1974年に初代が登場して以来、45年間で累計3500万台が生産されてきたコンパクトカーのベンチマーク、ゴルフ8代目がいよいよ公道を走り始めた。フォルクスワーゲン(VW)が急速にEVへの舵を切るなか、大黒柱としての存在価値、その在り方も大きな転換点を迎えているのか。まずは第一報に耳を傾けてみよう。
まさに革命的なデジタライゼーション
新型「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を早くもユーロNCAPがテスト! その結果は?
VWゴルフのフルモデルチェンジといえば、言わずもがな、その後のCセグメントのあり方を大きく左右する一大事である。
それはスタビリティやハンドリング、コンフォートといったダイナミクス全般のみならず、近年では静的質感やインフォテインメントに至るまでのアベレージが一段上がることと同義であり、そういう意味ではカスタマーのみならず、世界中の自動車エンジニアが注目する――といっても過言ではない。
ところがゴルフが8世代目へとフルモデルチェンジする今この状況をみていても、これまでほどの大きな話題にはなっていないように窺えなくもない。ライバル車のレベルアップもあり、そしてディーゼル問題にまつわるブランドイメージの低下もあり……と、幾つかの理由は思い浮かぶが、最も端的な理由はVW自身が大胆なEVシフトに傾いているからだろう。
実際、フランクフルト・ショーで大々的にワールドプレミアと相成ったID.3はさながら次世代のゴルフが約束されたかのようなデザインやサイズで、その約1カ月後に登場したこのゴルフVIIIの鮮度を奪ってしまった感もある。一方のゴルフVIIIは後にPHEVやCNGの追加は公言されるが、当面の目新しいパワートレインといえば従来の1.5LガソリンユニットをベースにVのベルトスタータージェネレーターを組み合わせるマイルドハイブリッドのeTSIしかない。
VWは大黒柱のゴルフを袖にしてまでEV化に邁進しようというのか。傍目にはそう見えることもあるだろう経営側の熱量とは裏腹に、ゴルフVIIIに携わるエンジニアたちはまったく動じることはなく、このクルマが未来のVWを支える中軸であることに些かも変わりはないと胸を張る。そして、向こう5年先を見ても、この立場がEVに取って代わられることはないとも仰せになる。各社の様々な思惑や駆け引きが飛び交うCASEの時代にあって、もっとも冷静に状況判断できているのが開発や生産の現場――というのはVWに限らず、どのメーカーでも当てはまる話だ。
つまるところ、ゴルフVIIIの最大の変化点は容赦のない車内空間のデジタライゼーションだと思う。欧州仕様をベースに話を進めると、まずすべてのゴルフVIIIには10インチの液晶メーターと、センターコンソール側には8.25インチのインフォテインメントモニターが標準装備となり、オプションのナビ等の装着状況によってセンターコンソール側モニターも10インチの高精細型に拡大される。このインフォテインメントシステムは標準装着となるe-SIMを介してネットに常時接続されており、OTAを介した車両情報のアップロードや機能アップデートのソフトウェアダウンロード、あるいは搭載されるAI対話型ボイスコントロールやAmazon Alexaなどの通信を司るわけだ。
加えてゴルフVIIIにはVWブランドで初となるCar to X通信機能を備えている。これは天候や渋滞などのインフラ情報だけでなく、路上にいる同様の機能を備えたVW車から収集された様々な走行情報を組み合わせて、現実だけでなく予測的な危険情報までも瞬時に共有するものだ。日本ではトヨタが専用周波数帯を使ったITSコネクトを実用化しているが、VWはWLANpと呼ばれるWi-Fi系の通信技術を用いている。Car to X領域は現状仕向によって通信方式が異なるため、ローカライズが非常に難しいものとなっているが、5Gの登場によって通信方式の国際統一が期待されるところだ。しかし、これが本格的に車載されるようになるには、ゴルフを定規になぞらえればIXの世代ということになるだろう。
デジタライズは各種機能の使いこなしにも及んでおり、ゴルフVIIIでは車両機能の大半もインフォテインメント画面を介したタッチパネルで設定することになる。空調やドライブモードなど頻繁に用いる4つの機能は物理式のハザードボタンを囲むようにタッチ式のジャンプボタンを据えるものの、設定項目によっては深い階層を掘り出す必要にも迫られる。シフト・バイ・ワイヤーを採用した内装デザインは、それゆえ非常にすっきりしているが、この操作性がどう受け入れられるかは未知数だ。
ダイナミクス性能は正常進化の領域
大刷新されたこれら電子プラットフォームを内包するゴルフVIIIのプラットフォームは、先代からのMQBモジュールをベースに各部にリファインが加えられた。大きなところでは、フロントアクスルやエンジンを受け止めるサブフレームがアルミ化され、横剛性の強化に加えて約3kgの軽量化を達成。リアサスは150ps以下のモデルではトーションビーム、それ以上になるとマルチリンクと2つのアクスルが使い分けられる。
エンジンは1L 3気筒ターボ、1.5L 4気筒ターボ、2L 4気筒ディーゼルターボを基本にチューニングでバリエーションを設けているが、日本導入時に設定されるのは1.5LのeTSIと2LのTDIのふたつになる模様だ。うち、1.5LeTSIは前述の通り48Vのスタータージェネレーターを用いたマイルドハイブリッドとなり、発進時などの低回転域で最大50Nmのトルクを10秒に渡って加えることができる。2LのTDIは刷新され、尿素SCRの噴出孔を2系統としてNOx成分の大幅な削減に成功したという。
そのどちらであっても、ゴルフVIIIの走りは変わらず低回転域から軽快だ。環境性能とのトレードオフか、eTSI、TDIともにトップエンドのパワーの伸び感が若干物足りない感はあるも、0.275の低いCd値がそれを補い高速域でも粛々と速度を乗せていく。側方はもちろん、下回りは風切り音のみならずロードノイズ系もよく整理されており、車内は120km/h巡航でも至って静かだ。
低速域ではわずかに硬さも窺えた乗り心地も、速度が乗ると共に入力の受け止めも柔らかくなり俄然フラット感が増してくる。先代はフロントカウル周辺に若干振動が溜まるような特性も感じられたが、ゴルフVIIIではボディの減衰もすっきりしたものになった。総じての印象としては、先代に対して劇的な進歩はないものの、各部がブラッシュアップされた結果、ライバルの追従を迎え撃つ体制が整えられたかというところだ。
ゴルフVIIIにおいてはダイナミクス強化も進化の項目に掲げられており、その一環として電子制御可変ダンパーをESCのセンシングと連携させ、路面入力や姿勢変化などの負荷に応じて各輪独立で緻密なダンピング制御が施されるドライビングダイナミクスマネージャーがオプションで用意される。XDSとの連携によりハンドリングのシャープネスを高めたという触れ込みだが、作為的なゲインは感じられず、自然に躾けられているあたりはVWのクルマづくりの姿勢の現れだろう。また、ADASの進化は著しく、レーンキープアシストとACCの連携ではライントレースの滑らかさや車間調整のレスポンスなど、セグメントの水準を確実に凌駕している。
SUVの隆盛やプレミアムブランドの参入もあってCセグメントハッチバックを取り巻く市況は厳しさを増している。そんな中、ゴルフVIIIはセグメントリーダーであり続けるため、VWの大黒柱であり続けるために大胆なデジタルシフトを敢行した。成否は市場に委ねられるも、この勝負に勝てば顧客のリフレッシュと共にCASE領域で少なからぬ優位を築くことになるだろう。ゴルフVIIIは色々と興味深い示唆に富んでいる。
ゴルフVIIIとID.3の競合はある程度は避けられない(リポート=木村好宏/Y.Kimura)
8代目ゴルフの外観を見て最も驚いたのは、ボンネット上と、ボディをグルリと一周するプレスラインだ。これまでのトップは、シンプルでクリーンなサーフェスに賛同してきたからだ。また、歩行者保護対策と軽量化に向けてボンネットがより柔らかくなったことで、その内張りやダンパーは廃止されている。明らかなコストセーブだが、こうした代償がなければ標準でフルデジタルディスプレイやLED ライト、さらにはC2Xなどのハイテクを装備することはできなかっただろう。ただ、こうした判断は以前のVWでは考えられなかったことで、世代交代は確実に進んでいる。
ところで最大の関心事は、ほぼ同時期にVWディーラーに並ぶゴルフVIIIとID.3の関係だ。VWのナンバー2、ラルフ・ブランシュテッターは「基本的にゴルフを選ぶユーザーはロイヤリティの高い人たちです。安定した台数は売れるでしょうが、ある程度の競合は避けられない」と告白した。そして「それは世の中の環境意識の高まりを意味し、我々はそれにID.3で応えなければならない」と締め括った。
VWのナンバー2であるラルフ・ブランシュテッター氏。ID.3との関係について明快に答えてくれた。
(リポート=木村好宏/Y.Kimura)
【Specification】フォルクスワーゲン・ゴルフ1.5TSI[1.5eTSI]『2.0TDI』
■全長×全幅×全高=4284×1789×1456
■ホイールベース=2636mm
■エンジン種類=直4DOHC16V+ターボ『直4DOHC16Vディーゼル+ターボ』
■総排気量=1498cc『1968cc』
■最高出力=150ps(110kW)/5000-6000rpm『150(110)/3500-4000』
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/ 1500-3500rpm『360Nm(36.7kg-m)/ 1750-3000rpm』
■燃料=プレミアム『軽油』
■トランスミッション形式=6速MT[7速DCT]『7速DCT』
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後トーションビーム/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後ディスク
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