3月17~19日に開催された2023年NASCARカップシリーズ第5戦『アンベター・ヘルス400』は、ひさびさの快走劇を展開したブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)を最終周のバックストレッチで仕留めた王者ジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が、結果的にポール・トゥ・ウインを決めて今季初優勝。一方、前戦フェニックスでボンネットルーバーの規約違反疑惑が掛かり、継続審議とされていたヘンドリック・モータースポーツ(HMS)陣営には、この週末を前にカップ史上最大の罰金額とポイント剥奪の裁定が下り、レースでも後方に沈む結果となっている。
同じくフェニックスの最終周に“犬猿の仲”でもあるロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)との攻防で「相手を故意に壁に押しやった」としてデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)に対し5万ドルの罰金と25ポイント剥奪のペナルティが課されるなど、今季も諍いが絶えないカップシリーズだが、最大のニュースはHMSに対するNext-Gen車両の規約違反を認める声明だった。
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そのリリースは「フェニックスでの金曜日に、NASCARはガレージが開いてからの35分後、トラック上での活動を前にした自主検査中に、レースカーのルーバーに関して不特定の潜在的な問題を特定しました」との文言で始まった。
「NASCARは事前連絡なしに、約4時間後に当該部品を受け取りましたが、土日の予選セッションや決勝レースには影響しません。今後数日間で精細な検証を進める予定です」
■ヘンドリックは裁定に不服。上訴の構え
そして明けた水曜に「ルーバーには看過できない改変」があったとして、HMSの全4台にペナルティが言い渡され、各クルーチーフへの10万ドル(約1325万円)を含む総計40万ドル(約5300万円)の罰金と、全4台が10点のプレーオフ得点を含む計100点、そして負傷欠場中のチェイス・エリオットを除く3名に対し各100点の没収という厳しい判断が下された。
この裁定に対し「義務付けられた単一ソースのサプライヤーを通じてチームに提供されたルーバーが『NASCARによって承認された設計と一致しない』との判断は、制裁機関による一貫性のない不明確なコミュニケーション」だと失望を表明したHMSは、このアトランタ戦を前に上訴する意向を発表。しかし各クルーに対する4戦の出場停止処分の延期は求めず、週末は全車ともにチーフ不在の状況で戦うことを余儀なくされた。
こうして始まった1.5マイルオーバルの勝負は、その裁定に引きずられたかのようにシボレー陣営が沈黙。予選でも上位8台がフォード勢という意外な展開となり、僚友オースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)やライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)らを従えたNext-Gen時代の新王者ロガーノがポールを手にする。
こうしてトップ3を固めたチーム・ペンスキーが決勝序盤も支配し、ロガーノはスタートからの63周をリードして最初のステージを制覇。続くステージ2もシンドリックの背後でコントロールラインを通過していく。
しかし最終ステージではやはりドラマが発生し、今季限りの勇退を決めているケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が初めてリードを奪った1周後。190周目に背後についたチャスティンの影響でその2014年王者がバランスを崩すと、都合14台を巻き込む“ビッグワン”の引き金に。その中にはここまで2週連続勝利を飾っていたウイリアム・バイロン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)も含まれていた。
■「できることはすべてやった」と惜敗のケセロウスキー
「1号車(チャスティン)がターン1で4号車(ハーヴィック)に接近し、押したかどうかはわからないが4号車がルーズになった。それはレースのほんの一部だが、すべての現実だ。実際に僕らが管理できないことで、そこまではトップ5を走って、やるべきことをすべてやっていたんだ」と、インフィールドのケアセンター強制搬送後に語ったバイロン。
その19周後には、リーダーに立っていたアリック・アルミローラ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)のパンクチャーを契機にターン4で5台が巻き添えとなり、カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)もここでレースを終えてしまう。
「行くところがなかった。誰もタイヤの問題を抱えていなかったし、10号車(アルミローラ)が目の前でそうなるとは予想していなかった。もしそうでも反応する時間はなかったし、ついに前に出るタイミングでDNFなんて……ただただ、イライラする」と悲嘆に暮れるラーソン。
こうして最終盤に向け、260周のうち140周をリードしたロガーノに喰い下がったのはセカンドロウ4番手発進だったケセロウスキーで、ここまで47周のリードラップを記録して最後の2周へ。
このバックストレッチでクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)からのプッシュを受けたロガーノは、ドラフトの勢いを維持してアウト側からケセロウスキーに迫ると、そのまま首位奪還に成功。残るふたつのターンではボトムラインに移って後続の行く手を塞いだチャンピオンが、フォード勢の今季初勝利と自身アトランタ初優勝となる、カップ通算32勝目を手にした。
「そうさ、僕にとってここで勝つことは本当に特別なことなんだ!」と喜びを語ったロガーノ。
「僕はここで父と1/4マイルオーバルで腕を磨いた。ある意味で原点回帰であり、楽しい時間を過ごしたここにはたくさんの思い出が詰まっている。さらに大きなトラックで戦うことを夢見たし、最終的に勝てたことは個人的に大きな意味があるよ」
一方、惜敗の2位に終わったケセロウスキーも、落胆を見せつつ「終盤のレースの質には満足している」と述べた。
「このレースのもっともクールな点は、ふたりのベテランが並んでバンプドラフトを実行し、フィールドを破壊しない態度を示したことさ」と続けたケセロウスキー。「敬意を持ってレースをすれば、こういう素晴らしいレースは起こり得る。 みんなよく頑張ったと思う。僕らは勝利のすぐそばにいた。チームと努力を誇りに思うし、できることはすべてやったさ」
同じくスタートと最終盤で混乱の展開を見せた、併催のNASCARエクスフィニティ・シリーズ第5戦『ラプター・キング・オブ・ザ・タフ250』は、開幕連勝のオースティン・ヒル(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)が早くも今季3勝目をマーク。
一方のNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第3戦は、最終周からのリスタートを制した22歳のクリスチャン・エッケス(マカナリー・ヒルゲマン・レーシング/シボレー・シルバラードRST)がキャリア通算2勝目を飾り、服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライズ(HRE)は、16号車タイラー・アンクラム(トヨタ・タンドラTRD-Pro)がそのラストラップの攻防でマルチクラッシュの犠牲となり、無念のリタイアに終わっている。
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