時計のように精密なエンジン搭載。パフォーマンスは1.6リッター車と同等
S800Mは、初代ホンダSシリーズの最終完成形。発表は1968年4月だった。S800Mは、アメリカをはじめ、年々厳しさを増していた世界各地の安全基準を満たした上で、走りの性能を高めたモデルである。
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スタイリングの特徴は、ボディ前後に装着された角形の大型リフレクターと、3分割式の大型リアランプ。室内はインパネがパッド内蔵のソフトタイプになり、ドアハンドルは突起を抑えたインナー形状。ルームミラーはプラスチック製の衝撃脱落式になった。
機能面は、ラジアルタイヤとフロントディスクブレーキが優位性を発揮する。タイヤサイズは145SR13。ラジアルタイヤの標準装備でハンドリングがシャープになったため、ステアリングギア比は従来の15.1から17.4に変更された。ディスクブレーキは、フローティングキャリパー式。油圧ラインは信頼性の高い前後2系統に変更され、高速域での制動能力が大幅に向上した。
791ccの排気量から70ps/8000rpm、6.7kgm/6000rpmをマークする直列4気筒DOHCエンジンは、基本的に従来のS800と同じ。ただしCVキャブレターは加速ポンプが追加され、レスポンスはシャープに。排気系にはサブマフラーが装着され、車外騒音は静かになった。
フロントがダブルウィッシュボーン式、リアが4リンク式の足回りも小変更された。フロントはトーションバースプリングの径が細くなり、ジオメトリーを変更。直進性重視のセッティングになった。リアはコイルスプリングのストローク量が増大。路面追従性と乗り心地が改善された。
パフォーマンスは相変わらず鮮烈だった。S800Mの最高速度は160km/hに達し、0→400m加速は16.9秒で駆け抜けた。エンジンは800ccクラスだが、性能は当時の1.6リッター級スポーツと同等。60年代は最高速度160km/h(=100mph)以上が高性能車と考えられていた。いわゆる100マイルカーである。S800Mは、その条件をクリアし、実力派スポーツとしての地位を固めた。
ラインアップはフルオープンのコンバーチブルとリアゲート付きクーペの2種類。クーペは輸出専用で英国をはじめ、欧州市場で人気が高かった。S800Mの正確な生産台数は不明だが、S800シリーズ(生産はコンバーチブル3640台、クーペ7745台)の約50%は海外に輸出されたという。
写真のモデルは1969年のS800Mクーペ。英国輸出仕様で、最近日本に里帰りしたフルレストア車である。内外装ともコンディションは素晴らしい。キズとサビの補修が丁寧に行われたボディは新車時と同様の状態をキープ。足元は往年のレーシングモデルが装着していたRSC製アルミ(リプロ品)と175/60R13ラジアルの組み合わせである。
内装はシート生地、カーペットともに張り替え済み。インパネにキズや歪みはなく。すべてのメーターとスイッチは正常に作動した。速度計はマイル表示。ウェザーストリップなどのゴム類は新品。ステアリングホイールはオリジナルの3本スポークだった。
機関系は絶好調だ。エンジン、ミッション、デフはオーバーホールされ、ダンパーなど足回り関係もリフレッシュ済み。エンジンは右足の踏み込みに即応するシャープなレスポンスを見せる。5000rpmを超えると一段とパワーが盛り上がるレーシーな性格が楽しい。ショートストローク設定の4速MTを操作するドライビングは心が踊る。試乗を通じ「現在でも一級のライトウエイトスポーツだ」と感じた。
S800Mクーペは、見ても乗ってもドライバーを魅了する。日本が世界に誇る名車である。
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