昨年9月から高速道路の一部区間で最高速度が正式に引き上げられ、「高速道路の最高速度120km/h」が本格的にスタート。今後、適用される区間は拡大されていく計画となっている。
そこで、この高速道路120km/h時代到来に際して、ベストカー2020年11月26日号ではハイブリッドカーをメインに揃えたコンパクトカーとセダンをJARI(日本自動車研究所)に持ち込んで、120km/hで走ると燃費はどうなるか? などのテストを実施。
量販店で買えるタイヤと違うの!? 純正タイヤがじつはひと味違うという事実
その結果からわかった「遠乗りする人にいいHV」と「街中で使う人にいいHV」について、実際この時にテスターを務めた鈴木直也氏に考察してもらった。
文/鈴木直也
写真/TOYOTA、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】人気コンパクトカーとセダンの燃費を計測! JARI周回コースを使った120km/hテストの様子はこちら!
■ハイブリッドの燃費特性をJARIテストで再確認
プリウスは1997年12月、世界初の量産ハイブリッド車として登場した。初代に採用されたハイブリッドシステム「THS」の根幹は現在まで受け継がれている
プリウスが2代目に進化して大ブレイクしていた頃だから2005年あたりの話だが、ハイブリッドに懐疑的だった欧州勢はクリーンディーゼルとダウンサイズターボへ舵を切った。
プリウスに対する当時の欧州メーカーの反応は「コストが高いわりに、いいのは低速燃費だけでしょ?」という冷ややかなもの。EVシフトに狂奔している現在とは正反対で、この時代の欧州自動車メーカーは電動化にはきわめて消極的だったのだ。
しかし、この当時の欧州勢の見解、特に「ハイブリッドは高速時のパフォーマンスが悪いし効率もよくない」という指摘には、一理あったと言わざるを得ない。
ハイブリッドの利点は、内燃機関の苦手な領域を電動でアシストし、減速時には運動エネルギーを回収して電池に蓄えること。モーター、パワーコントローラ、バッテリーなどの大掛かりなシステムは燃費効率を高めるための存在で、動力性能の向上には貢献しない。
一方、スピードレンジの高いヨーロッパの高速道路では、燃費はほとんど内燃機関の効率で決まる。
初代プリウスは今のEVと同様アーリーアダプターに受け入れられたが、それは「電池が消耗したら亀マークが出てスローダウン」をご愛嬌として許せた人たち。ヨーロッパ人にとってハイブリッドはあまり魅力的ではなかったのだ。
この状況は、初代プリウスから四半世紀を経た今日でも基本的には変わっていない。それをあらためて確認したのが、昨年の秋にベストカー誌で実施したJARIテストだ。
■3段階の速度で高速走行時の燃費を計測!
JARI(日本自動車研究所)の高速周回路を80km/h、100km/h、120km/hでそれぞれ周回し、各速度での定地燃費を計測した
このテストは「高速制限速度120km/h時代の燃費とスタビリティ」がテーマだったが、JARIの高速周回路を80km/h、100km/h、120km/hでそれぞれ周回、各速度での定地燃費を計測してみたものだ。
ここで驚いたのが、ノンハイブリッドのヤリス(1.5LのCVT)の燃費データが、80~120km/hすべての速度で、ヤリスクロスHV、フィットHV、キックスe‐POWERを上回ったこと。これにはスタッフ一同ビックリだった。
ちなみに、「80km/h→100km/h→120km/h」と速度を上げてゆくと燃費がどのように変化したか、計測データは以下のとおり。
●ヤリス(29.0km/L→23.4km/L→16.4km/L)
●ヤリスクロスHV(25.2km/L→20.6km/L→16.2km/L)
●フィットHV(22.1km/L→17.7km/L→14.6km/L)
●キックスe‐POWER(16.1km/L→15.2km/L→13.7km/L)
加減速のない一定速度の走行では、ハイブリッドといえどエンジンの熱効率がほぼ燃費データに直結する。その原則がそのまんま結果に表れているのだ。
ハイブリッドはエンジン→電気のエネルギー変換があるから、高速域になるほどエネルギーロスが増えて不利。これは事前に予想できた。
しかし、本来ハイブリッドが得意と思っていた低速域でも、ヤリスの1.5Lがほかを大きく引き離すというのは意外。熱効率40%を超える最新鋭のエンジンを、優秀なCVTとの組み合わせによって高効率ゾーンで使うとすごい燃費が出る。それを再認識させられたわけだ。
■これまでもトヨタのハイブリッド車による市街地燃費は優秀
ヤリス 1.5Lガソリン車の燃費テスト結果(80km/h:29.0km/L、100km/h:23.4km/L、120km/h:16.4km/L)
ヤリスクロスHVの燃費テスト結果(80km/h:25.2km/L、100km/h:20.6km/L、120km/h:16.2km/L)
このテストから言えるのは、やっぱりハイブリッドは発進停止や加減速の多い一般路でこそ本来の持ち味を発揮するという事実。というか、そういう状況で使わないとハイブリッドは美味しくない。
過去のベストカー誌の燃費テストを調べてみると、一般路でコンスタントに優秀な成績を収めているのはやっぱりトヨタハイブリッド勢だ。
加減速の多い走行条件で、いかにエンジンを始動せず電気で走るか。勝負のカギとなるのは回生効率の高さとエネルギーマネジメントの巧みさだが、四半世紀にわたってハイブリッドシステムを熟成してきた蓄積は伊達じゃない。
ヤリスからクラウンクラスまで、軽く渋滞しているような市街地で20km/L以上の燃費は確実。ドライビングスタイルを問わず、誰が乗ってもそこそこレベルの燃費が期待できる点も素晴らしい。
ただ、かつてはトヨタ一強だった一般道のハイブリッド燃費にも最近は有力なコンペテイターが登場している。
■最近は日産とホンダのハイブリッド車の燃費も優秀
フィットe:HEVの燃費テスト結果(80km/h:22.1km/L、100km/h:17.7km/L、120km/h:14.6km/L)
キックスe‐POWERの燃費テスト結果(80km/h:16.1km/L、100km/h:15.2km/L、120km/h:13.7km/L)
その筆頭は日産のe‐POWER勢だろう。ノートとセレナでヒットを飛ばし、キックスと新型ノートが加わってさらに戦力を強化。ワンペダルドライブを売り物に、日産ならではの個性的な走りをアピールして好評を博している。
このe‐POWERというハイブリッドシステムは、エンジンは発電専用で走りは常に電動モーターが担当する純粋なシリーズハイブリッド。メカはシンプルでいいのだが、高速域ではエネルギー効率がイマイチと考えられてきた。
しかし、いざ日産がノートで商品化してみると、市街地燃費は上々だし何よりドライバビリティが抜群。たしかに高速燃費の伸びはいまひとつだが、ユーザーの評価は「ぜんぜん問題ない」が大多数で、結果として大ヒットとなったわけだ。
もうひとつ、新型フィットでデビューしたホンダのe:HEVも一般道のドライバビリティが秀逸だ。
ホンダのe:HEVは以前i‐MMDと称していたシステムだが、e‐POWERと同様のシリーズハイブリッドに、エンジンでタイヤを直接駆動するためのクラッチを追加したもの。高速域ではエンジン駆動で走るため、ハイウェイクルージングでも好燃費が期待できる。
上記のとおり、フィットHVの燃費テストの数値はヤリスクロスHVとキックスe‐POWERの中間くらい。実用燃費もだいたい同じような序列と思って間違いない。
■遠乗りする人に最適なハイブリッドはセダン系
120km/h巡行テストの実測燃費は、アコードが16.5km/L、レクサスESが16.7km/L。高速走行時はコンパクトカーよりも良好な数値をたたき出した
この、ヤリスHV、フィットHV、新型ノートe- POWERの3車種が「街中で使う人にいいHV」の御三家。デザイン、パッケージング、ドライバビリティも三車三様で、キャラがあんまり被っていないのもイイ。
対する「遠乗りする人にいいHV」は、セダン系から選ぶのがお薦めだと思う。
制限速度120km/h時代の高速クルージングでは、静粛性・乗り心地・スタビリティも高いレベルが求められる。そうなるとSUVやハッチバックよりセダンの方が有利。やっぱり長距離ドライブ時の疲労感がコンパクトカーとはだいぶ違う。
そのなかでは、ホンダのe:HEVを搭載したアコードの燃費性能の高さが光る。
120km/hレベルになるとパワートレーンも重要だが空力性能が燃費に与える影響が大。結果として、アコードとレクサスESがコンパクトカー勢より良好な燃費データを記録している点は要注目だ(120km/h巡行時の実測燃費は、アコードが16.5km/L、レクサスESが16.7km/L)。
高速を利用して長距離を走るケースが多いなら、こういうセダン系ハイブリッドのほうがお薦めといえる。
また、トヨタハイブリッドのなかでも縦置きエンジン系はちょっと別物で、2段変速リダクションギア付き(レクサスGS450hから)や、動力分割機構の後ろに4速ATを合体させたマルチステージハイブリッド(レクサスLCから)などは、かなりパフォーマンス志向に振ったハイブリッドシステム。
ロングドライブのみならずスポーツドライビングを好むユーザーなら、こういったパフォーマンス系HVも選択肢のひとつといえる。
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みんなのコメント
ヤリスだけHVでなくガソリン仕様なのか理解できない。
同じHV仕様で比較しないと意味のない典型的なデータ。
ノーマルエンジンの高速燃費がHVより良いのがわかったのは「収穫」だね。