■老朽化が進んだ道路を維持管理するための負担が増大している
日本全土に広がる道路は、私達の生活を支える大事なインフラです。
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国土交通省が公表している「道路統計年報2018」によると、林道や農道を含まない道路の総延長距離は127万9511.9kmで、重複区間や供用が開始されていない区間、渡船で供用されている区間を除いた実延長距離でも122万3886.5kmです。この距離は、地球1周を4万kmとすると30周分に相当します。
道路の機能や構造の保持、交通事故の防止を目的として、自治体などの道路管理者は日々のパトロールや定期的な調査によって道路環境を維持していますが、老朽化による維持管理・更新費用の増大や、近年頻発する自然災害によるインフラ被害などへの対応が大きな負担となっています。
こうした課題を解決するために2019年7月、トヨタ・モビリティ基金と赤磐市(岡山県)、岡山大学、岡山県、赤磐警察署などが協議会を発足し、赤磐市で、ある実証実験を開始しました。
これはどのような実験なのでしょうか。トヨタ・モビリティ基金の担当者は次のように説明します。
「道路の維持管理は、全国の自治体などの管理者が担当しています。道路に穴があいていては事故につながる恐れもあり、交通事故防止のためにも道路の維持管理は重要です。
現在も日常的にパトロールが実施されていますが、限られたリソースではひとつの場所に対するパトロールの頻度が少なくなるほか、全体的に網羅することが困難です。
この問題に対してはセンサーデータなどを活用する方法が開始されているものの、コスト面などから、とくに予算に制約のある中小規模の自治体への導入が進んでいません。
本協議会は中小規模の自治体の道路維持管理の効率化を目的に、コネクテッドカーやドライブレコーダーなどの異なるデータを組み合わせて活用し、省人化しながら対象地域の道路状況の網羅と異常検知の迅速化に取り組むために発足しました。
また、道路の維持管理のみでなく、交通安全対策の充実や災害時の安全な移動の支援などへの活用も見込んでいます」
※ ※ ※
同様の実験は、範囲と期間を限定してトヨタのお膝元である豊田市でも実施されていました。
豊田市はその成果報告で、コネクテッドカーから得たデータをもとに凹凸箇所を抽出し、実際に同箇所を現地調査した結果、路面の劣化を確認できたとしており、日常点検での路面の劣化箇所の選定に活用できる可能性を示しています。
自治体はほかにもたくさんありますが、赤磐市が選定されたのはどういった理由があるのでしょうか。
前述のトヨタ・モビリティ基金の担当者は以下のように話します。
「赤磐市には移動にクルマが不可欠な中山間地域があることや、出来た時代が異なるふたつの団地があること、市の財政力指数が中央値付近であることなどから、モデルとしてのターゲットとなりました。
また、赤磐市の市長が、このような新しい取り組みに積極的だったことなども理由として挙げられます」
■効率的な道路の維持管理が期待される一方で課題もあり
市内を走るコネクテッドカーからはどのような情報を収集し、どのようなことがわかるのでしょうか。引き続きトヨタ・モビリティ基金の担当者に伺いました。
「車両(コネクテッドカー)に搭載されたセンサーから、振動や急ブレーキの挙動を検出し、位置情報と合わせて収集・解析しています。
たとえば、大きな振動が検出された場所では、路面が破損している恐れがあるということです。
これまでは管理者がパトロールした場所の状態しか把握できませんでしたが、この仕組みでは市民が日常の移動で利用しているクルマからデータが届くため、クルマが通った道の状態を網羅できるだけでなく、通行量の多い場所でパトロールがおこなわれる頻度も劇的に向上し、損傷箇所の早期発見に繋げることが可能となります。
このほかにも、公用車に搭載されているドライブレコーダーによる画像を収集、分析し、路面の劣化状態を画像で確認できるほか、雑草で標識が見えにくいなど、危険な状態となっている場所の検出などにも利用できます。
また、膨大な量となる情報はトヨタ自動車で処理し、AIを活用して解析しています」
※ ※ ※
これは、2019年の7月下旬から始まった取り組みですが、現在は計測したデータを赤磐市側に提示している段階で、まだ具体的な成果にはつながっていないようです。
実験は2021年3月までを予定していますが、今後はどのように展開されるのでしょうか。
「まずは、実験を通じて得た結果を公表したいと思います。
そして、有用性が確認できれば、より安全で暮らしやすく、災害に強い街づくりにつながる仕組みとして、自治体などの管理者が安く有効に導入できるようになることを目指します」(トヨタ・モビリティ基金)
* * *
クルマがネットワークに繋がったことで、例えばエアバッグが作動するような事故を検知するとクルマが自動で通報してくれるだけでなく、目的地の天候情報なども瞬時に取得できるようになり、クルマの搭乗者はさまざまな情報やサービスを受けられるようになりました。
ボルボは2019年4月に、クルマ間で滑りやすい路面や危険箇所を共有し、警告するシステムを欧州全域で導入すると発表しました。
この技術は、ボルボ車同士が互いに通信し合い、クラウドベースのネットワークを介して付近の滑りやすい道路の状況や危険な場所に関して、リアルタイムでドライバーに警告するというものです。
これらの取り組みで有用性が実証されれば、道路の利用はより快適になることでしょう。
一方で、クルマがネットワークに繋がったことによる課題もあります。
2015年07月、アメリカのコンピュータセキュリティの専門家2人が、ジープ「チェロキー」の2014年モデルを無線でハッキングする実験に成功し、その後140万台のリコールに発展した事件がありました。
一般的に、クルマは数年から十数年保有されますが、IT技術の進歩は速く、数か月から数年で陳腐化することがあります。また、更新されなくなった古いシステムは脆弱性を抱える恐れも想定されます。
コネクテッドカーの普及と、そのデータを活用する取り組みは、今後の社会に必要不可欠なものとなりますが、セキュリティ面については引き続き重要な課題となりそうです。
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