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【小松礼雄ハースF1代表インタビュー】就任までの経緯と背景「全員が実力を出せる環境づくり」を念頭にした組織改革と今季の目標

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【小松礼雄ハースF1代表インタビュー】就任までの経緯と背景「全員が実力を出せる環境づくり」を念頭にした組織改革と今季の目標

 1月10日、マネーグラム・ハースF1チームは、これまでエンジニアリングディレクター務めてきた小松礼雄氏がチーム代表に就任したことを発表した。小松氏の昇格と、ハースF1の創設時からチームを率いたギュンター・シュタイナーの離脱に驚いたファンも多かっただろう。

 2023年はコンストラクターズ選手権において最下位に終わったハースだが、そもそもエンジニアリングに関わってきた小松氏はどのような経緯でチーム代表に就任したのだろうか。そしてF1のなかでも特殊な運営方式のハースを、これからどう立て直していくのか。代表に就任してから仕事の内容は大きく変わり、その量も山積みだというが、2024年シーズン開幕を前にオートスポーツwebの取材に答えた。

ハース小松代表「私は政治的なかけひきをしません。全員と話をする」チーム代表交代の狙いとオーナーの強い期待

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──まずはチーム代表に就任することになった経緯を教えてください。

小松礼雄代表(以下、小松):チームオーナーであるジーン・ハースの判断です。時期としては昨年の12月末で、ジーンがこれまでの成績を見て、思ったほどチームが成長していないので何かを変えなければならないと考え、組織を変えるためにはトップを変えることが必要だと考え決断しました。

──組織を変えなければならないという話はいつから出ていたのですか?

小松:ジーンは短い期間で決断したのではなく、少なくとも2023年シーズンの後半はずっと考えていたのではないでしょうか。彼は中団で戦いたいと思っているし、そうできる力があると信じています。それなのにチームがコンストラクターズ選手権で最下位というところまで落ちているのを目の当たりにして、彼だって恥ずかしいわけです。徐々にフラストレーションが溜まっていったのだと思います。

──新しいチーム代表を外部から連れてくるという選択肢はありましたか?

小松:最初はジーンもそうすることを考えていたと思います。非常に重要なポジションなので、そういう役職に関わったことのある人でないと、というのはあったでしょうね。でもそこで何が問題かというと、ハースというチームはフェラーリとの提携があったり、拠点がイギリスとイタリアにわかれていたりと、チームの運営方式が特殊です。この方式のなかでどうやっていくか、あるいはどう方式を変えていくのかということを考えるには、今チームがどういう状況にあるのかをしっかりとわかっていないと難しいです。外部から人を連れてくるとなると、その人がチームを理解するのに時間がかかるので、チーム内部の人間で現状を理解している人でなければならないとジーンのなかで結論に至ったのだと考えています。

 外部から人を連れてくるとするならば、候補には誰がいるのか、その人はいつからハースで仕事を始められるのか、といったような問題もあります。たとえ同じ運営方式のチームであったとしても、働き始めてチームのことを理解するまでには時間がかかるし、2024年シーズンを棒に振る可能性もあります。チームを改善する前に、もっとごちゃごちゃになることもありがちです。うちの特殊な環境を考えると、できるだけ早くチームを改善するために外部の人を起用するというのは難しかったのだと思います。

 外から人を連れてくるのも、チーム内部の僕を昇格させるのもギャンブルです。僕はチームのことはわかっていますが、ずっとエンジニアリングに関わってきたのでチーム代表の経験はありません。どちらを取るか判断するにあたって、ジーンはどうして組織が機能していないのかを考えたときに、今まで何が起きていたのかを知っている人間ならそこから学びチームを改善できそうだという判断で僕を選んでくれたのではないでしょうか。

──代表就任が決まってから、前代表のギュンター・シュタイナーとは何か話をしましたか?

小松:現時点では何も話していません。ギュンターは人間としてはまったく悪い人ではなくて、むしろ僕の方が薄情な人間だと思うくらいです。彼はすごくよく僕の面倒を見てくれて、情に厚い人間で、何度もふたりで食事にも行きました。もちろん食事をしながら仕事の話をすることもありましたが、ひとりの友人として家族の話をしたり、仕事の話をしないことも多かったです。僕たちはふたりともおいしいものが好きなので、よさそうなお店を見つけると「じゃあ、そこに行こう」という感じでしたね。単なる上司と部下という関係ではなかったので、こういう形でギュンターがチームを離れることになったのは残念です。

──チーム代表になってから仕事は変わりましたか?

小松:大きく変わりました。今いちばん肝に銘じているのは、『具体的な目標を設定して、その目標に向かってチームとしてどう進むのかを明確に示し、それをチームの全員に浸透するように伝えること』です。もし状況が変わって目標ややり方を変えなければならない時は柔軟に対応し、それもその都度伝えなければいけません。これはチームメンバーにも話したことですが、このチームには優秀な人がたくさんいますが、今はその人たちが力を発揮できる環境ではないと僕は考えているので、全員が力を発揮できる環境づくりというのを念頭に置いています。自分がどういうふうにチームに貢献できているのかをわかったうえで仕事をするのと、人に指示されたから仕事をするのでは違うと思うので、どう貢献できるのかをわかってもらえるような環境を作りたいです。

 これまでと同じでやることは山積みですが、技術的なことよりも、やっぱり組織改革です。今までどうしてうまくいかなかったのかというと、コミュニケーションラインだったり、コミュニケーションをとる手段がなかったこともあったので、そういうことにも取り組み始めています。すぐに変えられるものもあるし、まだ変えられないものもあります。人事に関しても同じですが、すでに報道されているとおり、この一環でテクニカルディレクターを務めていたシモーネ・レスタはチームを離れました。

──イタリアの拠点にも足を運ぶことが増えそうですね。

小松:もちろんイタリアにも行きます。僕はイギリスのファクトリーの人間なのでこちらのスタッフはよく知っていますが、これから代表としてやるにはイタリアの人たちともっと親密な関係を築かないといけないですね。イタリアではクルマの設計と空力を担当していて、それがクルマの速さに関わってくるので、そこの人たちときちんとした関係を築き、フランクで正直に話せるようにならないとうまくいかないと思います。

 さっきも言ったようにコミュニケーションラインの改善などは始めましたが、それだけではなくて、それを機能させるための組織を紙の上で作ったところです。人と人の信頼関係がなければダメなので、それら両方が必要です。まだそれを築いていくための第一歩を踏み出しただけですが、それをやるチャンスがあるというのはありがたいことです。

──チーム代表になったからといって、ひとりで仕事をするわけではないということですね。

小松:僕がひとりで何かをやるのではなく全員でやる、とチームには言っています。僕の役割はチームの明確な目標と方針を示し、きちんとコミュニケーションをとって、みんながすべてを出し切れる環境を作ること。リーダーシップとはそういうものだと考えています。僕が空力のスタッフに「開発の方向性をこうしろ」と言っているようじゃダメです。クルマの性能は誰が担当する、空力はこの人が見るというのを決めるので、その人たちの実力を信じて力を発揮できる環境を作るのが仕事です。そのために必要なことがあれば僕に言ってくれと伝えました。コミュニケーションには気を使いますが、それでもこのチームがどこに向かうのか、どうしてこんなやり方をしているのかと思うことがあればどんどん言ってくれ、と。それが浸透するまでどれくらいかかるのか、今はまだわからないですけどね。

──2024年シーズンの目標や、コンストラクターズ選手権でどれくらいの順位を狙っているのか教えてください。

小松:その程度か、と思われるかもしれませんが、8位です。2023年は最下位だったので他の2チームに勝たなければいけないのですが、今のチームの内情を考えると勝てる要素がありません。小さいチームで他より予算が少なくて、チームとして体制が整っていなかったら、戦えるわけがないんです。だからなるべくして10位になりました。そこから他の2チームを倒すところまでいくのはすごく大きなことです。

 他力本願ではなくて自力で他の2チームを追い抜くのは、僕のなかでは大変なことだと思っています。9位のアルファロメオ(編注:ザウバーは2024年はステークF1チームとして参戦)も7位のウイリアムズも、うちより予算があって体制も整っています。8位のアルファタウリもシーズン後半戦にあれだけよくなりましたし、今年はレッドブルとの提携を強化するとのことなので勝負にならない可能性があるかもしれません。2024年はハースにとって過渡期になりますが、それでもチームを変えつつ成績を出さないといけないので、8位になれたら上出来でしょう。将来的には8位にとどまるつもりはありませんが、今年は再建の1年です。チームを立ち上げる時からいたギュンターが離れたので、ゼロからの再スタート、将来中団で戦うための最初の一歩になります。

 プレシーズンテストまでもう1カ月もありませんが、バーレーンに持っていくクルマはまだ最下位だと考えています。それは空力担当のスタッフたちが悪いのではなくて、今までの判断のタイミングで開発の時期が遅れているので、彼らにはあまり時間がなかったのです。だからテスト段階でのクルマの絶対的な速さより、テストでそのクルマの評価をしっかりとして、開発の方向性を示し、そこから効率よく動いていくということが大事だと考えています。

 代表就任を発表してから、少なくともイギリスのファクトリーでは僕が想像していた以上にみんなの反応がよくて、前向きでエネルギーを感じられるのが嬉しいです。これまでいろいろな立場の人がいろいろなフラストレーションを抱えていたんだなと。ですから共感してくれているところが多くて、やっと変われると思ってくれているところもあるようです。とにかく、このチームのみんなとチームをよくしていく機会があることが嬉しく楽しみです。

──ありがとうございました。

Profile:小松礼雄(こまつあやお)
1976年生まれ、東京都出身。F1エンジニアを目指して渡英し、自動車工学を専攻してラフバラー大学を卒業。大学院を経て、イギリスF3に参戦していた佐藤琢磨とも知り合い、2003年にBARホンダに加入。タイヤエンジニアとして頭角を表し、2006年にルノーF1でレースエンジニアとなる。2012年にロマン・グロージャンの担当トラックエンジニアとなり、2016年にグロージャンの勧めもありハースF1に移籍。トラックエンジニアからチーフエンジニアへと昇格し、2019年にはレース現場責任者のディレクター・オブ・エンジニアリングとなる。2024年1月に日本人としては自チーム、メーカー系以外で初のF1チーム代表に就任。


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