現在、全国約6000店舗におよぶディーラーを持つトヨタ。「販売のトヨタ」とまで言われ、販売力は他社を圧倒している。他社であれば、あまり人気がなく販売台数が見込めない車種でも、それなりに数を売ってしまうと評されている。
そんな強力な販売力を誇るトヨタをもってしても、過去には売れなかった残念なモデルがあった。今回は、そんなディーラーマンが売り方に困った5台にスポットを当てて、その残念さを解説していきたい。
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文/片岡英明
写真/TOYOTA
【画像ギャラリー】トヨタでも売れなかったけど、実は海外で大変身していたiQ
■iQ(販売期間:2008~2016年)
東京モーターショーを見ればわかるように、最近はマイクロサイズのスモールカーが注目を集めている。2008年11月、大メーカーのトヨタは大胆にもこのジャンルに新型車を投入した。それが「iQ」だ。
キャッチフレーズは「超小型ボディに卓越した性能を凝縮し、高い質感を備えたマイクロプレミアムカー」である。全長は3mを切るコンパクトさだが、全幅は1680mmと広く、全高も1500mmと高くして快適な居住空間を実現した。なんと、このサイズで4人の乗車が可能だ。当然、取り回し性も優れている。
エンジンは1Lの直列3気筒DOHCでスタートし、10カ月後に1.3Lの直列4気筒を追加設定した。1Lエンジンでも街中を中心とした走りでは満足度が高い。1.3L モデルは一段と軽快な走りを見せ、振動も上手に抑えられている。発売前にジャーナリストなどに乗せてみると、好評を勝ち取った。
が、フタを開けてみると販売は低調で、頼みの綱だったヨーロッパでも不人気車の烙印を押されている。日本には優れたパッケージングで、燃費のよい軽自動車があるから、価格が高く、維持費も高くなるiQには見向きもしなかったのだ。
ヨーロッパでも、設計コンセプトは高く評価されたが、多くの人は手を出さなかった。ちょっと登場が早すぎたか!?
■カローラ ルミオン(販売期間:2007~2015年)
日本を代表するファミリーカーのカローラは、乗り継ぐユーザーが多いためユーザー層が高齢化してきた。これを打開し、若いクルマ好きを取り込むために企画されたのが、カローラらしくないカローラ。それが箱型2ボックスの「カローラ ルミオン」で、2007年10月にデビューを飾っている。
そのネーミングからわかるように、ルーミーで快適なキャビンをチャームポイントにした。しかも小型車枠からの脱皮を図り、全幅を1760mmまで広げている。全高も1630mmと、立体駐車場には入らない。このパッケージングは、北米での販売をメインとしていたからだ。
エンジンは1.5Lと1.8Lの直列4気筒DOHCで、アクティブコントロール4WDは1.8Lだけの設定とした。ワイドトレッドで、1.8Lエンジンは余裕があったからスポーティな走りを披露している。
新しいカローラの価値を訴求したが、3ナンバー車を敬遠する人は意外に多く、シートアレンジも平凡だったから販売は伸び悩んだ。この販売不振がトラウマとなり、11代目までカローラはワイド化に踏み切れなかったのである。
■WiLL サイファ(販売期間:2002~2005年)
「WiLL」はトヨタを筆頭に、花王やアサヒビール、現・パナソニックの松下電器産業、近畿日本ツーリストなどが参加して行われた異業種による合同プロジェクトである。
ターゲットとするのは、新しい感覚の商品に興味を持っているニュージェネレーション層だ。トヨタはWiLLシリーズに「Vi」と「VS」を送り込み、2002年10月には第3弾の「サイファ」を投入した。ベースとなっているのは初代ヴィッツのプラットフォームで、デザインコンセプトは「ディスプレイ一体型ヘルメット」である。
エンジンは、FF車が1.3Lの直列4気筒ハイメカツインカム、4WDは1.5Lのハイメカツインカムだ。トランスミッションは4速ATを組み合わせた。個性的な内外装のデザインとともに注目を集めたのは、トヨタ初となる車載情報通信サービスのG-BOOK対応モデルとしたことである。
カーナビを標準装備し、今につながるカーコネクティッドを先取りした。また、カーリースプランも用意している。これも驚きだ。利用するユーザーは多かったが、採算割れは誤算だった。
狙いはよかったが、価格はヴィッツよりかなり高かったから、販売は低空飛行を続けていた。2代目のヴィッツが登場し、WiLLプロジェクトにも陰りが見えてきた。そこでWiLL サイファは2005年春に販売を打ち切っている。近未来のシステムを先取りしたことは評価したいが、ちょっと先走りしすぎたようだ。
■オーパ(販売期間:2000~2005年)
オーパは新感覚のファミリーカーである。セダンとワゴンのクロスオーバーで、コンパクトなボディサイズなのにホイールベースは2700mmと長かった。
姿を現したのは、1999年秋に開催された東京モーターショーのトヨタブースだ。プラットフォームはV50系「ビスタ アルデオ」のものを用いている。クリーンなスタイリングだけでなく、高効率のパッケージングも注目を集めた。2列シートの5人乗りだが、キャビンは広い。後席はスライドするから足元は広く、快適だ。前席と後席のシートを色違いとしたことも新しい。
2000年5月に発売された時のパワーユニットは1.8Lの直列4気筒DOHCである。コラムシフトの4速ATを採用したからミニバンのようにウォークスルーが可能だ。
夏にD-4と呼ばれる2Lの1AZ-FSE型直噴エンジンを追加設定した。このエンジンに組み合わせたのは、トヨタ初のスーパーCVTだ。走りの実力も思いのほか高かったから評判はよかった。
が、保守的なセダン派は敬遠したし、装備もそれなりのレベルにとどまっていたからプレミアムを期待する人たちもスルーしている。当然、販売は下降線をたどった。そのため2005年に販売を終えている。
■ヴェロッサ(販売期間:2001~2004年)
バブルが弾け、大きいことはいいことだ、の時代は終わった。が、ラグジュアリー装備を満載した、立派なアッパーミドルサルーンで育っていった人たちは、コストをケチったFFのセダンは毛嫌いしている。
そこでトヨタが開発に乗り出したのは、マークIIのメカニズムを用いた小さな高級車だ。1998年、第1弾として「プログレ」を送り出した。これに続き2001年6月には「ブレビス」を発売している。
プログレとブレビスは、ダンナ仕様のゴージャスなセダンだった。スポーティさは薄い。刺激的な走りを求めるならアルテッツァになるが、上質ムードは希薄。そこで走りの楽しさにこだわるFR党に向けて、上質なスポーツセダンを発信する。それがチェイサーの事実上の後継モデル、ヴェロッサだ。登場したのはブレビスより1カ月遅い7月である。
開発テーマは「人の情感に訴える」クルマだから、デザインには強いこだわりを見せた。フロントマスクは個性的だし、インテリアもスポーティさがわかりやすいデザインだ。
パワーユニットは、マークIIと同じ2Lと2.5Lの直列6気筒DOHCエンジンを用意している。2.5Lエンジンにはパワフルなターボ搭載車も設定した。また、限定仕様のスペチアーレVR25が積むのは、ヤマハチューンのターボエンジンだ。
トヨタの意気込みが感じられるプレミアムスポーツセダンで、マークIIよりスポーティな味わいが強い。痛快な加速を見せたし、ハンドリングも正確だった。
だが、目論見通りに売れたワケではない。2Lエンジン搭載車ばかりが売れたのである。3兄弟のなかではもっとも販売台数は低調で、4桁に届かない。ほかの兄弟は2007年まで販売が続けられた。が、ヴェロッサだけは2004年春に販売を打ち切った。わずか2年8カ月と短命だった。
ちょっとしたボダンの掛け違いが、明暗を分けたのである。販売終了後はドリフトマシンとして珍重されたのだが……。
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