FRながら46:54の驚異的な前後重量配分
フェラーリ612 スカリエッティのフロントへ積まれた、V型12気筒エンジンの排気量は、456GTのティーポF116ユニットから275cc増しの5748cc。性能アップが図られ、ティーポF133へ改名され、547ps/7200rpmと59.8kg-m/5250rpmを発揮した。
【画像】ザ・グランドツアラー コンチネンタルGT 612 スカリエッティ DB9 現行モデルも 全146枚
エンジンの位置はフロントアクスルより後方で、ホイールベースは456GTより350mmも長い。車内空間が広げられただけでなく、高速走行時の安定性やトラクションでも有利に働いた。
シャシーはアルミニウム製のスペースフレーム。ボディサイズは拡大していたが、車重は456GTより軽量な1840kgに抑えられていた。
初代コンチネンタルGTより500kg以上も軽く、0-97km/h加速は4.4秒。最高速度は321km/hが主張された。大きなグランドツアラーだとしても、フェラーリとして動力性能が期待を裏切ることはなかった。
トランスミッションは、従来的な6速マニュアルの他に、F1 Aと呼ばれる電動油圧式の6速シーケンシャル・セミオートマティックも選択できた。リアアクスル側に配置されるトランスアクスル構造で、FRながら46:54という驚異的な前後重量配分を叶えた。
21世紀のフェラーリとして、電子技術も充実していた。CSTと呼ばれるスタビリティ・コントロールと、同社初となるアクティブ・ダンピング機能を実装。メモリー機能付きパワーシートにデュアルゾーン・エアコン、ナビなど、快適装備にも不足はなかった。
アグレッシブさを大幅に強めたスタイリング
アストン マーティンがDB9を発表したのは、2003年9月。その頃の最高経営責任者、ウルリッヒ・ベズ氏は、「疑いようなく、弊社にとって過去最も重要なモデルです」。と、その価値を自ら主張した。
1994年に発売されたDB7の後継モデルに相当し、グレートブリテン島中部のゲイドンに新設された拠点で設計された、最初のアストン マーティンだった。同社は、1994年にフォードのプレミア・オートモーティブ・グループ傘下へ組み入れられていた。
開発では生産効率が強く意識され、製造技術も飛躍的に進歩していた。DB7を1台生産するのに350~400時間が必要だったのに対し、DB9では200時間に短縮されていた。
抑揚のあるスタイリングは、先代からアグレッシブさを大幅に強めていた。チーフデザイナーを務めたヘンリック・フィスカー氏は、「1つのアルミニウム・ブロックから削り出されたような見た目を求めました」。と述べている。
ルーフは滑らかに処理され、ドアは12度斜め上方向に開く「スワンウィング」で乗降性を確保。ドアハンドルは、表面に一体化されていた。DB7よりホイールベースは149mm長く、フロントトレッドは52mmワイド。シリアスな容姿に仕上がっていた。
基礎骨格は、アストン マーティンが新たに手掛けたVH (垂直・水平)プラットフォーム。押出成型されたアルミニウム材で構成され、ボディ剛性はDB7比で2倍に高められつつ、車重は25%も軽かった。
不満が頭から消える鮮明な一体感
パワートレインは、ヴァンキッシュに搭載されていた5935cc自然吸気V型12気筒のアップデート版。456ps/6000rpmと57.9kg-m/5000rpmを発揮し、パドル操作可能なZF社製6速ATか、グラツィアーノ社製の6速MTが受け止めた。
サスペンションは、612 スカリエッティと同じく前後ともダブルウイッシュボーン式。コイルスプリングが支えた。
今回、ブラックのDB9をお持ちいただいたのは、リズ・コンスタンス氏。コンチネンタルGTや612 スカリエッティに対峙する存在感へ見惚れつつ、長いドアを開くと少し期待を裏切られる。
ステアリングホイールは、特に個性的とはいえない3スポーク。ブラックのレザーで内装は包まれているものの、大きくカーブを描くセンターコンソールのパネルは、フェイクのアルミ。ジェームズ・ボンドの相棒というより、フォード・モンデオに印象は近い。
+2のリアシートも、今回の3台では最小。恐らく10歳程度の子どもでも、長時間は座りたがらないだろう。荷室は170Lしかない。
とはいえ、6.0L V12エンジンを始動し、ドライブボタンを押し、アクセルペダルを傾ければ、そんな不満は些細なこととして頭から消える。回転数を高める前から、鮮明な一体感に心が奪われる。
走行距離は7万5000km以上へ伸びているが、ボディシェルは新車時と変わらず強固。ステアリングホイールにもブレーキにも、カシっとしたタッチがある。
この続きは後編にて。
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