お盆休みも明けて上場企業の2020年4~6月期の決算発表がピークを越えた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な経済活動の停滞などで、すでに6割以上が減益となり、最終損益が赤字となって苦境に立たされている企業も続出しているという。
このうち、日本経済のけん引役で雇用への影響が大きい自動車メーカーの業績悪化が際立つ。長期化が想定されている危機への対応とともに、コロナ後を見据えた生き残り戦略が問われている。
初代 2代目の激賞から一転 トヨタ ウィンダムは何を見誤ったのか?【偉大な生産終了車】
文:福田俊之/写真:NISSAN、MITSUBISHI、RENAULT、TOYOTA、ベストカー編集部
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ニッポン経済のけん引役である自動車メーカーが軒並み苦戦
今年上半期(1~6月)のグループ世界販売台数がドイツのフォルクスワーゲンを上回り、上半期として6年ぶりに世界トップに躍り出たトヨタ自動車にしても、4~6月期連結決算は前年同期に比べて売上高が4割減、最終利益は7割以上も落ち込んだ。
部品の調達コストなど無駄な経費を極力削ることで、何とか黒字を確保したものの、新型コロナの影響で工場の操業停止や営業活動の自粛で新車の販売台数が激減し、8000億円以上の利益が吹き飛んでしまった。
トヨタは上半期でVWを抜いて世界一に返り咲いたが、工場の操業停止、営業自粛などにより8000億円以上の利益が吹き飛んでしまった
自動車大手7社のうち、4~6月期は感染拡大が深刻なインド市場の不振で苦戦したスズキも大幅減益ながらギリギリ黒字を維持したが、トヨタとスズキの2社を除き、ホンダ、日産自動車、マツダ、スバル、そして三菱自動車の5社は最終利益が赤字に転落した。
その赤字5社の中では、ホンダとスバルは主戦場の米国と中国で経済活動の再開による自動車需要の回復を想定し、通期予想では最終黒字を確保できると見込んでいる。
ただ、「今後はロックダウン(都市封鎖)が起きない」(スバルの中村知美社長)との楽観的な見通しを前提としており、想定通りに展開するかは感染拡大の状況と特効薬やワクチンの実用化次第で、先行きは不透明だ。
感染の「第2波」に見舞われれば各社の見立てが狂って収益はさらに悪化しかねないだろう。
改革に取り組む矢先にコロナ禍の日産と三菱自
そんな危うさがつきまとう自動車各社だが、中でも危機的状況に置かれているのは、仏ルノーと企業連合を組む日産と、その傘下の三菱自である。
この4~6月期は日産が2855億円、三菱自が1761億円の最終赤字に陥ったほか、通期でもそれぞれ6700億円、3600億円の赤字を予想、合算すると1兆円を超える。
2019年12月から内田誠社長をトップとする新体制をスタートさせた日産だが、2期連続赤字になる見通しで苦境が続く
両社とも前期に続き2年連続の最終赤字になる見通しで極めて深刻だ。業績不振の要因は新型コロナの影響ばかりではなくそれぞれに”お家の事情”の深い悩みを抱えていることも見逃すわけにはいかない。
改めて説明するまでもないが、ともに、企業連合の経営トップで2018年11月に逮捕されたカルロス・ゴーン被告のただならぬ「覇権への執念」で無茶苦茶に進められた「台数優先」の拡大路線が行き詰まり、その後遺症に苦しんでいるのが実態だ。
このため、悪化した業績の早期回復に向け、改革に取り組む矢先に、新型コロナの感染拡大が足を引っ張った。まさに踏んだり蹴ったりで瀬戸際に立たされている。
2020年6月に登録車としてはリーフ以来約2年8か月ぶりのニューカーとしてキックスをデビューさせ、出だしは好調だが、いつまでキープできるかが重要
一方、日産に43.4%を出資して筆頭株主のルノーは2020年1~6期の最終損益が72億9200万ユーロ(約9000億円)の巨額赤字を計上した。上半期の赤字はリーマン危機後の2009年以来11年ぶりで、過去最悪の赤字決算だったという。
2020年通期の業績予想は公表できる状況ではなく見送ったが、ルノーの上半期の赤字に日産と三菱自の通期予想を単純に合算すると、3社連合の最終損益は2兆円に迫る。
構造改革費用がかさむという特別の事情もあるが、コロナ前の三菱自の売上げ規模は約2兆円強。その売上高が丸ごと吹き飛んでしまうほどの衝撃的な赤字額だ。
新型ルーテシア(現地名クリオ)を登場させることを予告しているルノーだが、赤字のレベルは日産、三菱を大きく上回る約9000億円
ゴーン政権下の「負の遺産」の解消は容易ではない
日産の場合、2019年度に計上した構造改革費用や減損損失だけでも6000億円以上に達しており、20年前にゴーン被告が打ち出した「日産リバイバルプラン」で発生した7000億円の特別損失に匹敵する規模になる。
ゴーン被告が”コストカッター”の異名を持ち、長きにわたりトップに君臨し続けてきたのは、村山工場などの閉鎖や2万人を超える従業員のリストラを短期間に断行してV字回復を遂げたからでもある。
ゴーン被告がV字回復させた時とは状況が違う。現在の日産にとって、ゴーン政権下の負の遺産の解消は容易ではない
ところが、その当時とは経営を取り巻く環境や再建の課題は大きく異なっているために比べようもないが、ゴーン政権下の「負の遺産」の解消は容易ではない。
構造改革やコロナ対策の費用がさらに膨らむことになれば黒字転換の見通しも大幅に遅れる可能性もあり、2兆円の巨額赤字を背負う日仏連合はこの先も厳しい試練が続くことになるだろう。
何よりもヒット車を出すことが必要
もっとも、困難から逃避するだけでは復活の道筋は見つかるものではない。困難は一つのチャンスでもあるが、コロナの収束が見えない中でも、日産・ルノーと三菱自はそれぞれ無理な拡大戦略に終止符を打つ”復活のシナリオ”を公表した。
日産は開発が遅れていた新型車の投入を加速させるとともに、インドネシア、スペインの工場閉鎖を含めた世界で生産能力を2割削減する方針だ。
発売開始の約1年前となる2020年7月にアリアのプロトタイプを公開するという戦略に出た日産。期待感は高まるが、新車登場時の新鮮味は失われる
三菱自では稼ぎ頭の東南アジアに経営資源を集中させながら、子会社のパジェロ製造の工場閉鎖や労務費を15%削減するなどのスリム化を打ち出した。
ルノーも過剰設備や1万5000人規模の雇用削減などの大リストラに着手するという。
業績回復に向け、痛みを伴うリストラはやむを得ないが、反転攻勢につながる絶対の条件は、何をおいても赤字を吹き飛ばすほどの魅力溢れる”ヒット車”の誕生に尽きる。
2020年秋にフルモデルチェンジを受け新型に切り替わるノート。売れて当たり前のクルマだから、そのほかのヒットモデルが必要になる(ベストカーの予想CG)
日産では「1年半の間に『12車種』の新型車を投入する」(内田誠社長)という。
その中には6月末に発売した新型SUV「キックス」や、販売は1年先でも米テスラなどとも競えるような電気自動車(EV)の新型「アリア」なども相次いで発表している。
コロナの直撃は世界中のどこの自動車メーカーも影響を受けており、感染防止対策に温度差はあるが、差別化にはならない。
厳しい環境の中でも電動車や自動運転などの付加価値のある新車開発を着実に進められるかどうか、コロナ禍でのヒット車の投入こそが”赤字連合”の汚名を返上し、資本関係の見直し問題も含めて重要なカギを握っていることは言うまでもない。
東京モーターショー2019で公開した軽EVのIMkは今後三菱と共同で開発し、三菱の水島工場で生産する。三菱はそのための設備投資を明言
アライアンス以外の三菱自の新たな協業は興味深い
そんな中、自動車各社の決算が出そろい、夏季休暇に入る直前の2020年8月7日、その資本関係に微妙な変化をもたらしかねないトップ人事が飛び込んできた。
三菱商事の出身で、三菱自で約16年にわたって経営を率いた益子修会長が、健康上の理由で会長職を突如辞任した。
三菱自の益子修会長が2020年8月に辞任を発表。益子会長の辞任は三菱の今後に大きな影響を及ぼすことは間違いない(写真は2016年の日産傘下入りの時)
時期が時期だけに「敵前逃亡」とかの憶測も飛び交い、唐突のようにも思えたが、2019年6月、CEO職を生え抜きの加藤隆雄氏に譲った頃から、引き際を模索していたとみられる。
古希の70歳を過ぎ、ここ数年はストレスが重なり宴席でもアルコールを控えるなど体調も万全ではなかった。
当初5月に予定していた中期経営計画の発表がコロナの影響で7月末にずれ込んだことからも、このタイミングで治療に専念するために経営の一線から身を引く決意を示したようだ。
その三菱自が発表した中期経営計画では前述したように「不退転の決意でコスト構造改革に取り組む」(加藤CEO)のが大きなポイントだが、将来の道筋を探るヒントが盛り込まれているのも興味深い。
三菱自は東南アジア、新興国での販売に注力。そのパートナーが三菱商事というのは、アライアンスの今後を考えると興味深い(写真は東南アジアで販売しているパジェロスポーツ)
連合を組む日産、ルノーとの提携強化とは別に、東南アジアをはじめ、南米、アフリカなどの新興地域のパートナーに三菱商事との協業を強化するほか、中国では広州汽車と新型EVを共同開発する計画という。
現在、三菱自の筆頭株主は34%を出資する日産だが、三菱商事も20%を保有する大株主。
将来的に共倒れを回避日するために日産が三菱自を切り離す可能性も否定できず、それは、3社連合の再構築にも影響を及ぼすことにもなりかねない。
その場合、三菱グループのポジションが気になるところだが、日産株416.5円、三菱自株248円(8月14日終値)という地の底を這うような株価では手も足も出せないのが現状だろう。
背に腹はかえられぬともいうが、再編の引き金にもなりそうなこの先の株価の動向にも目が離せない。
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