2022年シーズンのF1は新規定によるマシンの導入で昨年までとは勢力図もレース展開も大きく変更。その世界最高峰のトップバトル、そして日本期待の角田裕毅の2年目の活躍を元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。今回の第7戦モナコGPは大雨のスタートとなった決勝で路面がどんどん変わっていくなか、チームの戦略が大きなポイントとなりました。レース後にはレッドブルがペレスとの契約延長を発表したニュースを踏まえ、中野氏が解説します。
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ガスリーをアルファタウリF1に残留させたいレッドブル。ジュニアドライバーに後任の適任者なし
F1第7戦のモナコGP、もともと難しいモナコですが今回はいつにも増して難しいシチュエーションになりました。決勝では雨が降ってスタートがディレイになり、スタート後には雨からドライに変わっていくという、非常に難しいコンディションでのレースになりました。そもそも市街地のモンテカルロではコース幅が狭くてガードレールに囲まれていますのでミスが許されないですし、直線も短くて抜けないコースですので予選の順位がすごく重要になります。
そういった意味では、いかに予選までを上手く組み立てていくかというのが重要になりますが、今回のように雨が降ったりするとレースでもいろいろなことが起こるので、モナコとしては珍しく順位の入れ替わりが多いレースになりました。
クルマとしても、今までのコースと違って低速コーナーがほとんどのレイアウトになるので、今年のマシンの弱点が結構出やすいサーキットだったと思います。そこでどう、ドライバーがマシンを手なずけるか。そしてエンジニアがクルマのセットを作り上げていくかということが難しいさだったんじゃないかなと思います。
予選はドライになりましたが、その予選ではシャルル・ルクレール(フェラーリ)、セルジオ・ペレス(レッドブル)が好調で、カルロス・サインツ(フェラーリ)もいいパフォーマンスを見せていましたよね。
ペレスも高速コーナーが多いサーキットでのナーバスなクルマに比べると、低速コースでのアンダーステア気味のマシンの方が思い切って走れると思います。今年のクルマがもともとアンダーステア気味のクルマだと思うのですけど、さらにモナコではアンダーステアが強く出るタイプのサーキットなので、そういった意味では(マックス)フェルスタッペン(レッドブル)との差が縮まっていたというのは、なんとなく理解はできますね。ルクレールとサインツの差も縮まっていたというのも、同じような背景があるのかなと思います。
そして前回、良くなったメルセデスが今回またちょっとポーパシングが目立って苦しんでいたという状況も見えました。今回のモナコは路面が修復されているみたいですけど、それでもやはりもともとのパンピーさは大きくは変わらないですし、路面のミュー(摩擦抵抗)も低い。そうなるとクルマのセットアップ(サスペンション)はどうしても軟らかくしたいですよね。
でも、軟らかくすると今年のクルマはグランドエフェクト(フロア下でダウンフォースを稼ぐ)マシンですので、フロアが路面に付かないように車高を上げないといけないですし、そうなるとまたバランスが取りづらくなる。そういったところでモナコではクルマのセットアップの幅が非常に狭い中で、メルセデスは前の(第6戦スペインGP)バルセロナからスムーズさを取り戻しましたけど、バンピーなサーキットに来てクルマのスイートスポットの狭さが露呈してしまったいう感じでしたよね。今回を見ても、メルセデスのポーパシングはまだまだ完全には解決されていないということが顕著になりましたね。
一方、ドライの予選を見てもフェラーリが速くて、特にルクレールのアタックは素晴らしかったですね。やっぱり自国のグランプリということもあって、しかも過去に一度も完走すらしたことのないサーキットで、去年はポールポジションを獲得していながらトラブルでスタートもできなかったこともありますので、このモナコGPで勝ちたいという強い想いもあったと思います。そのルクレールの気持ちが走りにも表れていましたね。2年連続のポールポジションを獲得した予選アタック、素晴らしい集中力でした。
もともとフェラーリのクルマは回頭性がいいのでモナコでは有利だと思っていました。予選のアタックでもグリップの抜けやすいターン3,ターン4でもフロントがしっかりと(イン側に)入っていましたし、リヤもしっかりグリップしていて、グリップを失わずにフロントがどんどん入っていくという、今年のフェラーリのいいところが凝縮していました。ドライバーとしてもフロントのグリップがほしいところでしっかりとそのグリップがある感じがします。
やはりレッドブルに比べてフェラーリのクルマはステアリングの打角が少なくて、クルマがよく曲がっているわけですが、そのフェラーリの良さがこのモナコでも見て取れました。モナコのような低速コースではダウンフォースの獲得が非常に難しくて、空力的にストール領域に入るようなコーナーが結構あるので、そういったコーナーではクルマのもともとのメカニカルグリップの差が出てきます。そのあたり、予選に関してはフェラーリのよさが特に顕著に出たのかなと思います。
決勝では路面コンディションの変化で本当に目まぐるしい展開になりましたけど、今回ポイントになったのはやはりピットストップですね。そのなかでも非常に興味深かったのは、いわゆるチーム内のナンバー1、ナンバー2ドライバーというところで言うと、序盤戦で圧倒的な形でチャンピオンを争っているフェルスタッペンとルクレール、このふたりに関してはほぼ同じ作戦で戦わせるというチーム間の暗黙の了解のようなものがあったと思うんですよね。それに対して、ちょっと奇策というかリスクを負うことができたのがサインツとペレスだったと思うんですよね。
そのチーム内でのポジションが結果的に差になったなと思いました。ペレスが早いタイミングでリスクを負ってフェルスタッペンより先にタイヤ交換に入ったのも僕は正しい判断だったと思うのですが、フェルスタッペンを同じタイミングで入れなかったというのは、チームはペレスの様子を見たかったのかなと思います。フェルスタッペン側としては、すごく手堅い作戦を採りたかった。
そこで早めにウエット(深溝)タイヤからインターミディエイト(浅溝)にタイヤ交換したペレスが素晴らしい走りをして、フェルスッペンとルクレールをピットタイミングでオーバーカットしていくのですけど、ルクレールは最初のピットインでペレスのタイミングに遅れて先に行かれてしまい、そして2度目のピットインの時にはピットインの手前でルクレールが入る、入らないということになって、そしてルクレールの目の前のサインツが同時にピットに入って2台同時ピットインになってサインツの後ろで足止めを喰らい、そしてピットアウトしたら今度は3番手だったフェルスタッペンの後ろの4番手になってしまった。
今回のフェラーリはピットストップのタイミングがすべての勝負のあやを作ってしまったというか、勝負を決めてしまった感じがありましたよね。ルクレールのピットタイミングについてはなんとも言えないところがあります。ペレスは早めにピットインしてインターミディエイトで素晴らしい走りをしていましたし、そのなかでも一番当たりの作戦かなと思ったのは、フルウエットで引っ張ってインターミディエイトを飛ばしてスリック(ドライ)タイヤに換えたサインツかなと思いました。
●2024年まで契約延長を発表したレッドブルとペレス、来季2023年の昇格の希望が消えた角田裕毅が取り組むべきこと
サインツはタイヤマネジメントが難しかったと思いますが最後まで走って行けるかなと思ったのですが、ペレスが予想以上にペースが良かった。それにサインツはピットアウトの時に少し前のマシンに引っ掛かってしまったんですよね。そこで2~3秒ロスしたのが痛かったですね。もしそれがなかったら逆転してトップになっていたかもしれません。今回、作戦としてはサインツが一番良かったかなと思いますが、一番走りが良かったのは序盤にインターミディエイトで素晴らしい走りを見せたペレスでした。そのインターミディエイトでのいい走りがあったからこそ、次のピットで前で復帰できた。
ドライバー的にはフェルスタッペンもルクレールも、チームの戦略にすごく不満はあると思いますが、チームとしてはチャンピオンを取りに行くことを考えると、やはり王道で攻めなければいけない状況があったと思うので、今回は正攻法の作戦以外は取りづらかったと思います。ただ、それが逆にペレスとサインツにとっては大きなチャンスになって、ふたりはそのチャンスをうまく活かした形になりました。リスクはゼロではないですが、やはりモナコでは早め早めの戦略でトラックポジションを優先させるという戦い方が重要ですね。
角田裕毅も2年目のモナコいうことで、1年目のモナコとは印象も違ったと思うんですけども、決勝ではなかなか上手く乗り切れませんでした。予選のQ1で左フロントをガードレールにちょっとヒットしてしまって、Q1は結果として通過はできたので良かったのですけど、ただ、そのQ1でちょっと流れが良くなくなったような印象でしたね。
決勝に関しては早めのピットインをしましたが、遅いクルマに引っかかってしまったというのもありますし、最後のスティントでもミディアムタイヤでの走行で飛び出していましたし、路面の乾きはじめのグリップの難しい路面で苦しんでる感ありましたね。
なにか決勝中にトラブルがあったのかもしれないですけど、もしトラブルがなかったのなら、こんなに乱れるというか、決勝でここまでうまくまとめられてないのは今年初めてかなというぐらい、今回のモナコはそれだけ難しいコンディションだったということになります。そういった意味ではこれだけ難しいコンディションの中で、いろんな状況を路面状況とかも鑑みながらレースを組み立てていくのはすごく難しいことなので、裕毅にとっても大きな学びがあったと思いますね。
そしてレース後の発表になりましたが、裕毅に関連するニュースとしてペレスが2024年までレッドブルとの契約を延長することが明らかになりました。そのニュースは裏を返せば、レッドブルのジュニアチームであるアルファタウリの角田裕毅にとって、2024年までトップチームであるレッドブルのシートはないということになります。このニュースを聞いて残念に思うファンの方も多いと思いますが、でもそこはもう仕方がないというか、ペレスが本当に数えればそれほど多くないであろうチャンスをモノにしたので、素直に彼は契約延長に値する活躍を見せたと思うんですよね。
やはり、レッドブルとしてはヘルムート(マルコ/レッドブル・モータースポーツアドバイザー)がやってほしい仕事をこなせるドライバーが欲しいわけですよね。ペレスはそのヘルムートのお眼鏡にかなったということですね。ペレスは去年の最終戦アブダビGPもそうですが、ナンバー2としての言葉正しいかわかりませんが、その仕事をきちんとこなして、フェルスタッペンとチームのサポートをしてきました。
今年もそのスタンスを続けて、前回のバルセロナでペレスは無線の指示でフェルスタッペンに順位を渡すという悔しい思いをしました。順位を譲らざるを得なかった状況ではありましたけど、無線で言われるのはやっぱりドライバーとしては全然ハッピーではないわけです。
でも、その中でもペレスはリズムを崩さずにきちんと走りきれるメンタルの強さ、そして速さを持っていますし、自分の好みのクルマに乗ると、それこそマックス同じぐらいのペースで走ることができる。それを今回のモナコでも証明したので、チームにとってはマックスにチャンピオンを獲らせて、チームとしてコンストラクターズを取りに行くということ考えると『ペレスほどのチームメイトはいないな』と思わされるようなパフォーマンスでしたよね。本当に今回のモナコのペレスは素晴らしかった。
一方、裕毅にとっては、そういう状況になってましたけども、今後のレースもやるべきことは変わらないですよね。とにかく自分のポジションを来年に向けて確保することが優先です。敵はガスリーだけに限定してるわけではないですけど、まずはチームメイトのガスリーに勝つということが裕毅の評価につながる。クルマがクルマがよければもっと上を目指せばいいのですけど、クルマが良くても悪くても関係なく、とにかくガスリーに対して自分がどこにいるかということが来年のシートに直接、影響を及ぼすことになります。そのなかで僕はこれまで前半戦のここまでやってきたことと同じアプローチでいいと思います。
もう本人もあまりペレスのことは関係ないというか、気にしないと思いますし、F1で上のシート、トップチームのシートを奪おうと思うと、やっぱり相当なすごい活躍をしないとそれは難しいことだと思います。裕毅もガスリーにちょっと勝つというのではなくて、やはりガスリーを大幅に上回るぐらいのパフォーマンス見せないと、おそらくレッドブルにはいけないと思うんですね。
なぜならレッドブルは、一度ガスリーをレッドブルに昇格させたあとに力がないと判断して降格させたわけです。その降格させたドライバーに簡単に勝てるようにならないと、上には上げられないということもおそらくあると思います。裕毅としてはまずは来年のシートを確実にして、そこから実力を上げていって、そして本当の意味での評価が得られるようになれば、2024年以降にチャンスがあるかもしれません。とにかくポジティブにいろいろな出来事を捉えて、自分の仕事に集中してほしいですね。
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中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24
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いないのに何故レッドブルへの昇格話し?
アルファタウリである程度実績残して
シートを守る方が現実的な話し