徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回は三菱Σ(シグマ)スーパーエクシードを取り上げます。
1984年6月、5代目となるギャランに追加されたのがギャランΣスーパーエクシードでした。G63B型シリウスDASH 3×2エンジン搭載が大きな魅力で、SOHC3バルブの2Lターボエンジンながら、現在でいう可変バルブタイミング機構を持ち、リッターあたり100馬力、最高出力200馬力というとてつもないパワーを手に入れました。
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パワーウェイトレシオは5.9kgm/psとFF(前輪駆動方式)最強。果たしてその走りはどんなものだったのか? 『ベストカーガイド』1984年6月号の試乗記を振り返ります。
※本稿は1984年5月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2018年2月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
6年もの歳月をかけたエンジン
私が思う乗用車の理想的なエンジンとはツウィンカムでも、フォーヴァルブでもない、ましてやリッターあたりの馬力が大きいことでもない。何よりも低速から高速までトルクが厚く、しかも高回転までスムーズに吹け上がれば最高だ。要はツウィンカムやツウィンカムターボが人気だからといって、それありきではないのだ。
確かにツウィンカムエンジンは高回転時の吸入効率は高いけれど、低回転時は効率が悪い。そこで、三菱は低回転時でもたっぷりのトルクがあり、高回転時にはツウィンカムターボなみのパンチが出るエンジンに挑戦しようとなったわけだ。
そのため燃焼を徹底的に研究し、6年も前からシリウスダッシュエンジンの研究をスタートさせたという。SOHC3ヴァルブエンジンとしたのはわけがある。吸気ヴァルブ2つ、排気ヴァルブ1の3ヴァルブ方式の最大の特徴は2つの吸気ヴァルブの直径が異なることだ。29mmのプライマリーと37mmのセカンダリーを持ち、ヴァルブタイミングとリフトでエンジンの負荷に応じて作動させるのだ。
シリウスDASH3×2。2つの吸気バルブを低速域では1本、中低速では2本とも作動させる世界初といえる可変吸気システムを採用していた。
2500回転ではプライマリーヴァルブのみでエンジンが動く。このためプライマリーヴァルブは低回転とマッチした開閉タイミングとリフトを持つ。プライマリーヴァルブは燃焼室内のスワール(渦)を強化する(燃焼スピードが速くなり、ノッキングを防ぐ)ことでヴァルブオーバーラッピングが起き、充填効率を高める。これはすなわち低回転域のトルクを増大させることになる。
2500回転以上ではプライマリーヴァルブはそのままに、セカンダリーヴァルブが作動する。こちらは高回転にマッチした開閉タイミングとリフトを持ち、オーバーラップも大きい。
この複雑なヴァルブコントロールは、むろんコンピュータの助けを要する。デジタルコンピュータ制御のフューエルインジェクションを用いることで解決している。
(上)インテリアはスポーティというよりもラグジュアリーな印象。なおスーパーエクシードは三菱車のトップグレードの証しとなる(下)豪華な大型シートは、硬めで長距離の移動もしっかりとした乗り心地を提供した
低速トルクは想像以上に良いが
FFにハイパワーエンジンの組み合わせは特別難しい。エンジン横置きとなるとその難しさは最高峰だろう。200馬力、28.5kgmという大パワーを与えられΣスーパーエクシードは、速いことこのうえない。どこからでもスロットルを踏めばグッと加速する力強さはさすがだ。
シリウスダッシュエンジンは7000回転まで楽々使え、サードの1500回転といった実用域でからでもレスポンスのいい加速を見せる。低速トルクの厚さには正直驚かされる。またターボラグというものが極めて小さいのでコーナーを起ち上がるや否や強力な加速が開始され、2速から3速へとシフトアップしても加速は永遠に続くかのようだ。
試乗中の徳さん。谷田部のテストで記録した210.1km/hはスカイラインRSターボC(207.49km/h)を上回るものだ
しかし、それでも不満が残る。問題はΣのエンジン横置きのレイアウトだ。2700回転付近で起こる2ヴァルブから3ヴァルブへの移行はまったく問題ない。ただし、あまりにトルクが強いので急激なスロットルワークはスティアリング系に少なからずショックを与える。
もうひとつはスロットルオフで、ややエンジンマウントに問題があるためか、ギクシャクした感じを強調してしまう。同じエンジンを持つスタリオンGSR-Vにもあるが、Σほど大きくないことを考えると、やはりエンジン横置きのFWDは難しいということになろう。
同じシリウスダッシュエンジンを搭載するスタリオンGSR-V。こちらはFRで前後ストラットの4輪独立サスペンションを採用し、価格は241万7000円だった
さらに大パワーを与えたことで、アンダースティアがどうしても強く出る。コーナリング中にスロットルを開けすぎるとエンジンのトルクが勝ってホイールスピンをはじめ、アンダースティアを促すことになる。
もう少しロール剛性を高めてもいいと思うが、現在のままでもコーナリング性能と乗り心地は相当なレベルにあると思う。
Σスーパーエクシードはよくできているし、設計陣の努力が痛いほどよくわかる。しかし、エンジンが縦置きならば、アウディ200(縦置きの5気筒)のレベルまでいけそうな気配を感じさせるだけにその点が残念だ。やはり、大パワー車はFRに限るのか!? 同じエンジンを搭載するスタリオンGSR-Vのバランスのいい速さを見せられるとそう思う。そのドライブフィール(動力性能ではない)はポルシェ944に近く、国産車では希有の存在だ。こちらの欠点は唯一古さだけだが、ドライブの楽しさは国産車で1、2を争う。
遅れて1984年10月に追加されたハードトップはΛ(ラムダ)の後継モデル。サイドデカールにはSIRIUS DASH 3×2の文字が誇らしげに踊った
◎ギャランΣスーパーエクシード 主要諸元
全長:4460mm
全幅:1695mm
全高:1395mm
ホイールベース:2600mm
エンジン:直4SOHC ICターボ
排気量:1977cc
最高出力:200ps/6000rpm
最大トルク:28.5kgm/3500rpm
トランスミッション:5MT
10モード燃費:12.2km/L
車重:1180kg
サスペンション:ストラット/3リンク
当時の価格:240万9000円
※グロス表記
◎谷田部テストデータ
0~400m加速:15.88秒
0~1000m加速:29.03秒
最高速度:210.1km/h
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