アウディのコンパクトSUVであるQ3には、初代からRSモデルが設定されていたが、これが2代目へと進化を受けて日本に導入されている。さらにフラッグシップSUVであるQ8にも新たにRSモデルが投入されるということで、アウディSUVにとってRSの存在意義や期待したいことを考察してみた。(Motor Magazine2021年3月号より)
RS Q8が加わるまでQシリーズ唯一のRSモデルだったRS Q3
まずは、富士スピードウェイの中でも難所のひとつとされるコカコーラコーナー(旧Aコーナー)を駆け抜けRS Q3の姿(タイトル写真)をご覧いただきたい。市販車でさえ100km/hオーバーで進入することがあるこの高速コーナーでも、RS Q3は軽いロールを伴うだけで、荷重が抜けやすい内輪も浮き上がることなくしっかりと接地している。
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しかも、タイヤと路面がおりなす角度は垂直で、前:255/35R21、後:255/35R21のワイドタイヤが、その踏面のすべてを使って路面を捉えようとしている様子がうかがえる。見る人が見れば、ドライバーが安心しきってハンドルを握っていることさえ読み取れる写真だ。
ごく最近まで、「RS」の称号が掲げられたアウディSUVのQモデルは、7年前にデビューしたRS Q3が唯一の存在だった。もともとサーキット走行もこなすハイパフォーマンスと市街地走行でも快適な乗り心地を両立させたアウディRSモデルだが、中でもRS Q3はSUVだけあって快適性の比重が他のRSモデルよりも大きく、このためタイヤが突き上げられた時の衝撃は驚くほどソフト。
その一方で、私が初めてRS Q3(初代)に試乗したオーストリアンアルプスでは、タイトな低速コーナーから長くGがのしかかる高速コーナーまで安定した姿勢を崩すことなく、重心高の高いSUVでも優れた水準でコーナリング性能と乗り心地をバランスできることを証明して見せたのである。
そんなRS Q3が2代目に生まれ変わった。その最大の注目ポイントはSUVボディに加えてスタイリッシュなスポーツバックも加わったことだろう。ただし、ひと足先に日本上陸を果たしたのはSUVボディのRS Q3だったので、本項はこちらを中心に紹介しよう。
車高の高さがネガにならず快適性へ絶妙に振り分けた
ドライブトレーンはコンパクト系RSモデルの文法どおり、直列5気筒エンジンとハイドロリックマルチプレートクラッチ(HMPC)の組み合わせとなる。他ブランドでも広く採用されているこの電子制御油圧多板式クラッチのシステムだが、実はソフトウェアの設定次第で特性が大きく異なるという。
そこでアウディは冬になると北極圏にある雪上コースでクワトロをテスト。その評価結果にしたがってソフトウェアをバージョンアップする作業を毎年、繰り返している。「同じHMPCでも、他ブランドの完成度が70~80%だとしたらクワトロは95%。そのくらいの違いがあります」。前述したオーストリアンアルプスの試乗会で、クワトロの開発を担当するエンジニアは、そう語ると胸を張った。
サスペンションの基本形はベースモデルと同じ前:ストラット、後:4リンク式ながら、車高が下がるRSスポーツサスペンションを標準装備。さらに減衰力を電子制御できるRSダンピングコントロールサスペンションもオプションで設定されている。
エクステリアはグロスブラックのフロントグリルなどRSモデルではお馴染みの装備に加え、ワイドタイヤをカバーするためRSモデル専用のフェンダーフレアを採用。結果的に全幅が広がって力強いフォルムを生み出している。
そんなRS Q3に富士スピードウェイで試乗したところ、冒頭で説明したような安定したスタンスで高速コーナーをクリアしたばかりか、低速コーナーでもターンインでスムーズにノーズの向きを変え、まったく持て余すところがなかった。これは重心高が高いSUVとしては驚くべきことと言っていい。さらにコーナー出口では400psのパワーが4輪から路面へと確実に伝えられ、2輪駆動とは別次元のダッシュ力を披露。RSモデルの底力を見せつけたのである。
もっとも、同時に試乗したRS3セダンに比べればロール量も大きく、俊敏さという点ではRS Q3が一歩引けをとるかもしれない。ただし、これも快適性を重視してのことだろう。しかも、高速コーナーではSUVとは思えないほどのスタビリティを発揮するのだから、RS Q3の魅力は2代目に生まれ変わっても健在と言って間違いなさそうだ。
並み居る強豪を抑えてSUVのニュル最速を記録
もともと精悍なQ8のスタイリングがさらにスポーティに、そしてさらに迫力あるデザインに生まれ変わった。RS Q8の画像を見て、多くのファンがそう感じたことだろう。前述のとおりアウディSUVのRSモデルはこれまでRS Q3だけだったが2020年の秋、これにRS Q8が加わった。
そのベースとなったQ8は2019年に発売されたフルサイズSUVのクーペ版だが、スタイリッシュなフォルムや優れた実用性が人気で、予想を大きく越える受注が舞い込んでインポーターを驚かせているそうだ。
RS Q8は、全長約5m、ホイールベース約3mの余裕あるボディに4L V8ツインターボエンジンを搭載している。実に最高出力600psと最大トルク800Nmを絞り出す。しかも、48Vマイルドハイブリッドを装備してドライバビリティを改善したほか、気筒休止機構と相まって燃費の改善にも効果を発揮するという。駆動方式はもちろん、トルセンデフタイプCを用いたアウディ自慢のフルタイム4WD「クワトロ」である。
サスペンションはQ8と同じエアスプリングをベースとしながら、専用チューニングを施したRSアダプティブエアサスペンションを装備。4WS機構と連携させることで低速では小気味いい回頭性を、高速域では安定したコーナーリングを実現したという。
エクステリアデザインではグロスブラックにペイントされた立体的なハニカムグリルがダイナミックな佇まいを印象づけているほか、ルーフ後端にはシャープなエッジが効いたスポイラーを装着。ちなみに、タイヤはなんと23インチが標準装備となる。
インテリアの装備にはいずれも最高級の素材が用いられており、スポーツシートはアルカンターラとレザーの組み合わせ。また、アルミでふち取りされたピアノブラック調のダッシュボードは、ラグジュアリーな中にもスポーティな雰囲気を醸し出している。
もちろん走りの性能も第一級で、本国の発表によれば0→100km/h加速は3.8秒でクリアする。しかも、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェでは7分42秒253という驚異的なタイムを叩き出し、並み居る強豪を抑えてSUVのファステストラップ記録を更新したというから、その速さはホンモノ。迫力あるアピアランスとともに、こちらも世界的なヒット作となりそうな気配だ。(文:大谷達也/写真:井上雅行・アウディAG)
アウディRS Q3主要諸元
●全長×全幅×全高:4505×1855×1605mm
●ホイールベース:2680mm
●車両重量:1730kg
●エンジン:直5 DOHCターボ
●総排気量:2480cc
●最高出力:294kW(400ps)/5850-7000rpm
●最大トルク:480Nm/1700-5850rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・63L
●WLTCモード燃費:9.8km/L
●タイヤサイズ:255/40R20
●車両価格(税込):838万円
*RS Q3 スポーツパック車両価格863万円
アウディRS Q8主要諸元
●全長×全幅×全高:5010×2000×1700mm
●ホイールベース:2995mm
●車両重量:2410kg
●エンジン:V8 DOHCツインターボ
●総排気量:3996cc
●最高出力:441kW(600ps)/6000rpm
●最大トルク:800Nm/2200-4500rpm
●トランスミッション:8速AT(ティプトロニック)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・85L
●WLTCモード燃費:7.1km/L
●タイヤサイズ:295/35R23
●車両価格(税込):1869万円
[ アルバム : アウディRS Q3/RS Q8 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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