この記事をまとめると
■ホンダ栃木研究所にて「Honda 0 Tech MTG 2024」が開催された
単に「EVを沢山出します」じゃないぞ! ホンダが惜しげもなく披露した製造技術の数々が驚きの連続だった
■「Thin, Light, and Wise(薄い、軽い、賢い)」を開発アプローチとしている
■発表されたE&EアーキテクチャーやAD/ADASとデジタルUXについて解説する
クルマの進化はソフトウェアの進化でもある
2026年より世界各国で市販化予定の新たなBEV「Honda 0(ホンダ・ゼロ)」シリーズは、「Thin, Light, and Wise(薄い、軽い、賢い)」を開発アプローチとして掲げ、専用開発の新たなアーキテクチャーを採用する計画となっている。
10月初旬に四輪/BEV開発センター栃木および隣接する四輪生産本部で開催された「Honda 0 Tech MTG 2024」では、その具体的な技術を数多く公開。過去2回の記事では「Thin」と「Light」の具現化技術をリポートしてきた。
当記事では「Wise」を具現化するE&E(電気・電子)アーキテクチャーやAD/ADAS(自動運転/先進運転支援システム)の進化について紹介するほか、デジタルUX(ユーザーエクスペリエンス)の体験リポートをお伝えしたい。
「0」シリーズではAD/ADAS、コア(=ダイナミクス、電装品、エネルギーマネジメント)、IVI(車内インフォテインメント=デジタルUX)からなる3つの領域ごとにECUを集約し知能化した、ホンダ独自のE&Eアーキテクチャーと、高速通信ネットワークを搭載する。
また、独自の車載OSやアプリケーションを実装し、車両の各機能やデータに自由にアクセス可能として、データ収集・分析、アプリ開発・配信のサイクルを高速化。これらをOTA(Over The Air。無線通信)アップデートにより継続的に進化させることで、ユーザーへ常に新しい価値や体験を提供するという。
では、こうしたE&Eアーキテクチャーの元で、AD/ADASはどのように進化するのだろうか。
ホンダは2021年3月に、世界初となるレベル3自動運転を実現した「ホンダセンシングエリート」を搭載するレジェンドを100台限定でリース販売したが、こちらはLiDARとミリ波レーダーが各5個、フロントステレオカメラが1個、ソナーが12個、広角カメラが4個、ドライバーモニタリングカメラが1個という、贅沢なセンサー構成だった。
これに対し、今回公開された「0」シリーズのAD/ADASセンサーは、LiDARが1個、ミリ波レーダーが5個、ソナーが12個、フロント単眼カメラが1個、マルチビューカメラが4個、ダイナミックレンジが広いサラウンドビューカメラが5個と、とりわけ高価なLiDARを削減しているのが興味深い。
その一方で、アメリカHelm.ai社の「教師なし学習」と熟練ドライバ—の行動モデルを組み合わせた独自のAI技術を実装。少ないデータ量でAIが学習することで、初めて走る道でも的確なリスク予測とスムースな回避を可能とする、より高精度な自動運転・運転支援を実現する。
そして、この技術を進化させることで、「世界最速での全域アイズオフ」、つまり高速道路・一般道を問わないレベル3自動運転のいち早い実現を目指すと、ホンダは宣言している。
デジタルUXによって実現しようとしている機能の数々も、その目的が「ストレスの最小化」および「楽しさの最大化」という点では、AD/ADASと変わらないといっていいだろう。
新型アコードやマイナーチェンジ後のシビックには、直感的に操作できる「Honda CONNECTディスプレイ」に「Android Automotive OS」が搭載されており、「Googleアシスタント」によるナビ・オーディオ、エアコンなどの音声操作も可能になっているが、今後これらを継続的にアップデートさせていく。
AIがドライバーを支える未来がすぐそこに
「0」シリーズではさらに、Bピラーに内蔵したカメラで、クルマに近づいてくる人を認識し、乗車意図有無の判定と顔認証を実施。たとえば事前に登録したユーザーがひとりでクルマから1m以内まで近づいた場合は自動でドアロックを解除し、運転席ドアを開ける。
逆に事前登録したユーザーではない人が近づいた場合は、乗車意図はあると内部で判定しつつ、ドアロック解除や運転席ドアのオープンは行わないよう制御される。
なお、このUXには、空港の出入国審査で用いられているアルゴリズムを車載向けにチューニングした画像認証システムを実装。高いセキュリティレベルを担保しつつ、スマートフォンによる同様のシステムよりも高い本人受入率を達成したという。
さらに、このシステムには独自の行動予測アルゴリズムを実装。たとえば登録ユーザーがベビーカーに子どもを乗せてクルマに近づいた場合は、先にリヤドアを開けて子どもを後席に乗せやすくし、その後リヤドアを閉めつつバックドアを開けてベビーカーを荷室に積みやすくする。そしてベビーカーを載せ終わるとバックドアを閉めつつ運転席ドアを開け、ドライバーである登録ユーザーを迎え入れる。
また、車内に乗り込んだあとも「In-Cabinエージェント」が、ルームミラー付近のキャビンカメラで車室内の様子をモニタリングし、乗員の表情まで含めた状態変化をリアルタイムに検知。画像認識と生成AIで状況を理解し、先まわりして次に取るべき行動をユーザーに提案する。
この「In-Cabinエージェント」の説明では、ドライバーに扮した説明員が運転席に、犬(のぬいぐるみ)を抱えた説明員が助手席に乗り、これに渋滞した道路を走行中の外部映像を掛け合わせて、AIにシーン理解をさせるデモンストレーションを実施。ふたりの説明員の表情を検知すると、「In-Cabinエージェント」はドライバーが疲れ、同乗者は緊張していると判定し、休憩スポットの検索や助手席マッサージ機能の起動、エアコン設定温度変更といった操作を自動で行う様子や、道の様子やドライバーの表情をAiが読み取るデモンストレーションが披露された。
このように、ユーザーが何もせずとも、クルマのほうがユーザーの意図を先読みして行動してくれる、そんな心遣いに満ちたストレスフリーな体験ができるようになるのだ。
そして、昔からのクルマ好きであればあるほどBEVに対して抱きやすい不満を解消すべく、「楽しさの最大化」を図るデジタルUXも開発が進められている。そのひとつが、ホンダ車の実車からサンプリングしたパワートレインのサウンドを、アクセル開度や踏み込み時間に応じてスピーカーから出すというものだ。
これだけであれば、いまやスポーツカーでは一般的になりつつあるサウンドエンハンサーの延長線上にある効果だが、ホンダが開発中のシステムがすごいのは、ステアリングやシートから振動を発生させることも可能というもの。さらに、メーターグラフィックも選択した車種のものに切り替わる。しかも、今回取材したHonda eのテスト車両では、S2000、現行型のシビックタイプR、初代NSX-R、2代目NSXタイプSに加え、これはお遊びか、なんとホンダジェットも選ぶことができた。
さらに、今回は試せなかったが、パドルスイッチの操作に合わせてMT車さながらにシフトチェンジ時のショックやトルク抜けを再現することもこの技術では可能なのだとか。
なお、肝心のサウンドのクオリティは、現状ではデモ機ということもあってか、「グランツーリスモ」シリーズなどのレーシングゲームより数段落ちるというのが率直な印象。だが今後、より本格的に録音を行い、搭載するオーディオの音質を高め、車内の音響特性もこのシステムを搭載する前提で作り込めば、ホンダが生み出してきた名機の感触を、BEVでも堪能できるようになると期待せずにはいられない。
このほかにも、シビックR用データロガーアプリ「Honda LogR 2.0」の運転スコアリング機能をスマートフォン内蔵センサーだけで実現した「Road Performance」のトライアル版が、2024年7月にリリース。
さらには、VR(仮想現実)ヘッドセットなどを装着することで、クルマから離れた場所にいても、実際に走行中のクルマに同乗しているのと同様の体験ができる「Cross Reality Virtual Ride Experience」も開発中だ。
こちらは実際に体験デモコーナーが設けられたが、栃木・高根沢にいながら横浜・みなとみらいにいるアコードでドライブ中のスタッフと、車内の映像を見ながら会話することが可能であった。しかも、立ち上がればサンルーフから頭を出したかのような景色が、さらに180°後ろを向けば車両後方の景色も一望できるという、リアルを超えたドライブ体験をすることができた。
今回紹介したAD/ADASやデジタルUXに関する新技術には、「0」シリーズ以外の既存車種にも転用可能と思われるものや、さらなる機能の進化や追加の余地があるものも多く含まれていた。「0」シリーズ以外も含めた今後のホンダ車の進化を楽しみに待ちたい。
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それよりもまず「操作した通り動く」事の方が大事。