プリウスPHVが2017年2月に発売され、プリウスが欲しい場合、どっちがいいのか分からなくなったという人も多いのではないだろうか? 同じプリウスという名前なわりにデザインは全く異なるし、値段もPHVのほうが断然高い。ハイブリッドとPHVでは何が違ってくるのか。分からないことがたくさん出てきた。
<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
■値段と燃費比較
車両価格を比べてみると、プリウスは約270万円から約310万円で燃費は37.2km/L。PHVは約320万円から約420万円であり、プリウスのエントリーモデルとPHVのトップグレードでは約150万円の差がある。逆にプリウスのトップモデルとPHVのベースグレードではわずか10万円の差であり、悩ましいゾーンに入る。またPHVのハイブリッド燃費はプリウスと同様37.2km/Lだ。であればEV走行距離が68.2kmも走れるPHVのほうが得。そのEV走行のための充電は外部充電をすれば、ガソリンとは比較にならない安さというのが現状だ。
しかし、カタログ燃費というのも、これまたややこしく、実燃費とは異なるし、モデルによっても異なる。PHVのEV走行可能距離68.2kmという数値も15インチ装着モデルでのスペックで、17インチを選ぶと52.2kmになる。またハイブリッド燃費の37.2km/Lは15インチタイヤのデータで、17インチ装着モデルだと30.8km/Lがカタログデータとなるのだ。
どちらのモデルも実用燃費においては20km/L以上の燃費は確実に稼げるだろうから、いずれにしても省燃費でお財布には優しいのは間違いない。しかもPHVは外部充電もできるため、走行距離がEV走行可能範囲以内であれば、実質ガソリン代はゼロ円で済むことにもなる。
ということで、オーナーの使い方、乗り方次第でメリットの出方が異なってくるわけで、じっくりと自分の使い方を振り返ってみる必要がありそうだ。ハイブリッドはもともと市街地走行での燃費がよく、高速の連続走行では燃費が悪くなるという特徴がある。が、PHVでは、EV走行の距離が長く、しかも高速走行でもEV走行が可能なので、そうとうメリットが生まれてくるだろう。ちなみに電費は15インチタイヤ装着車で10.54km/kWhで17インチでは8.65km/kWh。リーフの電費は平均9.0km/kWhあたりだ。
またプリウスPHVは充電すればそのメリットが大きく発揮されるので、積極的に充電してみるといい。ちなみに、欧州のPHEVは普通充電のみで急速充電しての利用は考えておらず、急速充電機能を持っていないモデルがほとんどだ。先代のプリウスPHVでは、外部充電をするユーザーが少ないという現象があった。それはEV走行距離が短いことと、エンジンでも充電できるという理由からだった。しかも充電する手間もあった。が、4代目のPHVはEV走行距離が68km以上走行できるわけで、充電してEV走行すれば、そのメリットを肌で感じられるだろう。
■デザインの違い
標準プリウスより、PHVは断然いいデザインになっている。先代のプリウスPHVがハイブリッドモデルとの見分けができないほど似ていたことからの反省、ということで普通のプリウスとは全く異なるデザインになっている。迷うことなくデザインだけで選べばPHVに軍配が上がる。
インテリアでは縦長の大型ディスプレイが目を惹く。ナビ機能はもちろん、トヨタが運用するT-connectの使い勝手やスマートフォンとの連携など先進的なつながりを可能としている。ナビ画面の大きさからも先進性を強く感じさせられ、印象がいい。
■乗り心地や操舵フィールの違い
プリウスPHVは大きなバッテリーを搭載している関係もあり、車両重量がプリウスの1360kg前後に対してPHVは1530kg前後と100kg以上重くなっている。その質量の増大が乗り心地などに好影響を与えている。それは、重量感のあるしっとりとした乗り心地として感じられ、プリウスよりはワンランク上の高級感を感じるのだ。つまり、プリウスとは重量マスが違うので上下、左右に動かされず滑らかに感じるわけだ。
ダンパーをはじめ、乗り心地への影響だが、微低速域でのダンパーの動きもよくフリクションを感じない。カヤバ製ダンパーには、微低速バルブを設けたタイプが装着され、細かい路面からの入力をいなして乗り心地が良くなっている。
ちなみに、重量が重いPHVなのにハイブリッド燃費がプリウスと同等であるという理由は、大きなバッテリーを搭載しているため、回生エネルギーの回収効率がよくモーター稼動範囲が広いため、燃費がよくなっている。そのため、システムだけでみれば、PHVのパワーユニットのほうが燃費がいいシステムということなのだ。
ステアリング操舵もその重量感がいい方向にでている。電動アシストも違和感なく微小舵での動き、転舵した際の動き、切り戻しのフィールも違和感なく操舵できる。試乗車は15インチ装着車で、乗り心地と操安性能両立というのが開発目標だとシャシー設計部の山下浩也氏が説明していたが、目標を達成していると思う。
乗りだしはバッテリーの充電状況は満タンなので、ほぼEV走行だけで試乗できた。途中、首都高速を走行したがEV走行の許容範囲が135km/hまでなので、国内の高速道路もEV走行だけで走破できることになる。もちろん、エンジンが稼働していないため走行音は言うまでもなく静かだ。
EVモードとハイブリッドモードの切り替えスイッチを長押しすると、チャージモードになり、強制的にエンジンが稼働して充電をはじめる。そうしたモード切替もうまく状況に合わせて切り替えていければ、PHVのメリットを生かす走行が可能で、賢く使えるアイテムと言えるだろう。
EV走行のフィーリングは圧倒的にPHVが有利だ。プリウスPHVは、充電用のモーターも駆動用として稼働するので、デュアルモータードライブなのだ。だから走りはじめの加速感はEV車のそれで、トルクがドンと立ち上がる加速をする。アクセルを踏み切らなければエンジンは稼働しないので、神経質になる必要もない。その点プリウスでは強めの加速をすればエンジンの音も大きくなり、エンジン車と同じように加速するという違いがある。
このようにプリウスとプリウスPHVとは、かなり異なるドライブフィールであり、よりEV車色が強く感じられるのはPHVというわけだ。もう一点PHVの特徴をお伝えすると、ヒートポンプエアコンの採用がある。これはエンジンの熱を利用したヒーターではないため、素早く暖房が効くというメリットがあり、PHVには装備されている。
ソーラーパネルモデルについての疑問もある。こちらはベースグレードの「S」にしか設定がない。トップグレードにこそ欲しい装備だと思うが、ソーラーシステム全体で17kg程度の重さがあり、燃費、電費に影響の少ないのはベースグレードというわけだ。つまり、装備が少なく軽量モデルだからという理由だと思う。せっかく先進装備のモデルだけに少し残念な気もするが、燃費に厳しいユーザーを考えると選択肢としてトップグレードでは難しいと判断したのだろう。
■おまけ なぜ発売が遅れた?
プリウスPHVは、2016年8月にプロトタイプ試乗会というのがメディア向けに行なわれている。その時の、詳細解説、試乗レポートはこちらで掲載しているが、それから半年も遅れてようやくデビューした。メディア向けに試乗させるモデルはプロトタイプとはいえ、最終モデルであり、発売直前というのが常識だ。それがなぜ半年も?というのが自動車メディアの間ではさまざまな憶測が飛んでいた。
大きなリチウムイオン・バッテリーを搭載したから、バッテリーに何か問題が起きた。あるいは、バブルデザインのテールゲートはFRP製で製造が追いつかないのだ、などの憶測。
しかし、このプリウスPHVはグローバルモデルで、しかもアメリカのZEV規制に対応する旗頭でもあるのだ。結局のところ、ZEV規制に対するPHVのクレジット換算率が2017年モデルと2018年モデルでは大きく異なり、2018年になると1/3までクレジットを下げられてしまうのだ。そのため、2017年モデルを1台でも多く販売し、多くのクレジットを稼ぎたいと考えるのが普通だ。
トヨタは決して遅れた理由を説明しないが、じつのところ、このクレジット対策のために製造されたPHVはアメリカでの販売にどんどん回していた。そのために、国内に流通できなかったというのが本当のところだろう。こうしてようやく国内デビューしたのだ。
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