愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第29回の前編。俳優の三上博史さんが人生初のマイカーと久しぶりに再会した!
免許取得の意外なきっかけ
俳優の三上博史さんは、撮影現場でかつての愛車ヴァンデン・プラ「プリンセス」を見つけると、「懐かしいなぁ」と、頬を緩ませた。
「僕が乗っていたクルマは、紺のボディカラーにゴールドのラインが入っていたんですが、編集部から撮影車両が見つかりました、と、事前に送ってもらった写真を見たときには、懐かしくて涙が出そうになりました。僕は1台のクルマに長く乗るタイプなので、1台に詰め込まれた思い出が多いし、またそれが重いんでしょうね」
20歳で買ったヴァンデン・プラ プリンセスから、現在の愛車まで、三上さんが個人で所有したクルマは4台だけだ。ここでは1台ごとの思い出を振り返っていただこう。
高校生の頃、原動機付自転車免許を取り、18歳になるとすぐに普通自動車免許を取得したという。三上さんが、免許取得に至ったエピソードがおもしろい。
「当時、年上の彼女と付き合っていて、富士スピードウェイに行こうということになったんです。彼女の運転で行ったわけですが、徹夜で行ったので帰りに彼女が、眠いからお前が運転しろと言い出して(笑)。いや、免許持っていないよ、というところから免許を取ろうと思ったような記憶があります。それにしても、すごい彼女だった(笑)」
そして20歳のときに、初めての愛車、ヴァンデン・プラ プリンセス、通称“ヴァンプラ”を手に入れる。20歳の青年が手に入れるにしてはかなり渋い、通好みの選択だ。三上さんは、どこでヴァンプラと出会ったのだろう。
「それが、全然覚えてないんですよ。申し訳ないぐらい、どこで見つけたのかも思い出せない……。クルマ雑誌を見るタイプでもないし、メカにも興味がないし、もちろんネットもない時代でした。僕はすごく記憶力に自信がないんですけれど、ある人からそれは“俳優あるある”と、言われました。嘘をホントにして、ホントを嘘にする商売だから、記憶がゴッタゴタになるのかもしれませんね。『あれ? この思い出は役で演じたときの記憶だっけ?』というのもありますし」
ここで、ヴァンデン・プラ プリンセスというクルマについて説明を記したい。このクルマは簡単に言うとオリジナル・ミニの兄貴分にあたるモデルだ。
1950年代、スエズ動乱に端を発するエネルギー危機に直面したイギリスでは、経済的なコンパクトカーが求められた。こうして、1959年に革命的な小型車オースティン「セブン850」が発表される。1962年に、ミニと改称されるこのクルマの開発コードナンバーは「ADO15」だった。
ADO15の基本レイアウトはそのままに大型化し、ディスクブレーキやハイドロラスティックサスペンションなどの先進機能を備えたのが、1962年に登場したオースティン「1100」で、コードナンバーはADO16となる。デザインを手がけたのはピニンファリーナで、端正な美しさと室内の広さを両立している見事な造形だ。
そしてADO16の最上級版として、1963年にヴァンデン・プラ プリンセス1100がデビューした。このクルマは、いわゆる小さな高級車のはしりだ。混雑したロンドン市街を走るには、大型リムジンよりもコンパクトカーのほうが便利。そこで、普段はロールス・ロイスの後席に収まっている人も納得できるよう、ADO16の内装をウォルナットとレザーで誂え、前席バックレストにピクニックテーブルを装備したヴァンプラが生まれた。
ヴァンデン・プラ プリンセス1100は排気量1098ccの直列4気筒OHVを搭載、1967年に排気量が1275ccに拡大され、車名もヴァンデン・プラ プリンセス1300に改めている。
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ヴァンプラをどうやって見つけたかは思い出せないという三上さんであるけれど、納車された日のことはよく覚えているという。
「当時、原宿に住んでいたんですが、『クルマが来たよ』って友だちを誘って、浅草に行きました。原宿から浅草までが、最初のドライブです」
クルマ雑誌も読まないし、メカにも興味がないけれど、運転は大好きだったという。
「当時は、自分でヴァンプラを運転して現場に行ってました。連続ドラマの撮影は湘南方面が多かったので、第三京浜から横浜横須賀道路に入って、朝比奈(インターチェンジ)で降りて鎌倉方面に行く、というルートが定番でしたね。現場に着くといつでも移動できるように制作の方に鍵を預けるんですが、しょっちゅう機嫌が悪くなる子だったので、スタッフに押してもらったり、迷惑をかけたことを覚えています。いま思えば“こんなクルマに乗って来るんじゃねぇよ”ということなんですが(笑)」
撮影現場までの行き帰りの車中での思い出は、セリフの練習をしたことだという。
「ヴァンプラはラジオとカセットしか付いていなかったので、音楽を聞いたという記憶はあまりないですね。撮影の現場でも、セッティングチェンジの合間、合間に、ヴァンプラの車内でセリフを覚えていた記憶があります」
撮影が終わってヴァンプラに戻るとホッとしましたか? と、訊くと、三上さんは首を横に振った。
「仕事が終わって、“さぁ帰ろう”とヴァンプラに乗り込んでも、くつろぐ感じはなかったですね。いつ止まるか、いつもヒヤヒヤしていたんで(笑)」
では、ヴァンプラに大きなトラブルはなかったのか? 「これも記憶が曖昧で申し訳ないんですけど」と、苦笑しながら、エピソードを披露してくれた。
「ハチ公の前、渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で止まった覚えがあります。信号が変わって、交差点でヴァンプラを押したような記憶もあるんですが、そのあとどうしたのか、まったく覚えていないんです。すぐにエンジンが掛かったのかもしれないし、JAFを呼んだのかもしれないけれど、ホント、記憶が曖昧で……すみません。ドラマや映画の発表会で、スパッと1行でキャッチーなフレーズを言える人っているじゃないですか。ああいう人をいつもすごいなぁと思いながら見ているんです。僕の話はつかみどころがないですよね……」
いえいえ、話からは、飾り気のない性格と、実直な人柄が伝わってきます。
後編となる次回は、ヴァンプラ以降の愛車とのエピソードを届けたい。
三上博史(みかみひろし)東京都生まれ。高校在学中、オーディションで寺山修司に見いだされ、寺山自身が監督・脚本を手がけた、フランス映画『草迷宮』(1979)に主演し俳優としてデビュー。1987年公開映画『私をスキーに連れてって』(馬場康夫監督)で脚光を浴び、その後『君の瞳をタイホする!』(1988)など数々のドラマに出演し一世を風靡する。一世を風靡する。映画では『スワロウテイル』(1996、岩井俊二監督)などに主演、舞台では寺山修司没後20年記念公演『青ひげ公の城』(2003)などに主演。映画、ドラマ、舞台など多岐にわたって活躍している。2024年1月9日(火)から14日(日)まで紀伊國屋ホールにておこなわれる寺山修司没後40年記念公演『三上博史 歌劇』(https://www.mikami-kageki.com/)の主演を務める。
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文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・赤間賢次郎 スタイリング・勝見宜人(Koa Hole inc.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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