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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第13回

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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第13回

日産とのコラボレーションが水面下で進むなか、富田は事実上のトミーカイラ1号車というべきモデルを開発していた。のちにトミーカイラM19としてデビューするM・ベンツ190Eベースのチューニングカーである。当時人気を博していた“コベンツ”をベースカーとして選んだあたりに、AMGを日本に紹介した富田のビジネスセンスが伺える。2.3リッター版と2リッター版の両方を開発したが、性能にほとんど差がなかったため、結局、2リッターのみのデビューとなった。

この頃、富田は中古車展示場を豪華なショールームに立て替え、“夢工場”と名付けている。会社も「トミタ夢工場」へと改名した。1986年のことだ。

FF化を果たした新型1シリーズ、M135i xDrive そこに駆け抜ける歓びは残っているか?

日産との初コラボとなった、サニー20周年記念モデル。メーカーの公認車としての最初の1台でもある。富田はM19を好んで乗った。都合10年以上にわたって手放さなかった。気に入っていたのだ。面白い逸話がある。富田はトミーカイラブランドの拡販を狙って、夢工場の全国FC化を考えていた。M19が完成したころ、FC1号店が福井県敦賀市にできたのだが、富田は開発車両のM19でよく往復した。

ある雨の夜、敦賀からの帰りに富田はM19で京都を目指し北陸道をかっ飛ばしていた。前を、おそらくは片山津温泉あたりからの帰りだろう、大型のメルセデスベンツが4、5台列なって走っていた。富田は何気なく彼らをぶち抜くと、突然、パッシングの猛攻撃にあった。

行われた変更は、ストライプの追加やホイール、ステアリングなどの最小限の変更のみ。おそらくはヤクザ者のAMGだったのだろう。すさまじい勢いで迫ってくる。富田は自ら手がけたM19の“総合性能”に賭け、逃げに逃げた。ウェット路面が幸いしたのか、アッという間に差が開いた。

トミーカイラM19が本家のAMGに“勝った”のだった。

記者会見も行い、当時の日産自動車社長から、全国のディーラーのトップが集まりお披露目された。もちろん、全国のディーラーから発売もされた。日産との初コラボはトラッド・サニー日産との初協業はサニーの20周年記念モデルだった。自動車メーカーにチューニングやドレスアップの話などまるで通じない時代、富田はあえて実用車のサニーをベースとしたフルチューンモデルを提案したのだ。日産にチューニングカーの魅力を知ってもらうための、言わばショック療法である。

結局ヨーロピアンコレクションとして発売され、幻に終わったハルトゲ・スカイライン。サニーと同じくストライプをあしらい、トミーカイラブランドへの下地を作ろうとしていたことが伺える。紺色のトラッド・サニーにブルーバード用2リッターエンジンを押し込み、アシ回りは解良が徹底的にチューニング。ボンネットとフェンダーは日産車体がアルミニウムで製作したものだった。

中古車屋のオヤジが提案する、当時はまだ社会的にも御法度のチューニングカーを、日本を代表する大メーカーの日産が協力して製作する。結局、フルチューンのライトウェイトサニーは時期尚早として日の目を見ることはなかったが、日本におけるチューニング史に一石を投じた出来事だったことは間違いない。

サニー20周年記念モデルは、ホイールとステアリングホイール、マットをトミーカイラデザインとし、ストライプを入れただけの、ドレスアップ車とも言いづらい仕様に落ち着いてしまったが、日産本体が外部の提案を受け入れたモデルを販売するという快挙に業界からも驚きの声があがった。歴史の歯車がゆっくりと動きはじめたのだった。

トミーカイラの開発1号車となるトミーカイラ・M19。写真は発表にこぎつけた2リッターモデル。トミーカイラサニーはビジネス的には成功したとは言えなかった。さほど売れなかったのだ。ステアリングやホイールなどの開発費さえ回収できなかった。零細企業が大企業と向こう見ずに協業するととんでもないリスクを背負いかねないということを、富田は痛いほど味わったのだ。

スカイラインの開発に関わった?!もう1台のプロジェクトはプリンス自販との協業で実現した「7thスカイラインGTS」ベースのハルトゲ・スカイラインになるはず、だった。けれども後に登場したのは、「ヨーロピアン・コレクション」という名の特別仕様車である。

初期の夢工場で撮影された1枚。左からM19、サニー20周年記念モデル、ハルトゲ・スカイラインが並んでいる。日産と契約した富田は、実はこのとき、トップダウンで特別待遇を与えられていた。7thスカイラインの派生モデル、のちに2ドアスポーツクーペとなる新型車の外部開発責任者のような立場で、厚木のNTC(日産の総開発拠点)に何度も足を運んでいた。

4ドアの7thスカイラインは、当時のハイソカーブームを意識し過ぎたデザインで不評を買っていた。2ドアモデル(GTS)で何とか汚名返上したい。そこで富田たちが起用されたのだった。とはいえ、富田たちがGTSを見せられたのは、発売前とはいえもうほとんど開発も終わろうとしていた頃で、エクステリアの大幅な変更など不可能だった。富田は主にインテリアに、解良はアシ回りに、それぞれ注文をつけた。たとえば、スピードメーターの色やスポーツシートの生地は富田のアイデアだった。

通常なら1カ月はかかるような決断を、トミーカイラコンビは臆することなくその場で行なった。決断を早めれば効率がよい。効率がよければ開発期間が短縮される。短縮されればコストが下がる。今では当たり前のことだが、当時の大企業には驚きだった。

小さな外部の風が、大企業を変えようとしていた。

幻のハルトゲ・スカイラインスカイラインGTSの開発に関わったトミーカイラコンビだったが、軟弱になったセダンのイメージを一新するためには、もっと強力なカンフル剤が必要だと思った。そこで富田が思いついたのが、ハルトゲブランドでスカイラインのチューニングカーを開発するというアイデアだった。

富田の具体的な提案は、輸出用の3リッター直6エンジン(RB30)ブロックに2リッター(RB20DE)用ツインカムヘッドを載せてNA(自然吸気)ながら230psを発揮する直6を積んだ「ハルトゲ・スカイラインHS30」というコンプリートカーの製作だった。エクステリアにはエンブレムやアルミホイール、リアスポイラー、ストライプなどハルトゲパーツをあしらっていた。

もっとも、富田はこの提案を日産やプリンス自販がすんなり受け入れるとは思っていなかった。お上(=当時の運輸省)に忠実な大メーカーが、公認チューニングカーの製作を認めるはずもなかったからだ。当然、この提案に興味を示した日産本体の人間は少なかった。

何とか大メーカーに刺激を与えたい。富田にはその一念しかなかった。ところがこの頃から、富田を取りまく日産社内の雰囲気に少しずつ変化が現れはじめていた。あれほど熱かった空気が目に見えて急激に冷えていく。協力者や賛同者は日に日に減って、盛り上がっていた話もどんどん先細った。

なぜそんな風になってしまったのか富田には皆目検討もつかなかった。そこには特別待遇の一匹狼に対する大組織に特有の“アレルギー反応”があったのだ。

(次回予告)

サニー、そしてスカイラインと日産とのコラボレーションは順調に進み始めたようにみえた。富田には日産との協業をきっかけにしてトミーカイラを大きく育て、夢工場でオリジナルカーを造るという夢があった。人・金・モノ、すべてに圧倒的な大企業のなかでトップダウンの特別待遇を得て奮闘する富田だったが、そこには落とし穴がいくつも待っていた。

文・西川 淳 編集・iconic

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  • W201・W124はそれまでのメルセデスの一つの到達点であり30年以上経った今でも変わらぬ普遍的な魅力と個性がある。それはエンジンパワーや豪華さ、快適では推し量れないものがあると思う。雨が幸いしたこともあろうがヤクザと思われる数台の大型メルセデスとのエピソードは面白かった。
  • E30 E34はトミタ物と言われるハルトゲと本国のハルトゲには性能面で大きな差があった。本来走りに特化した硬派なメーカーだが軟派ものとのコラボにより少し違ったイメージがついてしました。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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