トラックを悩ませる重い駆動用バッテリー
クルマに関わらず、過去に存在しなかった新製品は高い注目を集める。だが、未開の市場を切り拓く挑戦者には、小さくない課題も降りかかる。マクサスがリリースしたバッテリーEV(BEV)のピックアップトラック、T90 EVも、そんな状況にあるようだ。
【画像】英国初のEVピックアップ マクサスT90 EV 北米のEVモデル 内燃エンジンの競合も 全151枚
現在のBEVにとって、駆動用バッテリーが及ぼす軽くない車重は悩みのタネ。車重が増えるほど、搭載できる荷物の量は減ってしまう。BEVで四輪駆動の場合はツインモーターになることが一般的で、重くなりがちでもある。
英国では、1000kgの積載量を叶えたピックアップトラックは、20%の付加価値税から免れられる。もちろん、軽い方がエネルギー効率も優れる。
堅牢なセパレートシャシー構造の場合は、構造材が2本伸びるラダーフレームの間に、駆動用バッテリーをまとめる必要がある。パッケージング上の制約も大きい。
結果として、T90 EVは後輪駆動のみ。最低地上高は、ディーゼルエンジンで走るピックアップトラックの多くが220mm前後あるのに対し、T90 EVは187mmに留まる。悪路性能にも影響が出てくる。
それでも、リアアクスル側に搭載された駆動用モーターの最高出力は203psある。実用性重視のディーゼルターボと比べれば、パワフルといっていいだろう。
フロントが硬くリアが安定しにくいバランス
重たい駆動用バッテリーが低い位置へ集中するBEVは、重心位置が下がり操縦性に優れることが多い。しかし、すべてのモデルに当てはまるとは限らない。
引き締まった姿勢制御で、T90 EVはしっかり路面を捉えてくれる印象がある。しかしカーブが連続する区間では、フロントが硬めで、リアが安定しにくいというバランスが見えてくる。乗り心地も褒めにくい。
通常ならフロント側に載る重いディーゼルエンジンがなくなり、駆動用モーターもリア側にある影響で、フロントタイヤのグリップ力は限定的。アクセルペダルを踏み込むと重心が後ろへ移動し、更にフロント側が軽くなるようだ。
高速道路の速度域では、空荷状態だとリアクスル側が不安なほど跳ねる。進路も乱され、ステアリングホイールの細かな操作に追われる。そもそも、直進性が良好とはいえない。多くの商用車とは異なり、荷物を搭載すれば安定性が高まるわけでもなさそうだ。
とはいえ、1485x1510mmの荷台には1000kgまでの荷物を積んで走ることができる。英国では、ピックアップトラックとして付加価値税を回避できる。
回生ブレーキは強力に効き、エコとノーマル、パワーというドライブモードも用意されている。最高速度は125km/h、航続距離は354kmがうたわれる。急速充電能力はDCで80kWまで。最短45分で、20%から80%まで駆動用バッテリーを回復できる。
働くクルマとして潜在的ニーズは間違いない
インテリアは、現代的な商用車の水準に並ぶ。ダッシュボード中央には10インチのタッチモニターが据えられ、アップル・カープレイとアンドロイド・オートに対応。ステアリングホイールは、上下のチルトだけでなく前後方向のテレスコピック調整も可能だ。
車内は居心地が良く、シートはレザー張りで、後席側にも大人2名が快適に過ごせる広さがある。小物入れも多い。プラスティック製部品の多くは、2世代ほど前の日本車的な質感ではあるが、マイナーチェンジ程度の改良で向上はできるだろう。
装備も充実している。オートワイパーにオートヘッドライト、リアカメラが標準で備わる。アルミホイールは17インチを履く。ただし、BEVだから価格もお高め。英国ではフォード・レンジャーやフォルクスワーゲン・アマロックの上級グレードに迫る。
パワートレインの制約もあり、主力メーカーのフォードやいすゞなどから、今後数年以内にBEVのピックアップトラックが登場する可能性は低い。それでも、働くクルマとして道路を走り回っている実情を考えれば、潜在的なニーズは間違いなくあるだろう。
マクサスは、2024年中に四輪駆動版のT90 EVも追加するという。今後のアップデートで、実力を高める可能性へ期待したいところだ。
マクサスT90 EV エリート2WD(英国仕様)のスペック
英国価格:4万9950ポンド(約804万円)
全長:5365mm
全幅:1900mm
全高:1809mm
最高速度:125km/h
0-100km/h加速:−
航続距離:354km
電費:4.0km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2300kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:88.5kWh
急速充電能力:80kW(DC)
最高出力:203ps
最大トルク:38.2kg-m
ギアボックス:−
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