4.2m強のボディ長というサイズの面でも、また車格的にも、相互に似通ったSUVであるにも関わらず、実は対照的といえるほど異なる2台だ。どういうことか。
まずTロック(T-Roc)は、SUVクーペというVWには従来なかったジャンルのようでいて、ゴルフベースの2+2スペシャリティクーペだったシロッコの後継、もしくはそれが抜けた穴を埋めるモデルといっていい。Sciroccoの綴りの中には、VWがコンセプトカーでも用いてきた「IROC」の響きがあり、T-RocとはトールなIrocであり、アルファベットのSの次はTである以上、その爽やかなデザインとは裏腹に、VWの執念が透けて見えてくる。
BMWのX6以来、すっかり各メーカーとも既存セグメントの中間に追加するようになったSUVクーペの定石通り、Tロックのリアウインドウはキツく傾斜している。Cピラーの太さにVWとしてのアイデンティティは感じられるし、VW初というルーフとのツートーンも効果的だ。フロントの顔まわりを縁取る「T」状のクローム枠の印象もふくめ、一見して外観はクリーンで力作といえる。だがブラックアウトしてサイドウィンドウに馴染ませたようでもBピラーのガッツリ目の存在感が、せっかくのクーペとしての思い切りを、デザイン的に相殺しているように思える。
いいかえれば、Tロックは同じMQBのゴルフ7を下からもち上げ、SUVルックでカッコよく見せたいという思惑が生んだような雰囲気。伝統のハッチバックに飽きた顧客が、ID.3かID.4に乗り換えるまでに挟むべき繋ぎの1台として、使い勝手や走りの面で真新しいことは避けた、と、そんな風に見える。
他のドイツ・メーカーのクーペSUVも、ディーラーで顧客が他社に流れるのを阻止すべく、そんな役割を多かれ少なかれ負うている。Tロックがクーペとしてのデザイン性より、リアウインドウの下まで開度ほぼ100%を確保し、ゴルフ7の350リッターよりはるかに大きい445リッターのトランク容量で実用性を重視した点は、冒険よりネガ潰し重視のカスタマーには確実にアピールする。ちなみにこのトランク容量は、ひとつ下の車格であるTクロスの455リッターよりもわずかに小さいので、あくまで物理的メリットよりスタイル重視の証左ともいえ、メーカーとディーラーにとってはコスパ客を選り分けるリトマス試験紙にもなる。そんな、ある種の妥協の産物としてのクーペSUV、ともいえる。
もう1ついえば、TDIの2リッターディーゼル150ps/340Nm版というパワーユニットは、ゴルフ7でも2020年モデル以降に積まれたので真新しく見えるが、今やPSAグループのBlueHDi、ジャガー・ランドローバーのインジニウム、ボルボの、日本市場ではフェードアウト中のD4、D5など、欧州他ブランドの2リッタークリーンディーゼル、およびマツダの2.2リッター・スカイアクティブDなどが到達していたレベルにくらべると、静粛性に欠ける割にトルク感がない。7速DSGの繋ぎはスムーズでダイレクトだが、ようはパワーユニットが煩くて遅いのだ。
素直にちょっといいTクロス
とまぁ、色々と条件つきのTロックよりも、ひとまずクロス・ポロの後継モデルと受け止められるTクロスは、素直にちょっといい。
ネーミングの由来は広告のキャッチコピーにならえば「 T(ティー)さいクロス」だが、 むしろ「トールなクロス(・ポロ)」と捉えると、ハッチバックを下駄からもち上げたような成り立ちに合点がいく。トランクは先述の通り455リッターの大容量だし、ポロより重心は高いがハンドリングは危なげなく従順。
何よりTSIの3気筒1リッターターボがいい。アウディA1スポーツバックと同じかと思いきや、116ps/200Nmと出力もトルクもTクロスが上で、A1スポーツバックではシティーカーヴァーでようやく搭載された型式DKR、むしろup! GTI由来のユニットなのだ。高回転域まで軽快に吹け上がり、ギイーンという金属的なエキゾーストが、その特徴だ。SUVボディと1270kgの重量のせいか、思ったよりパワーの伸びは体感できなかったが、キビキビ元気よく走らせられる気持ちよさがある。
いずれFFのSUVクロスオーバーも、合理的に究めれば動的性能で効率化され実用面で最適化された、優れたスモールカー然としてくる。脱炭素化がルールでこそないがプロトコルとして意識される今、ならば背の低いハッチバックの方がそもそも加工要らずで、お味や効率でも優るのではないか? そんなツッコミは残る。不要不急のボディ・バリエーションが増えた今、SUVの黄昏を感じさせる2台でもあった。
文・南陽一浩 写真・柳田由人、フォルクスワーゲン グループ ジャパン 編集・iconic
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