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あんないいミニバンなかったのに…… オラオラ顔の圧に消えた天才タマゴ「エスティマ」の30年

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あんないいミニバンなかったのに…… オラオラ顔の圧に消えた天才タマゴ「エスティマ」の30年

 日本にまだミニバンという言葉が定着していなかった1990年。トヨタが革命的なミニバンを発表する。米国名はプレビア、日本名でいうと「エスティマ」である。

 鼻先からリアエンドまで、ワンモーションの曲線で繋いだ美しいフォルムの中に広々としたキャビンを実現し、ハイブリッドシステムなどもいち早く取り入れてきたミニバンの巨人。

あんないいミニバンなかったのに…… オラオラ顔の圧に消えた天才タマゴ「エスティマ」の30年

 ところが世間でのオラオラ顔の台頭には勝てず、2019年に生産を終えた。いまでも中古車市場で根強い人気を誇る天才タマゴの30年を、クルマ史に詳しい片岡英明氏に振り返ってもらった。

文/片岡英明、写真/トヨタ自動車、ベストカーWeb編集部

1ボックスの限界から生まれた稀代のLクラスミニバン

1990年から2020年まで、3世代、およそ30年にわたって販売されたトヨタ エスティマ(写真は3代目のエスティマ ハイブリッド)

 昭和の時代、クルマ好きでさえ「ミニバン」という言葉を知っている人は少なかった。このジャンルの開拓者は、アメリカのクライスラー(現・スティランティスN.V.の1ブランド)だ。ビッグバンより少し小さいマルチパーパスカーのダッジ・キャラバンとプリムス・ボイジャーをミニバンと呼んで売り出した。

 日本にも日産プレーリーや三菱シャリオといった乗用車ベースのマルチパーパスカーがあったが、世界に通用するサイズではない。

 1980年代までの昭和の時代の主流は、キャビンと荷室を広くできる食パンのようなキャブオーバースタイルの1ボックスだ。商用車だったが、これを乗用のワゴンに手直しして販売した。だが、背が高く、ホイールベースも短いから風の影響を受けやすく、高速走行ではフラフラする。静粛性と乗り心地も悪い。

 1ボックスの限界を感じたトヨタは、北米で大きな伸びを見せているミニバンのジャンルに注目した。

 そして生み出したのが「エスティマ」である。平成を代表するミニバンにのし上がり、3代、30年にわたってミニバン市場をリードし続けた。販売好調なエスティマを倒そうと、日産はエルグランドを、ホンダはエリシオンを、マツダはMPVを、三菱はグランディスを刺客として送り込んでいる。

 90年代半ばからライバルメーカーが本気で開発に取り組むなど、Lクラスのミニバン市場は大きなマーケットに成長した。その基礎を作り、根付かせたのが「エスティマ」だ。

エンジンは床下に75度傾けて搭載!

1990年に登場した初代トヨタ エスティマ。タマゴのように丸みのあるデザインで「天才タマゴ」のキャッチフレーズが使われた

 トヨタがエスティマの基礎研究と開発に乗り出したのは1983年(昭和58年)である。最初はハイエースの後継ワゴンとして企画され、コードネーム「1BX」と名付けられた。

 これが「エスティマ」開発へと発展し、84年にはカリフォルニアのCALTYでデザインの検討に入っている。デザインテーマはタマゴのように丸みのあるデザインだ。個性的な球面ボディを採用し、正式発売後には「天才タマゴ」のキャッチフレーズが使われた。

 パッケージングは、キャブオーバースタイルの商用1ボックスのノウハウとワゴン設計で培ってきた技術力を融合し、どの席でも快適に座ることができる。

 ボディサイズは、北米市場をメインに置いて決められた。紆余曲折はあったが、最終プロトタイプは年号が平成に変わった89年10月に開催された第28回東京モーターショーでベールを脱いだ。北米向けの左ハンドル車を展示したので海外名のプレビアを名乗ってのデビューだった。

 ショー会場で話題をさらい、90年5月に日本仕様が発表されている。正式車名は「エスティマ」だ。

 短い鼻を持つ1.5ボックススタイルのボディは全幅を1800mmとした3ナンバーサイズで、安定感が際立っている。全長は4750mmだった。また、エアロダイナミクスにも力を入れ、Cd値は0.35を達成している。

 インテリアも未来感覚にあふれていた。インパネの両端を大きくラウンドさせ、メーターはタマゴ型デザインだ。シート配列は3列で、フロントシートの間から2列目の席へウォークスルーできる。

 新世代のマルチサルーンを掲げたエスティマのパワーユニットは、新開発した2.4Lの直列4気筒DOHC(ハイメカツインカム)だ。これを中央のフロア下に75度傾けて搭載した。画期的なアンダーフロア・ミッドシップの採用により、軽快なフットワークを実現している。

 4輪独立懸架の採用と長いホイールベースの採用もあり、優れた乗り心地も手に入れた。ブレーキは4輪ともベンチレーテッドディスクで、ABSも標準装備だ。

 92年1月に全長と全幅を詰め、日本の小型車枠にダウンサイジングしたルシーダ/エミーナを投入。2.2Lのディーゼルエンジンも追加する。これに続き、エスティマにスーパーチャージャー仕様を設定した。

 エスティマと、子エスティマと呼ばれたルシーダ/エミーダは99年12月まで10年にわたって販売を続け、ルシーダ/エミーダは最盛期には月に2万台の販売を記録している。エスティマだけでも16万台を超える販売を記録し、日本にミニバンブームを巻き起こした。

ハイブリッドシステムをいち早く採用した2代目

2000年に登場した2代目トヨタ エスティマ。各所に初代モデルの面影を残していたが、メカニズムは一新され前輪駆動ベースとなった

 2代目は2000年1月に登場する。北米向けモデルとルシーダ/エミーナは整理されたが、随所に大ヒットした初代モデルの面影を残していた。伸びやかなワンモーションフォルムを採用し、スライドドアは両側に装備する。メカニズムも一新し、前輪駆動ベースとなった。

 パワーユニットは3LのV型6気筒が主役だ。遅れて2.4Lの直列4気筒ハイメカツインカムが加わり、2001年6月にはプリウスに続いて革新的なハイブリッド車を設定する。

 スタイリッシュなエクステリアと視認性に優れたセンターメーターに加え、キャビンは広々として快適だ。パワーユニットも多彩だから引っ張りダコの人気車になっている。

 THS-Cと呼ばれるハイブリッドシステムに世界初の電気式4WDシステムのE-Fourを組み合わせたハイブリッド車の投入も、エスティマ人気を後押ししている。

 カローラ、ヴィッツとともにトヨタの躍進に大きく貢献し、月販1万台を超えることも珍しくなかった。モデル末期まで安定した人気を保った2代目エスティマは、トヨタを代表する名車にのし上がっている。

 ミニバンブームをけん引した3代目エスティマは2006年1月に登場した。エクステリアはキープコンセプトのデザインだが、2代目より精悍なフォルムだ。エンジンは3機種あり、V6エンジンは3.5Lまでスケールアップされている。

 2.4Lの4気筒は自然吸気が最初に登場し、モーターを加えたTHS-IIハイブリッドシステム搭載車が遅れて加わった。

 燃費がよくなったし、環境問題を意識する人も増えたため人気が上昇している。また、1500Wの電源供給を可能にするAC100Vのアクセサリーソケットも、2011年3月の東日本大震災で注目を集め、人気にひと役買った。

発売10年目にまさかのビッグマイナーチェンジ!

2006年に登場した3代目トヨタ エスティマ。登場から丸10年経った2016年に大がかりなマイナーチェンジが行われた

 そして驚いたことに、3代目エスティマは登場から丸10年になった2016年6月に大がかりなマイナーチェンジを行い、内外装を化粧直ししたのである。

 フロントマスクとリアまわりのデザインを一新し、エアロ仕様のアエラスだけに絞り込んだ。インテリアも新デザインのメーターや大型センターコンソールを採用し、華やかさを増した。

 パワーユニットはV型6気筒が整理され、直列4気筒DOHCだけに絞っている。サスペンションにもメスを入れ、一部グレードにはパフォーマンスダンパーを採用した。また、衝突回避支援システムと車線逸脱警報に代表されるトヨタセーフティセンスCや新世代UVガラスも標準装備する。

 大幅なテコ入れによって3代目エスティマは魅力を増し、再び息を吹き返した。Lクラスのミニバン市場は、キャビンの圧倒的な広さと豪華さを徹底的に追及し、オラオラ顔を誇示するアルファードとヴェルファイアが我が世の春を謳歌している。押しの強さと広さがウケ、販売は絶好調だ。

 エスティマのキャビンはそれなりの広さにとどまる。だが、清楚なデザインと上質な走りを武器に、エスティマは長く好評を維持し続けた。

 とは言っても基本性能に古さが見られるから、延命措置は長くは続かない。早晩ジリ貧になることは分かっていたが、モデルチェンジには多額の開発費が必要になる。

 アルファードとヴェルファイアは破竹の快進撃を続けていたから、トヨタはエスティマの役目は終わったと判断した。そこで大ナタをふるい、エスティマを切ってしまったのだろう。

 ミニバンの革命児で、日本の自動車史に深く刻まれる名車。それが3代のエスティマだ。

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みんなのコメント

17件
  • オラオラ顔とかって関係ないから。
    バカな奴は軽に乗ろうがコンパクトカーに乗ろうが、いまだに煽り運転してくるし。
    はっきり言えることは、黒のアルファードは高確率でバカが多い。
  • ヴェルファイア、ヴォクシー廃止にしてエスティマ残しでも良かったと思う。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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