「イタリア車」と聞いて、あなたは何を連想するだろう。美しいデザインや官能的なエンジンだろうか。しかし国産車にも、決してマネではなく、いい意味でイタリア的なクルマは多数ある! それらを紹介するぞ!
※本稿は2022年1月のものです
文/清水草一、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年2月26日号
すべての国産車はイタ車に通ず!? 感嘆を禁じ得ない和製イタリア車列伝
■国産車から漂う『イタリアの風』を感じろ!!
初代ピアッツァの元になった「アッソ・デ・フィオリ」の脇に立つジウジアーロ氏
上の写真は、いすゞの初代ピアッツァのデザインベースとなった「アッソ・デ・フィオリ(クラブのエースの意)」。そしてその脇に立っているお方こそ、誰あろう自動車デザイン界の大巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ氏(イタリア人)その人である!
和製イタリア車というと、初代ピアッツァのように、イタリア人がデザインした国産車が真っ先に思い浮かぶが、広義に捉えれば、「イタリアっぽい国産車」は、すべて和製イタリア車と言っていい。少なくとも今回の企画では、そう考える。
そしてイタリア車好きは、それが例えほんの小さな要素であっても、「ここがイタリアっぽいね!」と気づくと、それはそれはうれしくなるのである。
イタリア的要素は、デザインに限らない。官能的なエンジンやシャープなハンドリング、はたまた耐久性の低さなど多岐にわたる。さあ、和製イタリア車の世界へ足を踏み入れてみよう!
■Part1 美に殉ずる部門
マツダ ロードスター(現行)。清楚でありながら妖艶。イタリア的な美が和の境地を得て昇華したような、世界的な傑作(2015年)
実用性を多少犠牲にしても、イタリア車のような美しいスタリングを実現しようとした国産名車のラインナップは、マツダ車だらけでビックリする!
その代表が現行ロードスターだ。ロードスターは2シーターのオープンスポーツ。もともとあまり実用性を必要としないが、それにしてもこの健康的なセクシーさはどうだ! 全長4m弱のコンパクトなサイズで、ここまで色気たっぷりのデザインを実現したマツダのデザイン力に感服するしかない。
フィアットは、ロードスターをベースに「アバルト124スパイダー」を発売したが、本家のイタリア車よりもロードスターのほうがセクシーで、本国でも「マツダのほうがイタリア車的だ」と評された。まさに和製イタリア車の頂点! いや、和が本家に勝利したのだ!
現行モデルではマツダ3の美しさも際立っている。マツダの美しいクルマ作りは、一種の伝統。それが百花繚乱したのが、バブル期のマツダ5チャンネル体制下だ。
当時のマツダ車を見ると、どれもこれも美に殉じたモデルばかりだ。なかでも際立っていたのは、初代ロードスター(輸出名MX-5)のお姉さんに当たるスポーツクーペ、MX-6だろう。
FFであったことや、V6エンジンのパフォーマンスが平凡だったことで、日本では売れなかったが、その美しいクーペボディは、海外ではかなりの人気を獲得した。
同時期の傑作としては、ユーノス500も外すことはできない。これまた売れなかったが、ボディラインは隅々まで流麗。現在の「魂動デザイン」に通じるものを感じる。
さらにさかのぼると、美の系譜は、マツダ最初の乗用車・R360クーペに行き着く。1960年に誕生したこの軽自動車は、まるで未来からやってきた小型宇宙船のようだ! フロント部のデザインは、マツダのオート三輪がモチーフだが、それを見事な流線形へと昇華させている。涙が出ます。
マツダ車以外で、美に殉じたクルマの代表は、スバルのR1/R2だろう。
「てんとう虫」と呼ばれて愛されたスバル360をモチーフにした、この美しい軽自動車たちは、居住性を犠牲にしていたため、市場にはまったく受け入れられず、惨敗を喫した。
しかし、そのデザインの美しさは、専門家をも唸らせた。辛口で鳴らした故・前澤義雄氏(元日産チーフデザイナー)も、手放しで絶賛したほどである。
当時スバルが取り入れていたデザインアイコン「スプレッド・ウィングス・グリル」にも、アルファロメオの盾型グリルに通じるものがあった。
スバル R1/R2。スバル360をモチーフに誕生したが、デザインがよすぎて売れなかった(写真はR1:2005年)
しかしこのグリルも市場では大不評で、わずか2年で平凡なグリルに置き換えられてしまった。無念。販売面での不振と併せて、文字どおり、美は玉砕したのであった。そんなはかない運命も、どこかイタリア的だ。
そのほか忘れられない美ボディ国産車と言えば、2代目スカイラインクーペがある。ノーズの低さと歩行者保護を両立させるために、新技術を導入するなど、美のためにコストを惜しまなかった。その豊潤な曲線美は、イタリアンビューティを彷彿とさせる。
イタリア車の美のモチーフは、基本的に女体にある。ミロのビーナス的な、女性的な曲線美があれば、それはすなわち「イタリア的」と解釈できる。イタリア車も国産車も、女性的な美を突き詰めれば、ゴールは同じなのだ!
●美に殉ずるジウジアーロ部門
いすゞ 117クーペ。カロッツェリア・ギア時代のジウジアーロがデザインを担当。その美しいボディは数々の賞に輝いた(1968年)
世界を代表する自動車デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ。氏はイタリア人であり、イタリアン・カロッツェリアの全盛期を創ったひとりだ。
氏がデザインした国産車の多くは、現在も名車として歴史に名を刻んでいる。ジウジアーロ・デザインの国産車こそ、和製イタリア車のご本尊様と言ってよかろう!
いすゞ ピアッツァ。1979年、「アッソ・デ・フィオリ」の名で出展。117クーペの後継モデル「ピアッツァ」となった(1981年)
そのなかからベスト3を挙げると、いすゞ117クーペ、いすゞピアッツァ(初代)、そしてスバルアルシオーネSVXになるだろうか。どれもジウジアーロ氏のデザインを忠実に製品化しており、いすゞとスバルの努力が大いに光っている。名車はひとりでは作れないのだ。
■Part2 現代アート部門
日産 ジューク(初代)。いまさらだがヘッドライトは下の丸形のほうなので、念のため(2010年)
イタリアは芸術の国。フィアット・ムルティプラやランボルギーニ・カウンタックをはじめとして、「なんだこれは!」と叫びたくなる、芸術的で難解なデザインのクルマは数多い。
一方で国産車にも、現代アート的なクルマはしっかり存在する。たとえば初代ジューク。ムルティプラ同様、ヘッドライトが上下4個あるように見える。国内ではその「なんだこれは!」なデザインが嫌われて不振だったが、海外では絶賛され、多くのフォロワーを生んだ。
三菱のダイナミックシールドも、その流れだ。eKクロスのインパクトある顔つきは、まさに現代アートそのもの。違和感の先に、無限のフロンティアが広がっている!
ヤリスの毒虫顔も、違和感タップリで現代アート的だ。毒虫が世界で絶好調なのだから、挑戦の勝利である。
超小型車のiQやツインも、ある意味「なんだこれは!」な芸術だ。その超寸詰まりフォルムは、スマートとは別種のチョロQ系。ここまで全長を短くすればアッパレだ。
そして日本は、カウンタックのように、ドアが上に開くクルマもちゃんと作っている。しかもサイズがメッチャ小さい! セラは登場時、世界最小のバタフライドア車だったが、AZ-1のガウルィングがそれを塗り替えた! こんなクルマ、日本以外、冗談でも作らないっしょ?
マツダ AZ-1。まさか本当にこんなクルマを作るとは……。マツダ、凄すぎる(1992年)
トヨタ セラ。当時スーパーカーのアイコンだった上開きドアを、スターレットベースで実現。凄ぇゼ(1990年)
●現代アート機能美部門(初代パンダ系)
スズキ ワゴンR(初代)。軽自動車最大の弱点だった室内の狭さを、全高を高くすることで解決した革命的モデル。初代パンダの合理性を一歩先に進めた(1993年)
自動車デザイン界の巨匠・ジウジアーロ氏の傑作の系譜に、「折り紙細工デザイン」がある。初代ゴルフ(1974年)や、初代パンダ(1980年)がその代表。どちらも極限の合理性や機能性を追求した作品だった。
が、それから遅れること約20年。日本で、それを超える機能美デザインが誕生した。初代ワゴンRである。居住空間の上下方向への拡大を突き詰めたこのクルマは、軽トールワゴン隆盛時代を切り開いた、ジウジアーロもビックリの大傑作だ。
そのほか、初代パンダ系の機能美は、初代デミオ、2代目キューブ、ホンダe、あるいはイグニスなどにしっかり生きている。どれもフォルムはシンプルな箱型だが、よく見ればただの箱ではなく、移動する機械であることを主張している。かつ、小さいサイズでできるだけ広い居住空間を取ろうとしているのだ!
これらの傑作たちは、機能を突き詰めた先に美と実用性の両立があると教えてくれる。ジウジアーロ先生ありがとう。
●現代アート失敗(?)部門
スズキ X-90。クロカン4WDとオープン2シータースポーツを合体させたが、この組み合わせは「凶」と出てしまった(1995年)
現代アート的な驚きのあるデザインなら、なんでもいいというわけではない。挑戦には失敗が付き物だ。
スズキのX-90は、クロカン4WDとオープン2シータースポーツカーを融合した、野心的なクロスオーバーSUVだったが、あまりにも野心的すぎた。ヴェロッサは日本車の殻を破り、ダイレクトにアルファロメオ的な造形に挑戦したが、見事に散った。
そしてミラージュディンゴのフロントフェイスは、見た瞬間「えっ!!」とビックリさせる違和感にあふれている。当時あまりにも違和感が強すぎて、克服できる人が少なすぎた。いま見るとそんなに悪くないのですが!
■Part3 快楽エンジン部門
トヨタ LFA。2010年12月から2年間、500台限定で生産。搭載する4.8L V10はNAながら560psを発生していた
イタリアの快楽エンジンといえば、かつてのフェラーリやアルファロメオが代表的。つまり自然吸気の高回転高出力エンジンである。
日本も、レーシング技術を応用した高回転高出力エンジンに関しては、イタリアに引けを取らない。その頂点に君臨するのは、トヨタ(レクサス)がプライドをかけて開発したLFAの4.8L、V10自然吸気エンジンだと断言したい!
最高出力は560馬力。それを8700rpmで絞り出していたのだから、まるでフェラーリだ。しかもサウンドは天使の咆哮!
車内に響く完全調律された超絶快音は、フェラーリの快音に魂を奪われてきた者をして、「負けた……」と思わせた。実は国産車は、快楽エンジンの部門で、密かにイタリアを超えていたのだ!
マツダのロータリーエンジンも負けてはいない。フィーリングの快楽性に関しては、ターボ付きのRX-7より、自然吸気のRX-8のレネシスロータリーがスバラシイ。甲高く響く「ピイィィィィィ~~~ン」という高周波サウンドは、ロータリーならではのものだった。
マツダ RX-8。自然吸気に戻したことで、サウンドは高く澄んだものになった!
高回転高出力エンジンといえばホンダ。さまざまな快楽エンジンを開発してきた。
直4では、2代目インテグラタイプRがベストだ。ノーマルでも充分気持ちよかったが、N1レース仕様のサウンドを聞いてビックリ仰天。完全に4気筒のフェラーリだった! 高回転高出力を極めれば、回答は同じものになるのだと納得した。
1990年代のホンダ直5も、すばらしい快楽エンジンだった。アスコット/ラファーガの縦置き直列5気筒はSOHCながら、どこまでも果てしなく滑らかに吹け上がった。
ホンダV6にも、快楽系の傑作は存在した。個人的には初代NSXより、最終レジェンドの3.5L自然吸気V6を推す。
ハイブリッドによりモーターのアシストを受けるが、エンジン単体のフィールがとんでもなくよかった。2代目NSXのV6ツインターボより、快楽では自然吸気の勝ちだった!
そして現行モデルからは、レクサスLCの5L、V8を選出したい。コイツはまさにLFA譲りの快音と言っていい! スゲエッ!
レクサスLC500(トヨタV8)。いまどき超ゼイタクな自然吸気V8エンジンを搭載。そのサウンドはLFA譲りの絶品だ。オープンで楽しめば天上界!
スカイライン400RのV6ターボもなかなかイイ。どこかマセラティ・ビトルボを彷彿とさせるドッカンターボパワーがさく裂する。
ターボとして唯一、快楽エンジンのラインナップに入れさせていただきました。これが積まれる新型フェアレディZが楽しみだぜ!
スカイライン400R(日産V6ターボ)。オートサロンで披露された新型フェアレディZにも積まれるこのエンジン、ターボとしては世界で指折りの官能性アリ!
■まとめ
かつて三菱GTOが登場した時、そのデザインやイメージカラーの赤から「和製フェラーリ」と呼ぶ声があったが、そこには「ニセモノ」という意が込められていた感があった。
しかし本稿で取り上げたクルマは決してニセモノではなく、あくまでイタリア的な美点を持った国産車たち。しかも、本家を上回った傑作も存在している!
なかでも現行ロードスターの美、初代ワゴンRの合理性、そしてLFAの超絶サウンドは特筆に値する。開発者たちはイタ車にあこがれ、イタ車を超えたのだ! スバラシイ! ビバ! 和製イタリア車。
【番外コラム】イタリア車の『アレ』な部分が似てしまった国産車たち
●イタリアンで危険な操縦性部門
トヨタ MR2(2代目)。4気筒ターボをミドに横置きしていたが、初期型はなぜかすぐにクルマが横を向いた
イタリア車の操縦性といえば、シャープすぎるハンドリングやオーバーステアが思い浮かぶが、その分野でも日本には猛者がいた。それが2代目トヨタMR2(初期型)である。このクルマ、ミドシップの超オーバーステアという、超コワイ操縦性で恐れられた。
同時期、フェラーリ348がオーバーステアでコワイと言われていたが、そのトレーニング(?)として、MR2でサーキットを走ってフェラーリの操縦性の予習をする者もいたほどなのである。
●イタリアンな低耐久性部門
昔のホンダ車のボディ。知り合いの初代アコードは、10年で下回りやマフラーがサビだらけに
イタリア車と言えば「故障しやすい」「耐久性が低い」というイメージもあるが、日本勢も負けてはいない。
ロータリーエンジンの耐久性の低さは折り紙付き。ボディに関しても1980年あたりまでのホンダ車は耐久性が弱く、すぐガタガタになると言われていた。あふれるイタリア車魂、国産車、やるぅ。
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