■ なぜ各社がHVをラインナップするようになったのか
2021年現在、ほとんどの自動車メーカーがハイブリッド車をラインナップしています。
そんなハイブリッド車(HV)のカタログ燃費を見るとトヨタ車が優勢であることがわかります。
なぜ、トヨタのHVは燃費性能に優れているのでしょうか。
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2020年に新車販売された乗用車のうち、およそ3台に1台がHVとなっています。
HVは、基本的に環境性能向上を目的として開発・採用された技術であり、環境対策は世界的な課題であることから、現在ではほとんどの自動車メーカーがHVをラインナップするようになりました。
一般ユーザーからすれば、HV最大のメリットはなんといっても燃費の良さでしょう。
しかし、2021年9月現在、新車で販売されているHVのカタログ燃費(WLTCモード)が優れた順に見ると、「ヤリス(36.0km/L)」、「アクア(35.8km/L)」、「プリウス(32.1km/L)」とトヨタ勢が上位を占めます(それぞれもっともカタログ燃費の優れたグレードで比較)。
4位以下も、「ヤリスクロス(30.8km/L)」、「カローラスポーツ(30.0km/L)」とトヨタ勢が続き、6位と7位にやっと日産「ノート(29.5km/L)」とホンダ「フィット(29.4km/L)」がランクインします。
あくまでカタログ燃費ではありますが、これほど顕著な差が生じるのにはどんな理由があるのでしょうか。
技術的な話に入る前に、トヨタのHV技術がもっとも成熟しているものであるということは、お伝えしておかなければなりません。
そもそも世界で初めて量産車としてHVを販売したのはトヨタであり、1997年のことでした。そのとき発売されたのは、「プリウス」です。
その2年後の1999年に、ホンダが「インサイト」を発売して後に続きますが、現在のように各社がHVをラインナップするようになったのは、実はごく最近のことです。
なぜ、ここ最近になって各社がHVを急激に推進することになったかといえば、前述したように環境規制への対応という世界的な課題があります。
日欧米の主要市場では、それぞれ厳しい環境規制がおこなわれており、おおざっぱにいえば、一定以上の燃費性能を持っていないとそもそもクルマを販売することすらできないという仕組みとなっています。
そしてその環境規制は年を追うごとに厳しくなっており、自動車メーカーでは常に次の規制対応を意識した新車開発が求められています。
既存のガソリンエンジンも新しい技術の導入で燃費性能は年々改善していましたが、そのうち規制対応が厳しくなることは明らかです。
ただ、トヨタやホンダ以外の自動車メーカーは、既存のガソリンエンジンの改善で対応しようとしていたり、そもそも新型パワートレインを開発する余裕がなかったりなどの理由で、HVには後ろ向きだったといわれています。
基本的に、技術というのは積み重ねの連続であり、画期的なブレークスルーというのはそうそう起こらないものです。
つまり、HVにおいて一日の長があるトヨタが、燃費性能でリードするというは当然のことといえるのです。
■トヨタ・ホンダ・日産、それぞれのHVの特徴は
では、具体的にトヨタのHVは何が優れているのでしょうか。
本来「ハイブリッド」という言葉は、ふたつのもの掛け合わせた「混合」という意味を持ちます。
HVに関していえば、ガソリンを燃料とする「エンジン」と電気によって動く「モーター」を掛け合わせているという意味になります。
トヨタのHVも、ホンダや日産、またそれら以外の各社のHVも、エンジンとモーターによって動いているという意味では、どれも等しくHVであるといえます。
しかし、トヨタのHVシステム(THS-II)は、おおざっぱにいえば「ガソリンエンジン車をモーターでアシストしている」という仕組みであるのに対し、ホンダ(e:HEV)や日産(e-POWER)は、「電気自動車(EV)で使う電気を、ガソリンエンジンで発電している」という仕組みとなっています。
より正確にいえば、ホンダのe:HEVは、高速走行時はガソリンエンジンで走行するため、THS-llやe-POWERの中間に位置しているということもできます。
それぞれにメリットやデメリットがありますが、カタログ燃費に関していえば、トヨタのTHS-llが優れているようです。
前述の例でいえば、THS-llはあくまでガソリンエンジン車が基本となっているため、ガソリンエンジンで得られた力を使って走行する際のエネルギー効率は、普通のガソリンエンジン車とほとんど変わらず、モーターでアシストされる力の恩恵を最大限受けることができます。
つまり、「エンジン」→「走行(モーターでアシスト)」というエネルギーの流れとなります。
しかし、日産のe-Powerのようにガソリンエンジンを発電機として使用する仕組みの場合、エネルギーの流れは、「エンジン」→「モーター」→「走行」となり、セクションが多い分、エネルギーのロスも大きくなり、結果としてカタログ燃費が伸びないという傾向が生まれます。
以上の説明は極めて簡略化したものであり、実際にはより複雑な仕組みとなっていますが、同じHVでもそもそもの考え方や仕組みが異なるのです。
■カタログ燃費重視の時代は終わった?
では、カタログ燃費をより良いものにするべく、他社もトヨタ式のHVを導入すれば良いのではと考えるかもしれません。
実際、マツダはトヨタと協業し、トヨタのハイブリッドシステムを搭載したモデルを2022年までに海外の主要市場で発売すると発表しているように、そのような選択肢もあるかもしれません。
ただ、ホンダや日産がトヨタ式のHVを導入しなかった背景には、技術開発上の問題や、ビジネス上の戦略などはもちろんあるものの、そもそもカタログ燃費というもの自体が遅かれ早かれ意味をなさなくなるという判断も合ったのではないかと筆者は考えます。
EVや燃料電池車(FCV)が将来的にシェアを高めていくと、かつてのように0.1km/Lレベルで過剰ともいえる燃費戦争をしていたことが無意味と思えるほど、ガソリンを消費しなくなるからです。
そもそもガソリンを消費しないのであれば、燃費という概念すら必要なくなるからです(あらたに「電費」という概念が重要視されるようになるのかもしれませんが)。
現時点では、実際にEVやFCVを購入するユーザーはまだまだ少数派ですが、燃費(=ガソリンを消費すること)に抵抗がある人には、そもそもガソリンを消費しないクルマを選ぶという選択肢もできつつあるのは事実です。
そうなると、HVに求められるものは「とにかく燃費がいいこと」ではなく、純粋にクルマとしての魅力、例えばデザインや使い勝手、走りといった部分が重要となります。
e-POWERを初めて搭載した日産の先代「ノート」が、2017年から2019年にかけて、3年連続でコンパクトカー販売台数1位に輝いたのには、カタログ燃費の良さだけでなく、EVのようなスムーズな走りや「ワンペダル」の快適性などといった、カタログスペックからは測れない部分が評価されたからだといわれています。
また、高速走行に弱いというEVの特性を打ち消すべく、高速走行時はガソリンエンジン車とし走行するという仕組みを備えたホンダのe:HEVは、ガソリンエンジンのメリットとモーターのメリットを最大限活用したシステムとして、まだまだ可能性を秘めています。
このように、ひとくちにHVといっても、その中身は各社でさまざまです。
カタログ燃費に関しては、トヨタのTHS-llが現在では優位なようですが、カタログ燃費は参考にはなっても、クルマの評価を決定づけるものではありません。
また、走行の仕方などの諸条件によって、実際の燃費は大きく変わります。
各社のハイブリッドシステムの特徴をよく理解し、自身に適したものを選ぶことが重要といえます。
※ ※ ※
各社のハイブリッドシステムはさまざまですが、いずれにせよ、HVやPHEV、EVやFCVといった電動車は、今後より大きなトレンドになることは間違いありません。
将来の技術は、既存の技術の延長線上に成り立っていることは間違いなく、いま現在販売されている各社のHVが、今後どのように進化していくのか、ぜひ注目してみてください。
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みんなのコメント
>そもそも新型パワートレインを開発する余裕がなかったりなどの理由で、HVには後ろ向きだったといわれています。
↑
マツダのことですね、わかります
夏場のエアコン付けっ放しもあまり影響ないし。ただし、冬場はガクッと落ちるけど。