ミニGTAフィーリングを目指した小改良
称賛を集めるアルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオが登場したのは、2016年。伝統のブランドへ、クラス最高水準の性能を宿すモデルを求めてきたファンにとっては、待ち望んだ恵みの雨のような存在だろう。
【画像】サーキットでの精度と熱意 アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ 競合車も 全120枚
後輪駆動のシャシーを適度にコンパクトなボディで包み、純粋で機敏な操縦性を実現。クアドリフォリオのフロントには、フェラーリ由来とされる2.9L V6ツインターボ・エンジンが搭載され、鮮烈なパワーでドライバーを魅了してきた。
そんなスポーツサルーンの登場から年月が過ぎ、アルファ・ロメオは小変更を実施した。シンプルに本来の特性を磨くことで、より優れたモデルへアップデートされている。
通常のジュリアも、2023年にフェイスリフトを受けている。ヘッドライトは精悍さを強め、中央の逆三角形とバンパー両サイドで構成されるトリロボ・グリルを獲得。モニター式メーターパネルが採用され、インフォテインメント・システムも一新された。
加えてクアドリフォリオの場合、V6ツインターボが再チューニングされ、最高出力は521psへ上昇。サスペンションやドライブトレインにも改良が施された。同社の技術者を率いるドメニコ・バグニャスコ氏は、「ミニGTAフィーリング」を目指したという。
四つ葉のクローバーのロゴ、クアドリフォリオが誕生してから100周年を祝う特別仕様、「100アニバーサリオ」も用意された。世界100台の限定で、例のロゴはゴールドで縁取られている。英国への割り当て分は、完売したらしい。
機械式LSDを採用 強みはそのまま
シャシーへ受けた改良を見ていくと、内容は広範囲に及ぶ。従来のダンパーの減衰力特性と、トルクベクタリング機能付きのリミテッドスリップ・デフ「eデフ」の働きが起因する、サーキットでの不安定感が改善されている。
結果として、高負荷時にはオーバーヒート状態になることもあった、電子制御のeデフは任務終了。新たに、加速時は最大35%、減速時は最大50%のロック率が与えられた、機械式リミテッドスリップ・デフが採用された。
「挙動をより予想しやすく、反応が素早く、従来的な操縦フィーリングを求めました。そこで前後のアンチロールバーを強化し、電子制御タンパーも高負荷時の特性を中心にチューニングを施しています」。と、バグニャスコが説明する。
「操舵に対しどれだけリアが追従するかという、リアアクスルのフィーリングも改めています。ESC(スタビリティ・コントロール)がオフの状態での限界領域での操縦性も、安定志向に振りました」
もちろん、座面が低いドライビングポジションは従来どおり。バケットシートはしっかり身体を保持してくれる。操縦系のレイアウトは適切で、車載機能のインターフェイスは一目瞭然。適度に引き締まったサイズ感など、ストロングポイントは変わらない。
想像ほどシリアスさを強めたわけではない
フランスの公道を走り出すと、「ミニGTA」という言葉からイメージするほど、シリアスで緊張感が漂うわけではないことに感心する。穏やかなドライブモードにある限り、ダンパーはしなやかに衝撃を吸収し、乗り心地は落ち着いている。
ステアリングホイールは軽くダイレクト。V6エンジンと8速オートマティックは、日常的な交通へ見事に対応し、滑らかに市街地を走れる。稀に、低速域でギクシャクする場面があるけれど。
510psから11psほど増強された馬力は、普段使いでは実感できない。2500rpmで発揮される、61.1kg-mという最大トルクへ変更はない。高回転域まで意欲的に吹け上がる素振りが、僅かに強められた程度。
中回転域でのトルクが太く、レッドラインまで鋭く回る、素晴らしい特長はそのまま。エグゾーストノートをもう少し上品にし、エンジンの燃焼音が聞こえるようになれば、一層好ましい体験になるだろう。
引き締められた足まわりによって、カーブでのボディロールは確かに小さくなっている。だが、日常的な速度域では大きく印象を改めたわけではないようだ。
ひとしきり一般道で堪能して、パリの南へ位置するサーキット、オートドロム・ドゥ・リナモンレリへ場所を移す。路面は平滑とはいえず、カント角も強く、新たなシャシーチューニングを味わうにはぴったりな場所といえる。
サーキットでの精度や熱意を獲得
コースインすると、すぐにシャシーが能力を向上させたことへ気付く。高い速度域で路面の隆起部分などを通過しても、従来以上に路面を捉えて放さない。高速コーナーでのステアリングの正確性は高まり、情報量も増えているようだ。
タイトなヘアピンからの立ち上がりでは、明確に安定性を増している。トラクションが増大したおかげだろう。
従来のジュリア・クアドリフォリオでコーナーへ突っ込むと、電子制御リミテッドスリップ・デフが外側のリアタイヤへトルクを割り振り、豪快に脱出してみせた。しかし過多なテールスライドへ陥り、進行方向へのトラクションが失われる場面もあった。
一方、機械式LSDになったアップデート後では、全体的にマイルドさを強めている。それでいて意欲的にラインを狙え、一層パワーをかけやすくなった印象。安定性が高まったことで、より不安感なく振り回せる。
ストレートめがけた脱出加速も、ひときわ鋭くなっている。ドライバーが望めば、派手なドリフトへ持ち込むことも許容する。
登場から8年目を迎えるジュリア・クアドリフォリオだが、その魅力は当初と変わらない。現在、新車で購入可能な高性能サルーンのなかで、最も自然で落ち着きがあり、直感的に操れるモデルだといっていい。
さらに今回の改良を経て、従来にはなかったサーキットでの精度や熱意を獲得したようだ。なおジュリアは、数年以内にバッテリーEVへ置き換えられる予定にある。
アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ 100アニバーサリオ(欧州仕様)のスペック
英国価格:7万8195ポンド(約1368万円)
全長:4643mm
全幅:1860mm
全高:1436mm
最高速度:307km/h
0-100km/h加速:3.9秒
燃費:9.9km/L
CO2排出量:228g/km
乾燥重量:1660kg
パワートレイン:V型6気筒2891ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:521ps/6500rpm
最大トルク:61.1kg-m/2500rpm
ギアボックス:8速オートマティック/後輪駆動
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