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2021年のポルシェは今までにない展開を見せる。ピュアEVのタイカンやワンメイクレース、体験施設の戦略とは?【インタビュー】

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2021年のポルシェは今までにない展開を見せる。ピュアEVのタイカンやワンメイクレース、体験施設の戦略とは?【インタビュー】

ポルシェは2020年に大きなニュースをいくつも発信してきたが、その中でもピュアEV(電気自動車)であるタイカンの日本市場での正式デビューは大きな注目を浴びた。言わずと知れたスポーツカーブランドがピュアEVを作り出したらどのようなモデルに仕上がっているのか気にしている人も多いことだろう。このほかにもポルシェエクスペリエンスセンター東京の発表、東京・有明と原宿で展開されたポップアップストアはこれまで日本市場になかった施設である。なぜこうした「初」の取り組みを行ってきたのだろうか。さらにタイカンのスポーツ性などをポルシェジャパン執行役員の前田謙一郎氏と、ポルシェカレラカップジャパン(PCCJ)に参戦している小河諒選手に話を聞いた。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長)

電気自動車の宣伝は難しい。その解決策のひとつがポップアップ原宿
千葉 まずは、今回のインタビュー会場にもなっています「ポルシェ タイカン ポップアップ原宿」についてお聞きします。タイカンを展示、また日本ではじめて公道試乗できる拠点としてオープンした施設ということですが、なぜ原宿という場所を選んだのでしょうか。

●【くるま問答】ガソリンの給油口、はて? 右か左か、車内からでも一発で見分ける方法教えます(2020.01.21)

前田 駅前というアクセスの良さはひとつの要素となりましたが、それよりも「ポルシェを詳しく知らない」、「これまでポルシェに触れたことがない」という人にピュアEVであるタイカンをアピールするためです。

千葉 お客さんの反応はいかがでしたか?

前田 これまでもクルマ好きやポルシェファンの方々からの声は多く届きましたが、「ポルシェを知らない」方からの声は少なかったため新鮮です。とくに若い方から「ポルシェって電気自動車もあるんだ」や「テスラにもあるよね」という話もありました。
「タイカン」への入り口がテスラでも良いと思っています。BEV(バッテリーエレクトリックビークル)であってもテスラは自動運転に特化、日産リーフは一般普及させることを重要視したモデルとそれぞれ個性があるように、ポルシェ タイカンは「スポーツカー」という強い個性を持っています。この個性は実際に見て、乗っていただくことが重要ですから。

千葉 タイカンのメインターゲットにはどのような人を考えていますか?

前田 新しいモノに共感してくれる、関心を持っていただくことに年齢は関係ないと思います。あえて挙げるとするなら、建築や製造、デザインなどあらゆる業種で秀でた能力を発揮するスペシャリストと言われる方々には、タイカンの先進性や環境性能、パフォーマンスなどを共感いただけるのではないかと考えています。

千葉 電気自動車ならではの宣伝の難しさがありそうですね。

前田 今までどおりの広告宣伝活動だけではEVの良さは伝わりません。とくに日本では航続可能距離や充電設備などを気にするユーザーも多く、「それってどうなの?」と敬遠されがちです。ポップアップストアは、そういった不安や疑問に応えるための場所なのです。
2021年にはポルシェジャパンとして公共の急速充電施設を8カ所ほど用意する予定です、という情報や、急速充電設備の名称はテスラの「スーパーチャージャー」に対してポルシェは「ポルシェ ターボチャージャー」なんです、という話も実車を前にすると印象が違いますから。

千葉 先日のタイカンの取材で体験したのですが、ポルシェターボチャージャーといった急速充電で100%まで一気に充電できるんですね。一般的なBEVは急速充電だと80%までしか充電できないことを考えると、利便性において大きな利点ですね。グレードによっても異なりますがターボの航続可能距離が450km(WLTPモード)、1度の充電でこれだけ復活するのは長距離を走るときの安心にもつながります。

前田 ライフスタイルやドライブルートのどこで充電するか、マネジメントも含めて楽しむことができたら電気自動車って使い勝手もそこまで悪くないんです。「EVsmart」のように充電サポートアプリもあるので、利便性も高まってBEVを購入するハードルは下がっていると思います。

タイカンの加速は自然吸気エンジンのようで、重さを感じない
千葉 ポルシェカレラカップジャパン(PCCJ)に参戦し、PTE(ポルシェトラックエクスペリエンス)講師も務める小河選手に、ポルシェブランドやタイカンについてお聞きしたいのですが、まずはポルシェのスポーツカーを感じる部分はどんなところでしょうか。

小河 「こだわり」だと思います。さまざまメーカーが自社ブランドの方向性をトレンドに対応して変化させていますが、ポルシェは独自性やコンセプトを大きく変えることなく作り続けています。デザイン的にも356から始まってナロー、930以降もサイズは大きくなっても、見てすぐにポルシェだとわかるこだわりは他のメーカーにない芯の強さではないでしょうか。フェルディナンド・ポルシェ博士が最初に開発したクルマが電気自動車で、タイカンで原点回帰したことにも因果を感じます。

千葉 911はRRという独特の駆動方式ですが、レースのような極限状態ではどのようなところにポルシェらしさを感じますか?

小河 トラクションが良い、ブレーキングが良いという話は有名ですが、私の場合はセッティングの正解を導きやすい素性の良さだと思います。FRやMRではさまざまな方向からクルマを速くするためのセッティングのアプローチが行われますが、RRの場合は煮詰めていく方向性がシンプルです。ドライバーの能力を引き出すセッティングを見つけやすく、そのためドライビングを迷うことはありません。

千葉 どうしたらポルシェらしさを感じられますか?

小河 一般道で乗る人もサーキットで走る人も、レースをする人も、もっと独特のRRやポルシェそのものを楽しみながら走ってほしいです。私もそうでしたが、頭で「RRだからこう走らなくてはいけない」と考えずにもっと全身でクルマを感じて欲しいです。理詰めで攻めるのはそれを乗り越えてからでいいと思っています。

千葉 911以外のポルシェ、たとえばパナメーラやカイエンなどでも同じですか?

小河 やっぱり同じ雰囲気って出ますよね。さすがにカイエンは違うだろうと思っても、軽くて機敏な切り返しをしてくれます。現行型(E3)が出たときに富士スピードウェイのショートコースを「ひっくり返してやろう」という気持ちで攻めたときであっても、つねに安定している。SUVなのにこれはすごい、と驚かされました。
911はもちろんですがパナメーラであろうとカイエン、マカンであろうとポルシェのクルマはやっぱり「スポーツカー」なんです。スポーツカーとは何か、これをわかってて作ってるメーカーって少ないかもしれませんね。背が低くて幅が広くて2シーターというだけじゃダメ。話はもどりますが、「サーキットでの速さを引き出しやすい」という点もポルシェらしさのひとつだと思っています。

千葉 小河さんもタイカンに乗られたということですが、どうでしたか?

小河 もうちょっと電気自動車らしさがあるのかと想像していましたが、走り出した瞬間から「全然電気じゃないな」と感じました。ドライバーに伝わってくるフィーリングはガソリン仕様の、それも自然吸気エンジンと変わらないですし、そういった点は素晴らしいです。

千葉 そこにポルシェらしさは感じましたか?

小河 エンジンを搭載するポルシェ車とは構造が違いますからね。従来のポルシェは「ボディをいかに動かして速く走るか」ということを突き詰められていましたが、タイカンは低重心で、ボディを動かして速く走るわけではないんです。しかし、そうした乗り味の中でも「止まる・曲がる・走る」にフォーカスして、とくにブレーキやハンドルのタッチがすごく良い。従来のガソリン仕様のポルシェと同じフィーリングを感じられます。

千葉 ポルシェは、軽量で軽快な走りを楽めますが、タイカンはターボだと2.5トン近くあります。その重さをどう感じましたか?

小河 そこは電気モーターの良いところで、最大トルクで約1000Nm(タイカン ターボS)も出るじゃないですか。だから重さを感じない。水平対向6気筒ガソリンエンジンを搭載した911と同じようなスポーツ性を感じられるのは良いですね。ポルシェのDNAを受け継ぐスポーツ電気自動車がタイカンなんだと思います。

投資総額50億円にも及ぶエクスペリエンスセンターが2021年晩夏にオープン
千葉 前田さんに聞きたいのですが、ポルシェが公式にスポンサードしているワンメイクレースが増えたようですね。

前田 911GT3カップで争われる「ポルシェカレラカップジャパン」と、718ケイマン GT4クラブスポーツの「ポルシェスプリントチャレンジジャパン」、そして2019年から新しくバーチャル世界でのレース「eスポーツ」を3つめのワンメイクレースとして「ポルシェ Eスポーツ レーシングジャパン」を開催しています。2020年はシーズン2にあたり、秋から予選を開始して、明日の12月20日(取材日:12月19日)にファイナルを行う予定です。

千葉 小河選手、eスポーツの経験は?

小河 ありますが、なかなか難しい。私の場合、リアルに風とにおいを感じないとダメみたいです。でもカレラカップにスカイレーシングから出場していた大滝選手は、2019年に茨城国体のeスポーツ部門で山形県の代表として出場したドライバーなんです。意外とクロスオーバーしていますよ、リアルとバーチャルで。

千葉 今後のポップアップストアの予定は決まっていますか?

前田 2021年に向けて検討中です。ただ、現在は千葉県木更津市にポルシェエクスペリエンスセンター東京のオープン準備を進めています。911やパナメーラだけでなくカイエンやタイカンなども走らせることのできるクローズドコースです。なかにはオフロードコースもあります。

千葉 投資総額は50億円にも及んだそうですが。

前田 私たちポルシェにとって「体験してもらう」ことは大切なミッションで、これまでも大きな投資をしてきました。シルバーストン(イギリス/2008年)やロサンゼルス(アメリカ/2016年)をはじめとして、世界ですでに8カ所のエクスペリエンスセンターがオープンしています。世界でも大きなマーケットを持っている日本に設置することはまったく不思議な話ではありませんでした。2021年晩夏の開場を予定していますので、ぜひポルシェのスポーツ性を体感していただきたいです。

千葉 では最後に小河選手、カレラカップの今シーズンを振り返って、また来シーズンの目標を教えてください。

小河 コロナ渦という大変に難しい状況のなか、ほぼ全戦違うサーキットで開催していただきカレラカップ委員会の方々には感謝しています。カレラカップに帰ってきて2年目となる2020年は2回勝つことができましたが、接触やもったいない取りこぼしも多く、ランキング上位に昇ることはできませんでした。来シーズンは991型で走る最後のカップになると思うので、3度目のチャンピオンを狙いたいです。
また、F1においては2021年に日本人ドライバー角田選手の出場によって注目度も高まります。長年F1日本グランプリと併催されてきたカレラカップも、見てくれる人が増えると嬉しいです。
ポルシェとしては、2023年からル・マン24時間耐久レースを含むFIA世界耐久選手権(WEC)に戻ってくるというアナウンスもありました。ポルシェのカテゴリの先には世界が待ち受けているんだということを芯において、そのチャンスをつかみ取れるように準備したいです。

[ アルバム : ポルシェジャパンインタビュー はオリジナルサイトでご覧ください ]

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