2008年、135iクーぺ、120iカブリオレが登場したことで、BMW1シリーズに大きな注目が集まった。5ドアハッチバック、2ドアクーぺ、カブリオレと3つのボディバリエーションが揃うことになった1シリーズは、BMWの中でどのような役割と意味を持っていたのか。Motor Magazine誌では、130i Mスポーツ、135iクーぺ Mスポーツ、120iカブリオレという3モデルを集めて比較試乗、1シリーズの魅力に迫っている。ここではその試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine2008年6月号より)
贅沢なコンパクトモデルとして登場した1シリーズ
2004年9月21日。この日、日本でBMW「1シリーズ」が正式に発表された。最初に導入がアナウンスされた車種は、2Lの120i/118iと、1.6Lの116iという3モデルで、すべて6速AT仕様。まずは4気筒エンジンを搭載するモデルとして、活躍の幕を開けた。
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その時代、Dセグメントで主役を担っていた3シリーズは、まだE46型モデル。E87型というコードネームを持つ、まったく新しい5ドアハッチバックの1シリーズが投入されたことにより、BMWはついに日本でもCセグメントへ、それも同社ならではのFRレイアウトというプレミアム性を備えて、本格的な参入を果たしてみせたのだ。
それまで、BMWのモデルラインアップにおいてボトムラインを支えていたのは3シリーズ。中でも、4ドアセダンよりホイールベースが短縮化されて、リアにハッチバッを備えた3ドアボディで「ti」と名付けられたモデルが、もっともベーシックな存在として位置していた。
このtiは、かつて「02」の時代に存在した「ツーリング」に相当するモデルで、日本では2Lの318tiと、1.8Lの316tiがラインアップされていた。
だが、セダンとは異なる個性的なフロントマスクの印象が強すぎたせいか、もうひとつ広い認知を得るまでには至っていなかった。
そこへ、新型3シリーズに共通する新しいメカニズムが先行開発で投入された1シリーズが、tiを下回る価格設定と斬新な走り味を備えてデビューしたのだから、大いに話題となった。
そして実際に導入された120iに乗ってみても、トルクフルなバルブトロニックエンジン、堅牢なボディ、硬めだが澄んだ乗り心地、正確で接地感も明確なステアフィールなど、その走りにはBMWの魅力が余すところなく生かされていたことが実感できた。
前後50:50の重量配分とFRの駆動方式にこだわり、ダブルジョイント式フロントアクスル、5リンク式リアサスペンションなどの凝ったアイテムがふんだんに盛り込まれた1シリーズは、ある意味で「Cセグメントのクルマにとっては、許されざる贅沢」が施されたモデルでもあった。つまり、それだけのプレミアム性が、新生1シリーズの個性として与えられていたのである。
さらに翌年、もっと驚くべきバリエーションモデルが追加される。それが2005年10月4日に日本で発売が開始された、3L直列6気筒エンジンを搭載する130i Mスポーツだ。
手を緩めることのないバリエーション充実の狙い
もとより、新型3シリーズ用への展開も視野に入れて開発されたプラットフォームを備える1シリーズだけに、6気筒エンジン搭載モデルについては、早い段階からその登場が噂されていた。どうやら、凄いモデルが出るらしいぞ、と。
新型となった3シリーズは、1シリーズの導入発表からほぼ半年が過ぎた2005年4月13日に日本で発表されている。マグネシウム合金採用のシリンダーブロックとバルブトロニックメカニズムなどを搭載した待望の新世代エンジン、N52型直列6気筒を搭載したモデルとしては、3Lの330iと2.5Lの325iという2車種がラインアップされた。
この3L自然吸気エンジンはさすがにパンチがあり、330iに乗ってみると驚いた。スタート時の蹴り出しはかなり痛快であったのにもかかわらず、それでいて飛び出し感は巧みに抑えられていて、ジェントルな所作を崩していない。このあたりなどは、さすが3シリーズのトップモデルだと感じられた。
その新型3シリーズの登場から半年で、330i用と同じ3Lストレート6エンジンが、1シリーズの5ドアハッチバックボディに搭載されたわけだ。これには、熱心でコアなBMWファンの人々も含めて、大いに興味をそそられた。
それまで4気筒エンジン搭載モデルしか用意されていなかった新生1シリーズは、Cセグメントのモデルを探していたユーザーたちを数多く引き入れることには成功したものの、6気筒エンジンの良さを熟知する熱心なBMWファンにとっては、もうひとつ素直に受け入れにくい面を備えていたようにも思えた。
それが、革新的で強力な「シルキー6」エンジンを搭載し、1シリーズでは初めての6速MTが導入されたことやアクティブステアリング機構の設定、さらには同シリーズ初となるMスポーツ仕様の標準装備などでエクステリア面も充実。さらに実際に走らせてみれば、そこには過剰感すら漂わせるほどの力強さと、4気筒モデルを大きく上回る別物のダイナミクス性能が実現されていた。
こうなると、導入当初のプライスタグ「487万円」にも説得力が備わり、決して安いとはいえないその価格にもかかわらず「これぞ、まさにBMW」とばかりに、好意的に受け入れられたばかりか、1シリーズというモデルのイメージ付けにも大いなる効果をもたらした。
3Lエンジンは、高回転域まで一気に豪快に回っていく。バルブトロニックの採用によるレスポンスの良さも手伝って、その滑らかな回転フィールが存分に楽しめる。マニュアルシフトを駆使しながら5000rpm以上をキープしている時、クォーンと響く爽快なエンジン音や、レブリミットの7000rpmまで微妙に変わっていくエンジンの伸び感やそのパンチ力。それらに酔いしれて走らせていると、時が経つのを忘れてしまうほどである。
さて、そのようにして5ドアハッチバックモデルから世に出た「1シリーズ」は、今やBMWラインアップのボトムラインを強固に支える存在として大きく成長した。それゆえに、このモデルの基本ボディ形状は、5ドアハッチバックだと思い込みがちである。だが個人的には、今年になって日本にも矢継ぎ早に登場した2ドアモデル、135iクーペ Mスポーツや120iカブリオレの方が、そのたたずまいとしてはむしろ自然で好ましいとすら思っている。
5ドアハッチバック、2ドアクーペ、そして2ドアカブリオレ。なお、欧州仕様では3ドアハッチバックも用意されているが、よくぞここまでのバリエーションをラインアップさせたものだと思う。
BMWとしては、販売台数を伸ばすためという大命題があったはずだし、その拡大のためには、バリエーションを増やさざるをえなかったのも事実だろう。
そういうビジネス的な観点から見れば、5ドアバッチバックモデルを最初に登場させて、その動向を確認してから機が熟してくるのを待ち、いわば後出しのスペシャルメニューとして2ドアクーペ、2ドアカブリオレとして出してきたBMWのやり方は正しい。それに異論を唱えるつもりなどは毛頭ないが、ただ、もし最初に2ドアのクーペやカブリオレから登場していたら、1シリーズという存在が果たしていまどのように認知されていたのだろうか。
心が揺れる持ち味を備えた120iカブリオレの妙
さて今回試乗した1シリーズの最新モデル、120iカブリオレだが、これが実に良かった。日本仕様としては、6気筒エンジン搭載モデルではなく、2Lの4気筒エンジン搭載モデルのみの導入となったのは少し残念だが、実際に走らせてみると、乗る前に抱いていた一抹の不安はきれいに消えてしまった。
カブリオレ化で若干重くなっているとは言え、N46B20B型2L DOHC4気筒エンジンは予想外なほどに力強く、小気味いいサウンドとともに味わわせてくれる走り味は十分なもの。そこに不満は覚えなかった。
オープンモデルとなっても、十分に高いボディ剛性の確保や、前後50:50の重量配分に極力近づけようとこだわるあたりも、さすがBMWならではのクルマづくりである。
先月、135iクーペMスポーツを絶賛した舌の根も乾かぬうちに、という思いはいささかあるものの、オープンモデルを気楽に楽しむためとしても、あるいは本格的なライトスポーツモデルとしても、この120iカブリオレはかなり高い素養を持っていると感じた。
その立脚点のバランス具合が、素晴らしいと思える。3Lパラレルツインターボエンジンや、3Lバルブトロニックエンジンがもたらしてくれる豊穣感に富むダイナミクス性能とはまた異なる、カブリオレに求められるであろう走り味として十二分に満足できる楽しさを備えている。
もちろん、オールマイティなクルマではない。電動式のソフトトップ機構が占めるスペースは決して小さくなく、リアシートは大人2人が常に実用とするにはやや窮屈である。ラゲッジルームも、幅はあるが深さはどうしても不足気味だ。しかし、実用車をもう1台持てるのであれば、こういう選択肢もありだなと空想させるほど、120iカブリオレの走りは良かったのだ。
個人的なお気に入り度という観点から見れば、この120iカブリオレというモデルは135iクーペMスポーツを抑えて、1シリーズラインアップにおけるオーバーオールウイナーとなるかもしれないと思う。
ただ、135iクーペ Mスポーツのどこまでも扱いやすく、そして刺激に満ちたその走り味も、それはそれで大いに魅力的だ。
とくに今回試乗したモデルには、オプションのアクティブステアリング機構が装備されており、その操舵感も高速道路での巡航時にやや敏感かなと思わせる点があったくらいで、一般道やワインディングにおいては不自然さはほとんど感じられず、むしろ扱いやすさの面の方が大きく感じられたくらいであったので、選択の悩みはさらに増す。
それにしても、あのハイパワーを小ぶりなボディでバランスさせている点はさすがで、よりピュア度の高いスポーツモデルとして見た場合には135iクーペMスポーツという存在にはとても心惹かれる。そして130iMスポーツは、高いレベルでの実用性を確保しながら、豪快さだけでなくよりディテールにこだわったリニアな反応を繊細に楽しませてくれる存在だと感じる。
いずれにせよ、135iクーペMスポーツと120iカブリオレという新しいモデルが登場したことで、1シリーズの魅力はこれまでよりもはるかに大きく膨らんだ。また、この2台のニューフェイスを見てから5ドアハッチバックモデルを眺めてみると、そのきちんと実用性を確保したパッケージがなんだか生真面目過ぎるようにも感じられてしまう。
だが、その選択肢の豊富さも含めて、1シリーズという存在がこれからもBMWの新しい顧客を開拓するという役割を果たしていくであろうことは、間違いないと思う。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2008年6月号より)
BMW 130i Mスポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4240×1750×1415mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1450kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:265ps/6600rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:495万円(2008年)
BMW 135iクーペ Mスポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4370×1750×1410mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1530kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:538万円(2008年)
BMW 120iカブリオレ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4370×1750×1410mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1530kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:156ps/6400rpm
●最大トルク:200Nm/3600rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:434万円(2008年)
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