■イタリアとアメリカの合作スーパーカーとは?
1960年代も終盤を迎えた頃、イタリアのデ・トマソとアメリカの巨人、フォードとの間でひとつの魅力的な新型車プロジェクトが立ち上がる。
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それはデ・トマソの手によって生み出されたスーパースポーツを、フォードのリンカーン・マーキュリー部門のディーラー・ネットワークを通じて、全米で販売するというものだった。
当時フォードのトップにあったリー・アイアコッカが想定した年間販売台数は、デビュー年で1000台。
それを最終的には5000台規模にまで拡大しようというのだから、デ・トマソにとってそれがいかに魅力的なプロジェクトであったのかは想像に難くない。
後に「パンテーラ」とネーミングされることになるその新型スーパースポーツには、ティーポ874の開発コードが掲げられ、その開発は1969年から始まった。
チーフエンジニアは前後して、ランボルギーニからデ・トマソへと移籍してきたジャン・パオロ・ダラーラ。そしてデザインはギアに委ねられ、チーフスタイリストのトム・チャーダがその重責を担うことになった。
ティーポ874、すなわちパンテーラが開発されるまでのデ・トマソ車は、いずれもファーストモデルである「ヴァレルンガ」から変わらず、バックボーンフレーム構造を持つものだったが、ダラーラは将来的なパンテーラの生産規模を考慮して、それをフレームビルトインタイプのモノコック構造へと一新する。
リアミッドに搭載されるエンジンは、フォード製の351立方インチ(5763cc)V型8気筒OHVのクリーブランド・ユニット(生産工場の名前から、こう呼ばれることも多い)であった。
潤滑方式はオリジナルのクリーブランド・ユニットがそうであるようにウエットサンプで、燃料供給はホーリー製の4バレル・キャブレターによる。最高出力は当時主流のグロス表示で300ps前後と推察するのがもっとも一般的な見方になるだろうか。
■オリジナルコンディションの「パンテーラ」の評価は?
今回RMサザビーズのエルクハート・コレクションに出品されたパンテーラは、1972年式の「L」であった。Lとはラグジュアリーの意であり、これはおもにアメリカ市場へと輸出されるモデルに設定されたグレード名である。
●1972 デ・トマソ「パンテーラL」
本来ならばアメリカ市場向けのパンテーラには、当時の安全基準適合のため、フロントには巨大なラバー製1ピースバンパーが装着されたはずなのだが、このモデルには左右各々にコンパクトなクロム製のバンパーが装着されているのみだ。
RMサザビーズはこれを、「プレL」モデルの特徴と説明するが、いずれにしてもこちらの方が、チャーダによるオリジナルデザインを崩さないという意味では好感が持てるのは確かだろう。
ほかにはラジエーターファンとパフォーマンスブレーキブースターがアップグレード済みだというこのパンテーラL、ボディカラーやインテリアもオリジナルのコンディションをそのまま保っている、まさにミント・コンディションと呼ぶに相応しい1台だ。
オリジナル・パーツやドキュメントも完備しているので、コレクターズアイテムとしてはこれ以上のモデルはないだろう。
オークションでの入札は、その事実を明確に物語るものだった。
7万ドルから9万ドルというエスティメートに対して、最終的な落札価格は10万6400ドル(邦貨換算約1100万円)であったのだ。
年間5000台という販売を計画しつつも、1974年には石油危機の影響などによって最盛期の1割程度となる200台にまで生産が落ち込み、結局フォードはパンテーラの販売計画を放棄してしまったことと、現在、生き残っている数少ないパンテーラも、さまざまなドレスアップやチューニングのベースとなり、オリジナルのモデルを探すことが難しくなってきていることなども、この落札価格に影響を与えた大きな理由だろう。
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なかなかの存在感で、ポルシェよりは注目を浴びていた。