やっと全貌が明らかに。そう感じた人も多かっただろう。待ちに待ったGR86の発売。購入を検討している多くのファンや旧型86&BRZオーナー、そして期待を寄せる関係者にとって、2021年10月28日は記念すべき一日となった。
GR86の詳細については、すでに多くの方がご存じだと思うので割愛するが、ではGR86のプロモーションはどうなのか? というのが今回のテーマ。初代86のプロモーションと言えば、兎にも角にも「スポーツカーカルチャー」というキーワードだった。購入者に脚光を当て、86ライフをバックアップし、オーナーの輪を広げていくようなトヨタの施策は、多くの人の支持を集めた。その結果、スポーツカーとしては異例のヒット車となったわけだが、そういう意味でGR86のプロモーションは、実車の良し悪しと同じぐらい重要と言っても過言ではなく、売れ行きを左右する大事な要素でもある。
文/奥野大志、写真/奥野大志、TOYOTA
[gallink]
初代86と比べるとだいぶコンパクトになったプロモーション
全高は初代86と比べて10mmダウン。低重心に磨きをかけた
TOYOTA GAZOO Racingが10月28日に発表した施策は3つ。プレスリリースには「GR86の魅力を増幅させる『集う(ファンミーティング)』『育てる(カスタマイズ)』『走る(参加型レース)』に関する取り組みをご用意しました」とある。なお、FUJI 86 STYLE with BRZ 2021 PART2は富士スピードウェイの主催イベントのため、トヨタの施策ではないが、実質的なキックオフイベントのため、冒頭に入れることにした。
(1) FUJI 86 STYLE with BRZ 2021 PART2(2021年11月21日)※富士スピードウェイ主催
富士スピードウェイが年1回のペースで開催している86/BRZオーナー向けのイベント。今年は6月6日(日)に開催済みだが、GR86とBRZのデビューイヤーということで、急遽パート2が追加されたのだろう。トヨタが出展し、ショートサーキットで行う「GR86&BRZ乗り比べ試乗会」が最大の目玉。参加できるのは抽選で選ばれた80名程度ということで、プラチナチケット化は必至だ。
今年の6月に行われたFUJI 86 STYLE with BRZ 2021の模様
86 STYLEは86/BRZオーナーが集まる一年で一番大きなイベント
(2) ミニ86STYLE@GR Garage
その名の通り、(1)の86 STYLEを全国各地のGR Garageで行うというもの。当然、富士と比べて規模は小さくなるものの、GR86の開発ドライバーによるデモ走行や試乗会、トークショーなどが行われるから楽しみだ。ちなみにGR Garageは全国に59拠点あるが、どこの店舗で86STYLEが開催されるかは発表されていない。たくさんのGR Garageが参加し、盛り上がることを期待したい。
(3) カスタマイズサポート
6月に開催された86 STYLEで、カスタマイズブランド6社(HKS、CUSCO、SARD、TOM’S、TRUST、BLITZ)のGR86コンセプトモデルがお披露目となったが、それらのカスタマイズパーツがGR Garageで販売されることに。新型車のプロモーションにサードパーティが加わっていること自体が画期的だが、GR Garageの多くは初代86の時代からカスタマイズパーツの販売を行っており、今回の施策がどのような変化をもたらすのかはわからない。コンセプトモデルそのものが欲しいというユーザーの声もあり、コンプリートでの新車販売が実現したらより盛り上がるだろう。
写真は86 STYLEに展示されたTOM’SのGR86。反響の大きかった一台
(4) TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup
2013年から現在も開催しているTGR 86/BRZ Raceに変わり、来年からTGR GR86/BRZ Cupがスタートする。車両は86 RacingからGR86 Cup Car Basicへ、車体とネーミングを一新。まったく別のレースとしてスタートする。TGRのホームページでは来年7月に開幕予定であることが発表されているが、たくさんのディーラーチームの参戦が予想されるため、初年度は特に盛り上がるだろう。
以上が発表になった施策だが、正直、リクエストの多かったGR86とBRZの乗り比べなど、目を引く内容はあるものの、初代86のてんこ盛りのプロモーションを知っている者としては、少々物足りなさを感じる。しかし、GR86は発表までに時間がかかったうえに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響をもろに受けた難産の末のニューモデル。やりたくてもできなかったことがたくさんあるのは容易に想像がつくし、社会情勢を考えればパワー不足は止むを得ないだろう。まずはGR86がこの世に生を受けたことに感謝しないと。
ただ、「スポーツカーカルチャー」という言葉がどこにも見当たらないのはやはり寂しい気がする。この言葉に惹かれてスポーツカーライフの楽しみを知り、86を購入して人生の新たな楽しみを見つけた人がたくさんおり、GR86を注文し、乗り換えを検討している人がいるからだ。また、初代との共通性を残すという意味でも、キャリオーバーしてもらいたかったと思うのは私だけではないだろう。
GRの名を冠したからこそ実現できた高い商品性。スポーツカーカルチャーの拡大に不足はない
GR86のエンブレムが初代86の流れをくむデザインのものから(プロトタイプはこっちだった)、新デザインのものに変わっており、ちょっとした話題になっているが、トヨタはGR86を初代86から生まれ変わったニューモデルとしてとらえているのだろう。だからこそ2.4リッターの強心臓と鍛えられた高剛性ボディ、そして10年分の進化が感じられる洗練された内外装を手に入れることができた。
プロトタイプの時から一新された「86」のエンブレム
そして、いろいろなメディアで報じられている通り、値段が抑えられている割には前評判がすこぶる高い。ワンランク上のスポーツカーに生まれ変わった印象だが、結果オーライ。初代86の時はトヨタにスポーツカーカルチャーのお手本をたくさん示してもらったが、今度は自分たちでスポーツカーカルチャーを広げていけばいいだろうし、そもそも勝手に広がっていくだろう。GR86はそれだけの魅力を持つスポーツカーであることは間違いないし、TOYOTA GAZOO RacingのGR86に関するプロモーションもそれを見越してのことだろう。
低回転から力強いトルクを発生するエンジン。試乗イベントでの反応やいかに?
高い剛性を誇るボディはGR86の注目ポイント
コックピットはデザインとともに使い勝手が向上
また、同日に発表された別のリリースでは、トヨタが力を入れるクルマのサブスクリプションサービス、KINTOに関する発表もあった。GR86の全グレードを対象車(GR PARTS仕様もある)に設定し、SZの6速MTで月々2万3430円からというプランを用意した。しかも、一定の条件を満たせばカスタマイズやサーキット走行も可能になるという一歩踏み込んだ内容となっている。オーナーの特性と車種を考えれば必然と言えるかもしれないが、実現には大変な苦労があるはず。GR86購入のハードルを少しでも下げようとするメーカーの姿勢は、スポーツカーカルチャーの促進と同義と言ってもよく、そういう意味では今後のTOYOTA GAZOO Racingの86に関する施策も大いに期待というとこだろう。
GRスープラ、GRヤリスと次々に魅力的なモデルが登場するTOYOTA GAZOO Racingだが、その中のエントリー的ポジションであるGR86には、いい意味で好き勝手に暴れてもらいたい。しばらくはTOYOTA GAZOO Racingの動向から目を離せなくなりそうだ。
買う人が限定されるスポーツカーだけに、プロモーションの効果は大きい
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