レクサスの世界販売の中核を「RX」とともに担うコンパクト・クロスオーバーSUV、「NX」も、はや5年目を迎えた。2014年の発売当初、そのエッジの立ったエクステリアは海外で「オリガミ・デザイン」と呼ばれていたようである。いわく、福岡の生産工場には“ワシ(和紙)が数枚以上あるに違いない”、なんて書いている海外サイトもあった。ワシがあるからどうした、とも思うけれど、それはさておき、筆者の場合、思い浮かんだのはウルトラ警備隊のポインター号である。
あれは一昨年の夏だったか、筆者は千葉県の四街道方面に用事があって、一般道をマイカーで向かっていた。すると、な・な・なんとポインター号が走っていたのだ! すかさずドアポケットに入っていた、かれこれ20年前の、幼い子どもたちと一緒に聴いていたウルトラマン・シリーズのCDを取り出し、それを大音量でかけたのは助手席の妻だった。
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♪チャカチャーン、チャカチャチャチャチャ……、渦巻く炎がうなりをたてて~(中略)名づけてウルトラ警備隊!
1950年代のクライスラー・インペリアルがベースとおぼしきでっかいポインター号のレプリカ(たぶん)に並んで、この歌をポインターのドライバーに聴かせてあげよう。運転する私はそう思った。ポインター号はエアコンが使えないのか、窓を開けていたから、幸いである。
四街道へ向かう一般道は無情にも1車線になってしまい、それはかなわなかったのだけれど、四街道周辺の緑と日本家屋に囲まれた狭い街道を走るポインター号を見ながら、「白昼夢のようだ」と、筆者は思ったのだった。
確認したかったのは、ポインター号の乗員がウルトラ警備隊の制服を着ているかどうかだったけれど、確認できなかった分、想像が広がる。あれはモロボシ・ダンとアンヌ隊員が乗っていたのだ。
余談が長くなった。レクサスNXである。NXはポインター号に較べれば、そうとうフツーである。トヨタ「C-HR」という新手が増殖しているのもある。すっかり見慣れた。そのNXにさる4月、何度目かの一部改良が施された。ここにご紹介する新型NX300はそれである。
もっとも、その一部改良は予防安全システムのアップデートが主で、エクステリアは変わっていない。いつもの見慣れたNXである。ところが、ドアを開けるとビックラポン。ランボルギーニ・ウルスもかくやである!
試乗車は“F SPORT”専用ブラック&アクセントマスタードイエローというインテリアだった。ブラックとイエローのコントラストが効いている。これはイイ。
マスタードイエローの外装色だったら、もっといいのに……と思ったけれど、そんなド派手な色は売れない、ということなのでしょう、カタログを見てもボディ色に黄色の設定はない。ま、NXはランボルギーニではないのだから、ごく真っ当な判断だと申しあげるほかない。
走り始めると、細かい振動があって、う~む……という印象を受けた。第一印象はさほどでもなかった。ふたたびところが、である。もうちょっと走ってみると、これがいいのである。
NXにはもうひとつ、アトキンソン・サイクルの2.5リッター直列4気筒自然吸気エンジン+電気モーターのハイブリッドもあるけれど、今回借り出したのは2017年に200tから300に改名された2.0リッター直列4気筒ターボ・エンジン搭載モデルの、前述した“F SPORT”である。富士スピードウェイのFの文字を冠する、サスペンションに専用チューニングが施された、レクサスのスポーティ・モデルだ。
NX F SPORTの特徴として、車両の前後にヤマハが特許を持つ「パフォーマンスダンパー」が装着されている。この高圧窒素ガス封入オイルダンパー付きのつっかえ棒が走行中の微振動を吸収し、乗り心地と静粛性を向上させるばかりか、ハンドリングもいっそうシャープにするという。シンプルな構造ながら、一挙三得のすばらしさなのだ。
筆者はNXが販売開始された早々に200tのF SPORTに試乗している。けれど、この5年間で忘却のかなたになったというべきか、いや、そうではなくて、この5年間の地道な改良の積み重ねによるというべきか、私はたまげました。NX 300 F SPORTの乗り心地のよさに。
パフォーマンスダンパーは受け身の機械的なシステムなので、ある程度の振動がないとうまく作動しない、ということなのだろう。最初は、う~ん、と思ったけれど、ヤマハ特許のこれは動き始めたらスゴイ。静粛性の面にも、おそらくそうとう貢献している。いい意味で申し上げて、往年のトヨタ「クラウン」並みにものすごく静かなのだ。
225/60R18のブリヂストン「デュエラーH/L33」という、SUV用タイヤも乗り心地と静粛面でいい仕事をしていると推察される。18インチは“F SPORT”専用だけれど、いまどき、海外のプレミアム・ブランドのSUVは20インチが当たり前になりつつあるのを考えると、控えめというべきである。
しかも“F SPORT”はNAVI・AI-SVSという電子制御の可変ダンピングを標準装備する。いわゆるドライビング・モードはもっぱらノーマルで走ったけれど、直進走行時は柔らかめ、コーナーやレーンチェンジでは硬くなって姿勢を安定させようとするこのシステムの貢献度は大であると思われる。
初期から装備される、お馴染みのハイテクではあるけれど、ここに至って熟成されてきているのではあるまいか。乗り心地がよくて静かで快適。というレクサスが最初の「LS400」で問うたコンセプトにNX 300 F SPORTもまた、きわめて忠実である、と申し上げることができる。
でまた、2.0リッター直列4気筒ターボエンジンがイイ。最高出力238psを4800~5600rpmで、最大トルク350Nmを1650~4000rpmという広い範囲で生み出すこのエンジンは、ツインスクロールターボチャージャーと吸排気のバルブ開閉タイミングを最適制御するデュアルVVT-iを組み合わせ、筒内直噴と吸気ポート噴射のふたつのインジェクターを持つ。
レクサス=トヨタの持てるテクノロジーを惜しむことなく投入し、ターボラグのないフラット・トルクを実現しているわけである。
ギアボックスは6速オートマチックで、7速、8速は当たり前、9速、10速もあるでよ~、というこんにち、6速では物足りないと思われるかもしれないけれど、その変速マナーのスムーズさ、ショックのなさはCVTのごとしである。
それでいて、CVTのような、クラッチが滑っているみたいな感覚が皆無なのは、もちろんCVTではないからである。コーナー入り口での加速度Gの変化に応じて最適なギアへとシフトダウンし、旋回中はギアをホールドして、出口での力強い加速に備える。ということだけれど、筆者の場合、変速していること自体に気づかない。CVTとカン違いしているほどだからして。
軽井沢周辺の山道では、素直でよく曲がるハンドリングに好感を持つ。出口でアンダーステアを出さないのは筆者がアクセルを深く踏み込まないから、ということはあるにせよ、NX 300の4WD車は「ダイナミックコントロールAWD」なる制御システムが標準装備だ。
旋回時にステアリングの操舵量から前後のトルクを100:0~50:50まで最適配分するもので、AIがアンダーステアだと判断したら後輪へのトルク配分を増やし、オーバーステアだと判断したら後輪へのトルク配分を減らす。
さらに4月の一部改良で、アクティブコーナリングアシスト(ACA)なるシステムを新たに標準装備している。ACAは、コーナリング中、アクセルを踏み込んだときに発生しやすいアンダーステアを抑制するシステムで、具体的にはフロントの内輪にブレーキをかけてヨー・モーメントを発生させ、つまるところ曲がりやすくするのだ。
NXの場合、最低地上高を170mmに抑えているのも奏功している。この数値はたとえば、アウディ「A4オールロード・クワトロ」とおなじだ。つまり、きわめて乗用車ライクなのである。同じアウディでも「Q5」は185mmとってある(エアサスは160mm)。
レクサスNXはオンロードに特化したクロスオーバーSUVとして、なかなか見どころがある、と筆者は思う。最初のコンセプト、遡ること1997年に登場した初代トヨタ・ハリアーの「ワイルド・バット・フォーマル」というコンセプトが20年以上を経ても生きている。
生きているどころか、同種のクルマが他社からも出てきていて群雄割拠になっている。日本発として、柔道にあい通じる、と申しあげることができるかもしれない。柔能く剛を制す、である。
蛇足ながら、もしも読者諸兄が本格的オフローダーをお望みであれば、レクサスには「LX」が、トヨタには「ランドクルーザー」がある。こちらは「おしん」である。ガタイがでかくて、頑丈さを取り柄とする。耐えて、耐えて、耐えまくる。空手チョップのない、力道山のようなクルマだ。こちらもまた、ニッポンの精華である。
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